後来:侵食する緑・後

 で、いつもと違って畑仕事で使うあれこれを準備して、そのままうちの子勢揃い状態で分霊世界に突入。問題の場所に移動したんだが。


「……半ば飲み込まれたという町が、完全に飲み込まれていますね……」


 何というか、これは酷い。見る限り一面緑の蔓だらけなのは予想していたが、それがうねうね蠢いてどんどん広がっていくのは、こう、生物的だな。いや植物だって生き物ではあるんだが。何かの群れっぽいというか。蔦だから軟体動物っぽいというか。

 既に大勢の召喚者プレイヤーが除草ならぬ徐蔓作業をしているが、どうやら芋が出来ているとそこから芽が出て蔦が伸びるらしく、単に蔓を千切るだけではダメらしい。地面から掘り返して、芋ごと回収しないといけないようだ。

 しかもサツマイモだからか、千切った蔓をその辺に放ってしまうと、そこに根を張って芋を付けて蔓を伸ばすんだそうだ。どれほど生命力が高いのか。


「で、これどうするんだお嬢」

「端から蔓を切って芋を掘って、つまり収穫していくしかないでしょうね」

「……この範囲を全部か?」

「だから人手が必要なんでしょう」


 ちなみにそうやって観察している間もわさわさサツマイモの蔓は伸びているし、召喚者プレイヤーとその仲間は集まって来ているし、作業は進んでいる。進んでいるように見えないのは、蔓の伸びる速さが早すぎるせいだ。

 まぁでも、伸びる速さだけの問題なら、頭数が増えればその内処理速度は追いつくだろう。という事で、私達も参加


「え」


 しようと思って、蔓に近づいたんだが……。

 魔視でみえた範囲だと、たぶん私の種族特性だな。それの範囲に蔓が入った途端、にょんっといきなりこっちに伸びて来るとは思わなかった。

 まぁもちろんその瞬間にエルルが私を抱えて下がってくれたから、私が捕まるって事は無かったんだが、え、ちょっと待て。


「……私の種族特性に反応するとか聞いてないんですが……」

「やっぱりそういう事なのか」


 いや。いやまぁ。私の種族特性が強化するのは、善あるいは中立の属性を持つ存在だ。美味しいだけのサツマイモが悪属性だったら逆に怖いし、何もしてない状態でもわさわさ動いて見える程の成長速度があるなら、強化されたらそりゃ一気に伸びるだろうって話なんだが。

 参ったな。この分だと領域スキルを展開しても同じことになりそうだし、少なくとも私は近づけないぞ、これ。


「家というか建物は石で出来ていた筈ですし、石に根を張って芋をつけるとなると、地面を凍らせても無理矢理割って根を張りそうですね、これ」

「思ってたのより数段厄介だったな……」


 これもう周辺被害とか言ってられる場合じゃないのでは? 大規模魔法で地面そのものを引っ繰り返して宙に浮かせるぐらいはしないと、無限増殖は止まらない気がするんだが。

 もちろんサツマイモそのものの収穫を諦めればいくらでも方法はあるんだし、そこを諦めないから今こうやって困ってる訳なんだが。というか、ここまで蔓が伸びたら芋部分も痩せて美味しくなくなると思うんだが?

 ……え、美味しいの? どころか蔓を千切って、そこからまた蔓が伸びた部分の芋も太くて美味しい? どうなってんだ。だってこの辺まだ、全然土地の力が戻ってない場所だろ?


『現在この場所に集まっている皆様に、全体連絡です!』


 どういうことだ……? と思いつつ、それでも出来る事として蔓と戦って……いや、サツマイモの収穫をしている召喚者プレイヤーと住民にバフをばら撒いていると、聞き覚えのある声が響いた。司令部とかをやってた人の声だ。つまり最前線で積極的に動く方の元『本の虫』組だな。


『今回使用された品種は「豊穣黄金」と言い、光合成による養分生産に特化した対荒野用土地改良品種だと確定しました!』

「またすごい物をどこかの誰かが作ってた訳ですか……」

『丹念に耕して堆肥、魔法肥料、化学肥料を存分に鋤き込んだ上に液体肥料を撒き、土地回復と豊穣の祈りによる雨を願い、土地そのものにも豊穣を権能に持つ神の祝福をかけた畑に「豊穣黄金」を植えたところ、相乗効果で爆発的な増殖が発生したとの事です!』

「どうしてそこまでやってしまったんですか?」

『なお「豊穣黄金」の大元と思われる蔓及び芋の一部を回収したところ、太陽光と水がある限り増殖を止められないと判明! また品種としての変質も確認された為、これを新品種「緑埋黄金」と命名し、太陽光を遮断して増殖を抑える作戦を実行したいと思います! ご協力いただける方は以下の座標に設置した作戦本部にお立ち寄りください!』


 どうやらそういう事だったらしい。豊穣通り越して全てを緑に埋めるか。まぁその通りなんだけど。とりあえず見える範囲では。

 いやぁ、過ぎたるは猶及ばざるが如しっていうのは、本当にその通りだなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る