幕間:銀鏡の像
「ん?」
それを見つけたというかそれに気付いたのは、端末でネットのあれこれを流し見している時だ。私はリアルとゲームを分けるタイプだが、大学に上がってからは本を読むより、端末を流し見している方が目立たないと気付いたからな。
それはある配信者の動画だったんだが、フリアドについても触れていたから時々チャンネルを覗きに行っていたところで『重大告知!』と強調された文章が目に入ったのだ。
何だ? と思いつつ次回配信の予告らしいその内容を見ると、どうやらフリアドの公式マスコットとのコラボをするらしい。まぁ、南北の大陸攻略も、恐らく前半戦は既に佳境だ。公式マスコットも増えてきてるし、その内の誰かだろう。
「……?」
そこについているコメントをざっと見た限り、どうもかなりの大物らしい。前からにおわせはしていたようで、やっとか、とか、ようやくかよ、とか、そういうコメントがかなりある。
まぁそういう事もあるかもな、と思いつつ、この佳境の忙しい時に余裕のある人もいるもんだな~なんて思いつつコメントを閉じようかと思ったんだが。
『ねぇ今回あの方ってほんと?』
『名前を言ってはいけない……じゃなくて。
どの方?』
『楽しみにしてたー』
『始まりの公式マスコットとは聞いてる』
『噂だろ?』
『マジらしい』
『嘘だよ』
『どっち???』
『動画見ればいいんじゃね』
『宣伝乙』
みたいな流れが見えてな。
始まりの公式マスコット、とは? ……とまでは流石に言わないが。何しろ、私を含む『アウセラー・クローネ』のメインメンバーの事だからな。その後のグッズ展開を見る限り。
まぁだから余計に、公式マスコット=
「(ありそうなのは「第四候補」か?)」
とか思いつつその日はそのまま帰って夜のルーチンという名の日常を過ごし、さて今日も生産作業だとログイン。
クランメンバー専用掲示板を確認しても特にそれっぽい話が無いのを確認して、まぁリアルの事だもんなと何の情報もない事には納得して、プレイベートスペースに設置した生産作業部屋に移動。
作る物を確認しながら部屋に入ったら。
「あれ!? 先輩がいるっす!?」
「いますが……」
何故か猛烈な勢いでお菓子を作っていたフライリーさんが手を止めて、そんな事を言った。え? どういう事? 別におかしい時間じゃないよな? いつも通りの筈だが? うん、いつも通りだ。
思わずメニューから現在時刻を確認したが、いつものログイン時間だ。問題はない筈なんだが。と思っている間に、フライリーさんはどこかへメールを送っていたようだ。
「先輩!」
「はい」
「ちょ、ちょっとスクショいいっすか!? あのその、フリアドのスクショだと自動的に撮影時間がくっつくんで!」
「まぁいいですけど……作業服だとあれですし、いつもの装備でいいですか?後は背景……この壁なら場所は分かりにくいですかね」
「っすね! はい、そんじゃチーズ!」
にこ、と皇女スマイルでスクショに映ると、フライリーさんはそれをどこかへ送信したらしい。しかし一体何が起こっているのか。
と、ここで作業着に戻りつつ私の頭の上に「?」が浮いている事に気付いたらしく、あー……って感じでフライリーさんが教えてくれたことには。
「はい? 私が動画にゲスト出演?」
「まぁ先輩ここにいるんで、偽物っすね。そんでもかなり注目度高いっすし、同接も跳ね上がってるらしいっすよ」
うん。あの、私の所にも流れてきた動画告知。あれの本編でコラボする「フリアドの公式マスコット」っていうのが、
その動画はもうすぐ始まるというか、フライリーさんがスクリーンショットを撮った時点ではもう始まっている筈で、フライリーさんは大急ぎで生産作業を終えて、動画を見に行くつもりだったらしい。
ところがそこに、コラボする筈の私がログインしてきた。今ログインしていて動画に間に合う訳もない。つまり動画でコラボするというのは……となったらしい。
「なんとまぁ、こう、命知らずな」
「本物の先輩と先輩のファンを知ってたらそうなるっすよねぇ……」
誰にメールを送っていたのか分からないが、たぶんソフィーネさんかソフィーナさんか、あるいはカバーさんなのだろう。フリアドのスクリーンショット機能を使うと、その時の時間が自動的に刻印される。これは加工出来ないというか、加工したらすぐ分かる。
フリアドのアカウント管理はかなり厳しくなったので、フリアドにログインしている方が「本物」だ。そして「本物」がフリアドにログインしているのに、外の動画に出られる訳もない。つまり、あのスクリーンショットは証拠だな。
……何が理由かは知らないが、本当に命知らずだな。今頃、盛大に燃えている事だろう。塵も残らないんじゃないか?
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