第39話
その夜深夜に独り目を覚ました。普段こんな時に小説を書いてるんだけど、取り掛かってもなかなか進まない。まあ、iが想念を読み取って文章化したものをトレースするだけだから何の事は無いんだけど。眠る前のセックスの事は、なんだか書きたく無かった。ああ、そうか。無自覚だったけど、僕が先を急いだのはネタを求めてたんだ。焦っていた。この呑気な旅の原資は僕の小説の収入かまあの貯金だ。まあの貯金は減らしたくない。そしたら僕が書くしかない。この時代にエロ小説は斬新ではあるけど、それでだけでは飽きられる。
ふと隣のまあの寝顔を覗く。また口開けてる。
「のんきだなあ」フッと笑いながら呟くと、「えっ!なに?!なになに!」一瞬びくり、むにゃむにゃ、寝言。寝言まで似てるや。
車を出てひとり、リゾート特区には季節が再現され山を望む。プロジェクターの月に星。
僕はなんて不確かに生きているんだろう?
だけど思えばいつが確かなんだろう?
確かなものなど何一つ無い、事すら確かじゃない。
本当に明日は来るのだろうか?
本当に過去は、あったのだろうか?
不安、いや違う。
すごく幸せだ。
けれども、確かな事はみんな死ぬ事だ。
それだけだ。
死ぬんだ。
死ぬしか、ないんだ。
そうだ、死んじゃおう。
死ぬ…、がくん
腰に縋りついたまあがぶんぶん首を横に振って泣き叫んでる。
ふたり、崖っぷちに倒れ込む。
「ダメだよ、ダメ」まるで我が子を諭すように優しいまあちゃん。「ん?まあちゃん?起きたの?」「ばかあ!バカバカばかあっ!」まあちゃんは膝からへたり込んだ。笑ってなかった。
「酒でも飲もっか」
僕がそう言うと、まあは黙って小さく頷いた。
車からは二キロ近く歩いていた。
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