第43話

フクシマ、ニイガタ、トヤマ。

ゆっくり南下しノトへ。 

僕の時代の能登半島を模して申し訳程度に張り出していた。この時代の観光地もリゾート特区も僕からすれば箱庭みたいに再現されたニセモノで、あまり楽しめなかったけどガイドブック片手にはしゃぐまあがかわいくてそれが嬉しかった。

だから僕らはノトは周らずカナザワの名所ケンロクエンへ向かった。

しかしケンロクエンの再現度は低かった。ニッコウもそうだったけど、木材が稀少なこの時代では木造建築は不可能で、もっぱら床や壁材として高級感を醸す為に木材が使われていた。

それでも「これが学校で習ったケンロクエンか。

「初めて来たわ!そんなに遠くなかったけど、お金なくて旅行なんて出来なかったから」

そうか、海沿いじゃなくて次のフクイのリゾート特区の山を南下したらギフ。すぐ隣はナガノだ。

また先を急ぐみたいな嫌な気分が足元から心臓に届く前に、まあちゃんの鼻をきゅうっとつまんで「あ、ごめっ…」我に返るまあの左手を引っ張ってベンチから立ち上がり、早足でずんずん歩き出した。

「ねえ、怒ったの?ごめんね!」「ねえ、ねえったら!」立ち止まり、振り返るとまあは泣きそうな顔してた。

「幸せだね、まあちゃん。僕らふたり、時間に縛られずに、ゆっくり旅をしてる。ごはんは食堂、風呂は温泉、洗濯はランドリー。歳をとってやっと、そんな時間を手に入れたんだ。だけどそのうちまた、例えばまあちゃんの娘たちに子供が出来たりしたら、また忙しくなっちゃうんだ。嫌いな言葉だけど、僕はラッキーだよ。まあちゃんの人生のいちばん長い隙間を一緒に居られるんだからさ。だからゆっくり、ゆっくり進もう。まあちゃんガイドブックのトットリのとこばっか見てわくわくしてるみたいけど、おあずけだよ」まあはまた酷く嬉し泣きして、鼻をかんだ。

屋台を見つけた。

焼きそばにじゃがバター。

懐かしくてふたりそれに缶ビール。

プロジェクターの夕焼けのもと、ふたり馬鹿みたいに「あーんして」と食べさせ合って、ずっとそこに居たかった。

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