妹の霧亞はとても可愛い
縁代まと
妹の霧亞はとても可愛い
妹の
両親は「子供がおかしい」と気味悪がって、いつ頃からか帰ってこなくなったが、俺からすればおかしいのは親の方だ。
霧亞は少し負けず嫌いなところがあるが、そこがまた子供らしくていいのだ。
同じ年代の子と遊ぶのが好きで、今日も公園に連れて行くと見知らぬ子とすぐに仲良くなって色鬼で遊んでいた。
贔屓目もあるかもしれないが五歳ですでに美少女と言っても過言ではない容姿は公園にいる子供たちの中でも群を抜いている。
さらさらの長い黒髪は美しいし、少し色素の薄いヘーゼルの瞳は遠目でも見惚れてしまう。
自分が同じ色の目をしていることが誇らしくなるほどだ。
霧亞にかかれば無地のワンピースもドレスのようで、それを遊び回って汚している様子があどけなくてニコニコしてしまう。
カメラを持ってくれば良かったかもしれない。
そう見守っているといよいよ色鬼が佳境に入った。
俺は集団で遊ぶのが苦手だったので色鬼をしたことはないが、ルールは知っている。
鬼から逃げながら指定された色を探し、その色をしたものに触れている間は捕まらないというものだ。
ただし逃げる側は同じ物をシェアして触れることはできない。
そして範囲を広くしすぎるとゲームとして成り立たないため、普通は一定の敷地内から出てはいけないことになっている。
今回は『逃げるのは公園内だけで』という縛りがあった。
遊具が豊富なため様々な色があり楽しそうだ。
ただし逃げる人数が多ければそのぶん色が足らなくなることも多い。
今がまさにそんな状況で、霧亞は目の前で他の子供に目当ての色を奪われて困惑していた。
鬼が挙げた色は『赤色』だ。
ブランコの座る部分や捨てられていたボトルキャップ、立て看板の文字などが該当するが――他には見当たらない。あとは鬼から逃げ回ることしかできないわけだ。
霧亞はオロオロとしていたが、いいことを思いついたのかパッと笑顔になる。
そして落ちていた石を握り、看板に触れていた子の頭を思いきり殴りつけた。
途端に流れ出た血が霧亞の手を濡らし、辺りがシンと静まり返る。
そんな静かな公園に嬉しそうな声が響いた。
「ずーっと赤だから、無敵だね!」
石で殴られた子はしばし呆然としていたが、我に返ると大泣きしながら逃げ出す。
その声で他の子供も我に返ったのか一斉に駆け出した。
「霧亞……」
俺は震える足で霧亞のもとへと近づく。
霧亞は皆の反応が意外だったのか「あれ?」としきりに首を傾げていた。それがとても……とても可愛くて、俺は服が汚れるのも構わずにぎゅっと抱き締める。
「凄いじゃないか、霧亞! 赤色がなかったから自分で作ったんだな!」
「! うん、しかも無敵無敵っ! ほら!」
突き出された真っ赤な両手を握り、うんうんと頷くと霧亞は満面の笑みを浮かべた。
天使のような笑顔、向日葵のような笑顔、太陽のような笑顔、そういった類の笑みだ。いつ見ても可愛らしい。
しかしお友達は全員帰ってしまった。このままじゃお昼ご飯を食べられないから、綺麗に洗ってから帰ろうかと提案すると霧亞は素直に頷く。
そうして公園の水道で手早く両手を洗い、霧亞を肩車して家路についた。
遠くから騒がしい声がし始めたが、霧亞がこんなにも可愛くて賢い尊さを噛み締めることのほうが重要だ。
「おにいちゃん、きりあ、オムライスが食べたいなぁ」
「ケチャップを思い出しちゃった?」
「うん!」
「あはは、俺もだ。うんと大きいオムライスを作って食べようか」
そう言うと霧亞は「おにいちゃん大好き!」と俺の頭を抱き締めた。
――妹の霧亞はとても可愛い。
両親は「子供がおかしい」と気味悪がったが、兄の俺にとっては素晴らしい存在だ。
その素晴らしさを更新できた今日という日を記念日にしたいくらいである。
そんな幸せを噛み締めながら、俺たち兄妹は笑いあった。
妹の霧亞はとても可愛い 縁代まと @enishiromato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます