後来:嵐の聖地19

 幸いだったのは、「指針のタブレット」は地味なアップデートが続けられていて、持ち主以外には操作できなくなっていた事だ。

 予想外な内容に、どうすっかなこれ。と思っている間に画面に真っ白な長毛で覆われた前足が伸びて『はい』の部分にタッチしていたが、画面に反応は無かったから。

 もちろん瞬時にその前足は、もう片方の前足ごとフライリーさんに剥がされて抑え込まれたんだが。


「すまんっす先輩反応遅れたっす!」

『残念ですこと』

「フライリーさんは悪くないです。……マリー。やっていい事と悪い事がある、というのを、もう一度覚え直してくるまでおやつ抜きです」

『な、なんでですの!? どうせ受けるのでしょう!?』

「それとこれとは話が別です。……あぁ、マリー。おやつ抜きと言いましたが、にぼしなら食べてもいいですよ」

『…………何故にぼし限定ですの?』

「どうせ食べるでしょう?」


 ちなみに、マリーはにぼしが苦手だ。嫌いではないらしいんだが、何か食べにくいらしい。それでも食べるんだけど。

 私が全く同じ言い回しを使った事から、自分がやった事がどういう事だったか理解したらしいマリー。未遂だったからメイドさんとバトラーさんにメールするだけで済ませるが、実行されてたら本気でおやつ抜きだったからな。

 ただし、私は同時にやらかした。それは、ルイシャンに騎乗しているのは私達だけでは無かったって事だ。


「まぁ……私達でも進化条件が分からない種族の事まで把握してるなんて、流石神様ね?」


 そう。私の後ろには、アキュアマーリさんおねえさまが乗っている。という事は当然、私が見ていた画面を後ろから覗き込む事が可能であり、操作は出来なくても画面を見る事は出来るって事で、だな。

 つい、通知が届いたからと、そのまま詳細を開いて確認していた内容を、全部見られてたって事で、だな……。


「ところでルミルちゃん」

「……何でしょう、お姉様」

「たしかルミルちゃんが欲しいって言った元第7番隊の人達って、ほとんどが亜種か変異種だったわよね?」

「そうですね……」

「それで、今回のこれを含めると、ルミルちゃんの特殊種族の進化実績が4件目になるって事じゃないかしら?」

「そう、ですね……?」


 ちなみに、特殊種族の進化実績、の中には、私自身も入っている。精霊竜って、ギリギリ辛うじて伝承に残っているぐらいの幻の種族なんだってさ。

 ついでに言えば、私の進化先候補の数も報告として挙がっている筈だし、それを元に皇族の進化条件の推測がされているらしい。一応皇族が進化出来ず大人になれない、っていうのは少ないらしいんだが、少なくてもある辺り、かなり深刻なんだよな。

 で。その深刻な問題を、3件解決して4件目解決しそうな皇女がここにいる。


「これから、聖地の復活の報告に向かうのだけれど……一緒に、来てくれるわね?」

「ヨロコンデー……」


 ま、参考人として色々聞かれるわな。それでなくても召喚者プレイヤーっていう特殊要素があるんだし。というか、エルルとサーニャの進化に関してはリアルでの知識をメタ読み的に使って予想したし。

 ただアキュアマーリさんおねえさま、たぶんその辺私より、カバーさんに連絡して元『本の虫』組の人達に協力してもらった方が確実だと思うんですがどうでしょうか。

 ……皇女だからこそ出来る事もあるし、実働はともかく進化条件を調べる部門的なもののトップに皇族を据える必要がある? あ、はい……。


「……ちなみにそれって他のお兄様達とかは」

「ルミルちゃんが一番詳しいでしょう?」

「はい……」


 ちなみにその後何とかならないかと全力で責任を押し付けられそうな人、もとい、私より立場的にも知識的にもあと頭の回転的にも適材な人がいないかと考えた結果。


「カバーさん、ジンペイさんに連絡取れますか」

「可能ですが……」

「白沢って知識系の神獣なんですよ。こっちで調べた結果、進化条件がその中に入っていた筈です」

「! 分かりました」


 ジンペイさんとその弟さんに白羽の矢、ではなく、竜族におけるかなり重要な役職と相応のお給料と竜都のお城の資料室への入室権利を譲る事にした。

 喜んで受けてくれたからいいんだ。不死族と神獣の組み合わせなら十分な立場もあるから、アキュアマーリさんおねえさま竜皇様お父様も納得してくれた。

 ……流石に、竜族基準のプロフェクトに付き合ってられる時間の余裕は、無いからなぁ……。




 なお当然ながら、ヴィントさんの進化については、また別の話だ。

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