後来:確認は大事
『そう言えば、「第二候補」が連れて帰った異界の神の分霊って、レーンズだったんですよね? 何が条件だったんですか?』
『何でも、儂の剣さばきが「見えなかった」かららしいぞい。割と緩く振ったんじゃがのう』
どうやら目に関する能力に大きく偏っているレーンズをもってしても「見えない」行動をとるか物を持っている事が条件だったようだ。
という雑談から派生して、どうやらレーンズ(分霊)は『アウセラー・クローネ』新生クランハウスアトラクション部分の一部に常駐しているらしく、そこまで辿り着ければ加護や祝福が貰える可能性があるほか、眠っている才能や適性を「みて」貰えるって事で、割と人気になっているらしい事が分かった。
なおその話を振って来たのは、興味を引いてうちの子を連れた私に突入して欲しいからだ。何故なら突入する=戦闘出来る可能性があるって事だからな。
「ところで姫さん」
「大丈夫です。迷路の中は戦闘禁止ですから」
「主」
「……希望者は迷路の上に行ってもいいですが、無理はしないように」
「ん!」
まぁ自分から希望して、心から楽しめるんならいいんだけど。と、早速壁を蹴ったり【飛行】を使ったり空気の足場を設置したりして、迷路の上……戦闘可能エリアに向かった数名を見送る。
敷地がほぼ全部迷路になっているし、自走式の壁がうろついているから構造は常に変わっているしで踏破の難易度が地味に高い「第二候補」のエリア。まぁ迷路の下は戦闘禁止エリアだから、迷子になるぐらいは難易度として妥当なんだが。
頭上から聞こえてくる戦いの音はいつもの事なので、聞き流しながら聞いていた方向へと向かう。なおここは特殊加工が施されていて、地面にはびっしり、「触れていると地図が使えない」「怪我が治る代わりに麻痺が積み込まれる」効果のタイルが敷き詰められていたりする。
「まぁ地図は使えたところで、リアルタイムで組み代わる迷路を常に把握できる訳ではないんですけど」
「難易度が高くないか……?」
「この迷路の踏破か、迷路の上を戦闘しながら通過するというのが試練であり、ここのエリアの施設を使う為の条件ですからね。戦わなくてもいいという条件があるだけ加減はさせてます」
「……。させて? してじゃなくてか」
「させました」
させた、なんだよな。何しろ最初は何も無い上に固く締まった平地しか無くて、そこにぽつぽつ建物があるって場所だったから。そして全域が戦闘可能。
まぁでも今回は場所が分かっているし、急ぎの用事って訳でもない。しかもこの迷路は大勢で通る事を想定しているから、普通に馬車が使える。なおかつ時間がかかる前提でもあるので、割とちょいちょい宿がある。
自前の馬車があるから、キャンピングカーみたいにした馬車ならその辺も快適だしな。ぶっちゃけただのピクニックだ。上からの戦闘音と戦いを望む視線がうるさいだけで。
〈……んっの……!!〉
で、辿り着いたのはいいんだが。
〈馬鹿!! 大馬鹿!!! おっまえ、俺に試練の権利があったら難易度3倍増しの上天罰だぞ!? こん、おま、くっそ!!〉
レーンズ(分霊)がいる部屋に入って、幽霊のように半分透けてるレーンズがこっちを見た瞬間、滅茶苦茶に怒り始めてしまった。なんで? と思っている間に、語彙を無くすぐらいにキレ散らかしていたレーンズ(分霊)は、言語か不可能な唸り声を上げて頭を抱えてしまった。えぇー?
とりあえず、固まった状態で怒られまくったので誰に対する怒りか分からない。試練の権利、というのは聞き取れたから、誰かが受けるべき神の試練をすっぽかしていたんだろうか? と思ったので、そこそこ広さがある部屋の中に散らばってみた。
それぐらい動けばレーンズ(分霊)も誰に対して怒っているのか伝わっていない、と理解してくれたらしく、大きく息を吐いてから深呼吸して、ちょっと落ち着きを取り戻したようだ。
〈お前! 目に関する試練を何年すっ飛ばしてる!? 今すぐ受けに行け! とっくに成長限界だこれ以上試練を受けずに伸ばせる実力なんか残ってないんだよ! 最近物が二重に見えてるだろうが!? 特に戦闘時の動き!〉
「は? 俺?」
〈そうだよ!! つーか、お前も! お前もお前も受けるべき試練を受けてないな!? 揃いも揃って何をしてんだ何を!?〉
落ち着いた分だけ語彙が戻ったレーンズ(分霊)が再びビシィッと指差したのは、エルルだった。なおその後、ルウとメイドさんとカバーさんが指差されていたが。
「エルル、物が二重に見える事についての心当たりは?」
「…………聖地が解放された後辺りから、時々動きがブレるというか、先読みにしてはやけにはっきり見える事があったが」
〈それがもう成長限界の証なんだよ!!〉
心当たりはあったらしい。聞いてないが?
……ちなみにこの後、首都の神殿にエルルを連れて行って確認してもらったところ、どうやら「見切り系の魔眼(生まれつき)」の封印があったらしい事が判明した。
そこからシュヴァルツ家の先々代当主=エルルの父親、ではなく、その奥さんであるエルルの母親に話を聞いたところ。
「見切りの魔眼があると、その力に頼りきりになって、自分の目の力が育たないって言われたのよ。魔眼は使い過ぎると失明するかもしれないし。……あら? 言って無かったかしら?」
なおエルル自身は珍しく首を何度も横に振っていたので、マジで聞いていなかったらしい。
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