後来:嵐の聖地17

 私はほとんど生産作業しかしていない12月になったが、それでもまぁ、攻略対象である「伸び拡がる模造の空間」に関しては何というか、もう今更だしなぁって感じだ。確かに出てきた当時は苦戦したが、あそこから装備もステータスも上がっているし、何よりギミックが全部明らかになっている。

 違うのは最終形態ぐらいだが、あれだって神の力を借りるアビリティを使えばいいだけだし、もっと言えば「敵を燃やす」特性つきの灯りの奇跡を願って火をつければいいだけだ。聖地だけあって、ティフォン様に願うとボーナスがついていつもより火力が高いみたいだからな。

 だから、戦闘そのものについて何も言う事はない。途中から1回あたりの攻略時間の短縮レースに加えて、1時間あたりの攻略回数のレースが始まったぐらいだ。消耗品の受け取りをいかにスムーズに済ませるかが鍵らしい。


「受け取らなければいいのでは?」

「それはレギュレーション違反となります」

「受け取るという要素は必要なんですね」

「なお配布分を受け取るレースと、イベント価格の消耗品を購入するところまで含めるレースは別となっています」

「そこが別なんですか?」


 何かがズレている気もするが、まぁ最終的な攻略回数が増えればいいんだ。その為に全力で生産作業してたんだし。

 そんな調子で、猛烈な勢いで討伐回数が増えた「伸び拡がる模造の空間」。そのかいがあったのか、それとも何か後押しがあったのか、リアル1週間が過ぎたところで「指針のタブレット」のサブクエスト表示に、進捗らしいバーが追加された。

 リアル1週間経過したところでその進み方は4割程。……なんだが、これは恐らく、サブクエストが始まる前に攻略されてる分も含むよな?


「あれで更に加速がかかりましたよね」

「そうですね」


 というのは、まぁ、ベテラン勢なら誰でも思いつく事だな。という事で、更に加速がかかった訳だ。その分だけ私は生産作業に追われることになった訳だが、まぁ私が直接動かなくても、竜族部隊の人達を含むうちの子は動いてくれているし。

 流石に「大神の悪夢」は召喚者プレイヤー抜きでは挑戦できないが、フライリーさんとかソフィーネさんとかに付いて行ってもらえばいいだけの話だし。直接殴れないから微妙に消化不良になってるみたいだけど。

 そもそも「第四候補」に頼んだ宿光石を使ったサーチライトがある。魔力を強制的にもっていかれるのはしんどいと言っていたようだが、あれを複数人で使うのが一番早いだろう。その途中で、捕まえる系の魔法か、私が用意した罠系魔法のお札を使えば更に効率は上がる。


「うちの子は消耗品使い放題ですからね」

「条件が違いますので、ランキングからは除外させて頂いています」


 それはそう。反則と言われかねない状態だし。実際条件が違い過ぎる。

 だが一番重要なのは「伸び拡がる模造の空間」の討伐回数が増える事だ。そこは順調だったので問題ないし、実際「指針のタブレット」で見る事が出来る進捗のバーは、12月が残り10日となった時点で9割弱まで伸びていた。

 流石に資金的に息切れしてきた召喚者プレイヤーもいるようだが、既に孤児院のある神殿を筆頭に、あちこちへ大口寄付はした。「希釈液」の購入も続けているし、ある程度は重ねられるアクセサリの購入もしている。こっちが値崩れしかねないから。


「普通に換金できる宝石も出てきますし、便利アイテムも出てくるから、普通は金策に良い相手の筈なんですけどね」

「追加寄付のタイミングは早めた方が良さそうですね」


 ……そんなに資金が余って困るなら、無料で配ってしまえばいいじゃないか。みたいな書き込みが時々目に入るんだが、それはダメなんだよな。一番の理由は転売ヤーが大儲けするからだが、私がそれをしてしまうと、生産界隈に深刻なダメージが入るから。

 作って売る。その労力と努力には正当な対価が支払われるべきだ。そしてその決まり事は、誰かがルール違反をした瞬間に崩れ去る。だから、いくらお金が余っても、ちゃんと取引はしなきゃいけない。


「「第四候補」が血涙を流している気がします」

「あちらも今は景気が良いので、大丈夫かと」


 庶民感覚だと、お金って余らないものの筈なんだけどなぁ?

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