第26話

着のみ着のままという訳にはいかない、という事で、まず僕の部屋に立ち寄り衣服や生活用品、インスタント食品を積み込んだ。

それからまあのアパートへ。3Fの部屋へ階段を上がり入ったその部屋は3LDK。ここにひとりは寂しかったろう。

「この春にいちばん下の娘が短大終わって就職して出て行ったばかりなんだ。2人になった頃から広すぎたんだけど、さすがに一人でここに居ると寂しくなっちゃって…。ちょうど母が施設に入っちゃってマンションが空いてるから、こっちは引き払ってそっちに引っ越す準備してたとこだよ。だから、ナイスタイミング」

そう言って親指を立てた。

出て行った子供たちの痕跡はきれいに片付けてあって、LDK以外はがらんとしたただの部屋にまとめた荷物。僕らはそれらを運び出しては引っ越し先のマンションに運び込んだ。

作業は一日で終わり、役所に転居届けを出した。僕の住所もそこに移してとりあえずその日は一段落。

「ごくろうさま。娘の引っ越しの時あなたと知りあってたら良かったわね。大変だったんだから」

ふう、とため息をついて、ふたり届いた出前で腹ごしらえ。「引っ越しといったら出前だよね!ごめんね、疲れちゃった。明日の朝からごはん作るからね」

「ううん、急な居候だからね。さて、これからどうするかだね。まあちゃん、ここで暮らすつもりだったんでしょ?仕事とか、身辺整理もあるだろうし」

「実は仕事も辞めてあるんだ。もう歳だし、ずっと頑張って来たからこれからは気楽にパートでもしようかなって。それでここでのんびり暮らすか、それとも…」

「それとも?」

「ううん、なんでもないんだ。なんでもないの」

なんだか自分に言い聞かせてるみたいだった。

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