後来:侵食する緑・前

 後に、犯人は語った。出来心だったんです、と。



 さてその日も私はコトニワ世界を探索、ではなく、探索の為に必要な「異界の鍵」を集める為に、底なしダンジョンに潜っていた。野良ダンジョンのクリア報酬でも手に入るんだが、難易度が高い分だけ連続クリア出来るこっちの方が早い。

 分霊が来ていた大神の加護のお陰で、どんなに深く潜っても大神の加護は阻害されない。という事はつまり、大神の加護を分け与えた状態テイムした状態なら問題なく動けるって事だ。

 つまりうちの子全員で動ける。しかもどこかでアップデートが入ったのか分霊だった大神の気遣いか、突入人数に応じた大きさに空間が広がるようになったんだよな。その分だけ敵も罠も多くなるんだが、私達の場合は人数が多いメリットが勝つし。


「ん? 元『本の虫』組から全体連絡……?」


 という事でわいわいと楽しく「異界の鍵」を集めていた訳だが、そこでクランメンバー専用掲示板に全体連絡が書き込まれた。しかも書き出しの辺りに元『本の虫』ネットワークからの連絡だと書いてある。

 何事? と思いつつ読み進めて見た結果。


「……。はい?」

「どうした、お嬢」

「姫さん、何かあった?」


 流石に私でも予想外というか、何がどうしてそうなったというか、よく分からない内容でだな。ざっと読んでもう一度読み返したが、控えめに言って意味が分からない。

 だが元『本の虫』組経由で回って来たのなら、これは事実であり対処が必要な事だって言うのは確定なんだろう。確かにこれが本当なら、私達も参加した方が良いには違いないというか、ちょっとでも手が欲しいだろうし。

 つい声が出てしまったことで、最前線で戦闘中以外のうちの子も私に意識が向いたようだ。なら説明した方が良いな。と思いつつ、三度目の読み返しをしながら内容を読み上げる。


「全体連絡が届きました。それもクランではなく、出来る限り大勢の召喚者プレイヤーに向けてのものです。それによればどうやら、分霊世界で大規模な異常が起こって、人手を必要としているとの事で」


 分霊が来ていた大神の世界、を略して分霊世界である。まだ腹ペコは直っていないらしい。まぁそうだな。あの世界、まだ土地の力が全体的に足りないもんな。今も土壌改良出来るところはやっているし、土地を回復させる恵みの雨とか設置型のお札とかはよく売れている。

 あの世界の異常、という事で、うちの子に緊張が走る。まぁ、うん。そうだな。警戒は分かるんだが。


「ただその異常というのがですね。どうも、サツマイモが異常繁殖して、ものすごい範囲をその蔓で埋め尽くしているというものらしく」

「……。サツマイモ? あれか、蔓で増えてお嬢が焼き芋にこだわってた」

「あれ美味しいよね」

「でも、サツマイモなら何も問題ねーんじゃないっすか? あれって確か、飢饉対策になったっすよね?」


 警戒が、うん? という疑問にとってかわる。エルルの覚え方とか即行でサーニャの思い出し方とかはあれだが、まぁ、フライリーさんの感想が正しいだろう。そう。単に豊作って事なら何も問題は無い。

 だが。


「流石に森1つ、村3つに加え、そこそこ規模の町を半ば以上飲み込むって言うのはちょっと急いで止めないといけないかなと……」

「思ったより規模がヤベーっす!?」

「なんか変な変異とかしてないだろうな……?」

「とりあえず今の所、ものすごく芋が生る速度が速いだけでただのサツマイモだそうです。特に人間を襲うという事も無く、家の屋根や壁にまで根を張って芋を付けるだけで、巻き込まれた範囲の人も全員生きてはいるようですね」

「家を壊してるならそれはもう普通に攻撃していいんじゃないの?」


 うん。ちょっと流石にこれはおかしいんじゃないかなって思ったんだが。


「分霊世界ですからね……家に根を張られて壊されても、その分こっちで美味しさを高められたサツマイモが食べ放題なら、まぁいいかという感じの空気があるらしく……。その、誰も脱出しないんだそうです」

「……まぁ、それなら、巻き込みとか考えると、地道に対処するしかないか……」


 今度は誰が何をやらかしたんだろうな?

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