後来:充実の理由

 異世界探索のほぼほぼ初手で、いきなり要専用設備で甚大な周辺被害を出すザンシであるスリオロシが出現し、それを何とか撃破した後の事だ。

 ザンシの名前は攻撃手段であり倒し方。よって近づくと受ける謎のダメージは「範囲内の全てをすりおろす」という攻撃であり、理屈不明の癖に物理属性の攻撃となる。その攻撃対象が「範囲内の全て」であり、何なら武器と鎧と着用者が別判定なので、受けるダメージは甚大なものになるが。

 その攻撃範囲はギリギリ何とかどうにかなるものだったので、外から罠系魔法をこれでもかと撃ち込んで足止めをして、その間に対スリオロシ専用の大掛かりな仕掛けを作成、そこに押し込んで倒した訳だが。


「倒せて良かったですが、よくまぁあんな物理攻撃耐性の高い巨大設備が、こうも短時間で作れましたね?」


 そもそも、少なくとも私の知っている限りのザンシの中で、スリオロシは相当に倒す難易度が高い奴だ。コトニワ時代は何度か防衛エリアを全滅させられかけた。専用設備を作るのが大変だったから、それまでは金やすりを「装備」したルージュが適宜撤退して回復しながら、文字通り削り切ってくれたのだ。

 倉庫区画を慌てて全力で時間稼ぎをする為の区画に作り替えたのは、流石に何年経とうとも忘れない。実際、今回だって最初の被害と設備を作るまでの時間稼ぎを考えると、簡単だったとは言えないだろう。

 というか正直1度は全滅すると思ったぞ。ザンシは一定範囲に壊せるものが無くなったら再び世界に戻る。つまり消える。だから、このフリアド世界から移動してきてすぐの拠点が瓦礫の山に変わって、召喚者プレイヤーと仲間が全員フリアド世界に戻ったら消える。そうなると思ったんだが。


「あら? ご存じありませんの?」


 わいのわいのと勝った流れで騒ぎつつ、壊れた部分の修復や無理に改造した部分の調節に取り掛かった召喚者プレイヤー達を眺めつつ呟くと、マリーが寄ってきて首を傾げた。うん? 何が?


「この最初の拠点ですけれど、資材を納品したり捧げものをしたりして拡張に貢献した場合、その貢献者の名前が中央の神殿に刻まれるんですの。その一番上に、堂々とあなたの名前がありましてよ」

「……スリオロシ出現と聞いて慌てて飛んできましたから、見てないんですよ」

「特に危険度が高いザンシ相手でしたから納得しかありませんけれど、珍しい迂闊ですわね」


 しかし、拡張に貢献とは。少なくとも私がコトニワ世界こっちに来るのは初めてな筈だし、新生クランハウスと婚約者騒ぎのあれこれでボックス様への捧げものは滞ってたぐらいなんだが。

 まぁでも迂闊なのは確かなので、改めてコトニワ世界入口すぐになっている拠点の中央にある神殿へ移動だ。最初に「庭」の中央区画を引き継いだ時と同じ、白くて四角い建物本体に白い三角の屋根を乗せたような、大きさだけはもうちょっと大きくなった神殿に入る。

 なお既に屋根裏は確認されているし、こちらは部屋の中央だけでなく、壁際にも試練を作れる箱が並んでいるらしい。箱の大きさも、更に大きい物があるようだ。大物との戦闘が出来るって事だな。


「あ、これですね」

「……確かにお嬢の名前があるが」


 その屋根裏は一旦さておき、神殿本体の中を見回すと、入口脇の所にひっそりと、石碑みたいな形で名前の刻まれた白い石が置いてあった。動く邪魔にならない場所で、なおかつそこまで目立つ訳でもなく、でも見ようと思えばすぐ見れる。相変わらずボックス様は最高だな。

 で、確かにその名前の一番上には「ルミナルーシェ・ロア・ヴェヒタードラグ」と私の名前が書いてあったんだが、相変わらず心当たりはないんだよなぁ。

 けどだな。ここで「指針のタブレット」を取り出す訳だよ。そして周辺のギミックを探すアプリを起動。ほーらあった。内容の詳細というか内訳を確認できる。本当に最高。


「……。あ、なるほど」


 そしてその詳細を確認した結果、何がここまでなってたかっていうと。


「そういえば、ナージュの分霊入り歯車を持って帰った時に捧げてましたね」

「何をだ」

「アレリーの……いえ、「拉ぎ停める異界の塞王」になる元の修神おさめがみの件で報酬に貰った石を、ナージュ監修の下、帰還かえる処を守る神と、家路を導き守る神の石像に加工したんです」


 そう。ナージュが私の銃に食いついて、そのまま一晩過ごしたが、何も銃の事だけを話していた訳ではない。加工が得意な工場の神なんだ。絵から立体を起こす為の設計図と実際の加工も得意だろうと、相談してたんだよ。

 銃に全力で興味が向いていたナージュはお安い御用と早速図面を引いてくれたし、工場の加工機械も使わせてもらえた。だから、私がコツコツノミとハンマーで削りだすより良い出来になったんだよな。

 そして幽霊状態で島に戻った時、ナージュの分霊入り歯車を置く前に神殿に寄って捧げものにしておいたんだ。「モンスターの『王』」の過去編も終わりだろうし、流石にもう使わないだろうって思って。


「で、その後あの、魔族の王の過去と、世界の端というか空間の隙間みたいな亜空間に突入して、最終的に真名神名解放をしましたからね」

「……。それもあったからあの奇跡の出力が跳ね上がってたのか?」


 そうなんじゃないかな?

 流石にあの、エルルやサーニャでも相殺してなお砦へのダメージを完封出来なかった攻撃を受けて、なお砦がノーダメージっていう防御力は、破格も破格だったし。

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