後来:嵐の聖地18

 サブクエストの進捗バーは、冬休みや年末休みに入った召喚者プレイヤー達が本格稼働を開始する、12月最後の1週間に入った翌日、つまり、丸5日を残して端に届いた。……あれだけ加速して実質メインクエストぐらいの人数が動いていて、残り5日か。ギリギリだったのでは?

 だがまぁ、達成した瞬間に関わっていた全召喚者プレイヤーの持つ「指針のタブレット」に新しい通知が届き、その内容が「最初の大陸から通常手段だと2ヵ月弱ぐらいかかる海の真ん中」だったのには一瞬「?」が大量に浮かんだようだが。


「あぁ、やっぱりここなんですね。ヴィントさんを呼んでください」

「お嬢?」

「一応ですけど、嵐の精霊さんと一緒に居てもらった方がいいかと思いまして」


 まぁでも、空を飛ぶ手段も海を渡る手段も用意している召喚者プレイヤーだ。その座標に一番近い大神殿が、南北の大陸南側西岸の渡鯨族の港町だっていう情報が広まった時点で、大半の召喚者プレイヤーは察したようだ。

 ま、そもそも竜族と御使族が協力して動くって時点で理由なんて限られるし、「伸び拡がる模造の空間」の初登場と初討伐をリアルタイムでやってた召喚者プレイヤーはそれなりに多い。そこが結びつくのは早いだろう。

 元々「大神の悪夢」は大神殿から挑戦する事になる。そのまま神域ポータル経由で転移すればいいだけだ。もちろん「指針のタブレット」の通知は啓示でもあるので、それを知った竜族と御使族から、道案内に結構な人数が出てきたし。


「……」

「お嬢」

「いえまぁ、来るだろうなとは思ってましたし」


 その中に、堂々と集団で動く近衛隊と、そこから前に飛び出そうとして集団の中心に収められている銀色の姿が見えたが、別に挨拶に来いとかは言われてないし。

 私は大神殿経由で転移してから、ルイシャンに乗って移動した。私の前には【人化】を解いた使徒生まれ組とマリーが大きめのバスケットに入り、それを支える形のフライリーさんと、しっかり日よけ対策が施されたミラちゃんが乗っている。カバーさんとソフィーさん達に撮影会されたのは出発前なので大丈夫だ。


「全くあの子は。皇族としての代表は私が出る、と決まったのにねぇ」


 で。私の後ろにはアキュアマーリさんおねえさまが横乗りしている。ははは。義妹わたしだけではなく、可愛いもの詰め合わせみたいな状態にくっついているからか、声が棒読みだぞ。

 なおエルルも途中までは【人化】を解いて飛んでいたのだが、召喚者プレイヤーの数が多いと小回りが利かないのはまずいと判断したらしく【人化】して空気の足場を使っている。竜族部隊の人達も……半分ぐらいはエルルに倣ってるかな。もう半分は【人化】を解いたままだ。

 そんな感じで大変とこう、わちゃわちゃした感じになっているんだが。ぼごん、と、聞き覚えはあるが、こんな大きさでは絶対に初めて、という音が聞こえて、そちらへと注目が集まった。


「……始まりましたね。カバーさん」

「退避勧告と防御準備の伝達を行います」


 それは、水中で生まれた空気の泡が、水面に出てきて弾ける音だ。ぼご、ぼごん、と、一軒家ぐらいはありそうな巨大な泡が「指針のタブレット」に指定されていた座標から湧いて出てきては弾けていく。

 案の定あるいは予想通り、いや、予定通りに、その場所は冬にもかかわらず温度が高かった。だから海面に降りて温まっていた召喚者プレイヤーもいたようだが、そこに出てきた巨大な泡は非常に高温だったらしく、慌てて色々な乗り物が空中へと退避していく。

 最初こそ間隔を空けて浮かび上がってきていた巨大な泡はすぐに連続するようになり、弾けて外気に触れると同時に大量の水蒸気へと変わるようになる。ぼこぼこという泡の音の中に、ぐらぐらと煮える音が混ざっていったのは気のせいじゃないだろう。

 やがて水面そのものから湯気が漂い出し、それはすぐ濃度を増して周囲一帯を覆うようになり……その奥で、何か、光が見えた気がした、瞬間。


――――ドォオオン!!!


 大量の海水。泡で多少密度は下がったとはいえ蓋となっていたそれを跳ね飛ばすようにして、爆発音が響き渡った。

 爆発で吹き飛ばされた海水は端から水蒸気へと変わり、水蒸気の中に赤く光るものが混ざる。その一部は空中で冷やされて固まり、比較的距離が近かった飛行船なんかの防御魔法にぶつかって硬質な音を響かせていた。

 もちろん、その爆発が1度で収まる訳もない。10秒ほどおいてもう一度。次はもう少し短く。その次はさらに短く。そのうち連続して。回数が増えていくほどに規模も大きくなって、水蒸気越しに見える赤い光はどんどん強くなり。


――――ドォォオオオオオオン!!!


 最終的に、衝撃波を伴って、文字通りの火柱が噴き上がった。

 大量の水蒸気をすら吹き飛ばした火柱が収まった後には、まだまだ真っ赤に光る溶岩が海面の上に出てきていた。まだ小規模な爆発、いや、噴火は続いているから、まだもうちょっとあの「島」は大きくなるのだろう。

 とはいえ、現時点ではちょっと大きな屋敷ぐらいの面積しかない。最終的な、それこそ「伸び拡がる模造の空間」との再戦が出来る空間の大きさになるには、まだまだかかるだろう。具体的には、クリア回数が足りない。

 だが、一部とはいえ、聖地が通常空間に戻って来た。先程の噴火で、ルイシャンに乗って浮いてるって言うのに揺れを感じたから、空間的に揺れてたし。という事は、と思ったところで、「指針のタブレット」に新しい着信が届く。


『サブクエスト「失われし聖地」を完了しました!

 聖地「精霊と嵐の生まれる島」が復活しました

 以後の世界に重大な変化が生じます

 ▽

 ・精霊の発生数が増加します

 ・精霊の成長率が増加します

 ・精霊の変異率が上昇します

 ・精霊の行動が活性化します

 ・精霊との契約難易度が低下します

 ・天候に「嵐」が追加されます

 ・属性に「嵐」が追加されます

 ・「嵐属性」を含む進化先が解放されます

 ・「嵐属性」を含む素材が出現します

 ・「嵐属性」を有する装備の生産が可能になります

 ・「嵐属性」を有するアイテムの生産が可能になります』


 ……。

 いや、うん。覚悟はしてたから大丈夫。

 ただ……。


『隠しクエスト「嵐を継ぐもの」の前提条件を全て満たしました

 隠しクエスト「嵐を継ぐもの」を受注しますか?

▽ クエスト内容

 テイムNPC「ヴィントシューネ・ブリーゼ」を特殊進化させる

 クエスト報酬

 ???』


 …………これはちょっと予想外なんだが。

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