帰還
第53話
また気が急く僕をよそにまあは相変わらず呑気だ。
「あとギフ周って一旦振出し、いよいよナガノだね」と言うと、「シガがあるよー。わたしビワコ行きたかったんだー」
このころから少し僕らに、正確には僕の元妻の記憶とまあの言動に少しずつズレが生じていた。
(あれ?元妻の元彼は滋賀出身だった筈だけど、僕の記憶違いだろうか?)ちんこが勃たないせいで細かい事が気になってるんだろうか?
いずれにせよ、そんなにすべて一致したら逆に小説みたいだ。小説だけどね。
カスミガウラもそうだったけど、ビワコは控え目に言っても池だった。しかしそこではフナが飼われ、鮒鮓の伝統が守られていた。
僕はうれしくて、昼間から日本酒を飲んだ。
僕があまりにも幸せそうに食べるのを見て、まあも一口。
「すっぱ!」
顔のパーツを全部真ん中に寄せて眉から口まで全部八の字に皺くちゃにして、熱くもないのに口もとを手で仰いだ。
それからビールを流し込み、二度と鮒鮓には箸を伸ばさずに稚鮎やモロコ、えび豆なんかをつまんでいた。
酒に弱いまあが眠ってしまうと、なんだか悔しくなって乳首をつねってやった。
「やめなさい」酩酊、寝言みたいなまあのひとことに涙が堰を切ったように溢れて、まあを車に残して池の畔でひっくひっく泣いた。
ひとしきり泣いたあと、またひとりで飲んだ。
吐いてはまた飲んで、一升瓶を空にした。
日本酒を 飲んでいる 弱音吐いて げろ吐いてー
苦し紛れに夜をー 夜を拾ったあー
yeahもお 心配ないのさー ほっといていーよ
また、涙が溢れた。
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