後来:嵐の聖地16

 私は主に物資的な意味で準備をして、各地のギルドに倉庫がいっぱいになる程の量のお札とポーションを納品し、クランハウスの私のエリアにある倉庫はもちろん、共有倉庫も埋める勢いでお札とポーションを格納。

 途中で何度か共有倉庫の容量が増えていたから、「第一候補」か「第四候補」が拡張工事をしたらしいが、それでも8割方一杯になるぐらいに詰め込んでおいた。ここまですれば、流石に1日で底を尽きるって事はないだろう。

 その上でしっかり元となるお札とスープ系ポーションも用意しておいたし、配る分とイベント価格の分はともかく、通常価格の分が思った以上のペースで売れても補充は間に合う。たぶん。恐らく。


「出来る限りの準備はした、筈ですが」


 という訳で、プレイヤーイベントというか、超大規模サブクエストの本格攻略開始日である、12月1日を迎えた訳だが。


「やっぱり足りませんでしたか」

「そのようです」


 何のことかって言うと、通常価格のお札とポーションだな。配る方とイベント価格の方は数に制限を付けていたからまだまだ大丈夫らしいんだが、値段がいつも通りの代わりに数の制限がない通常価格の消耗品が相当な勢いで売れたらしい。

 『アウセラー・クローネ』所属の元『本の虫』組の人達が共有倉庫にあった分を出して対応してくれた他、事前に渡しておいた原液で「第四候補」が希釈した魔力ポーションの生産を最高ペースで開始、ルチルやルイルと言った魔力の高いうちの子が「拡縮石」を使って通常威力のお札の大量生産を始めてくれたから対応できたようだ。

 とはいえ、元となるお札と「超濃魔力ポーション」があってこその量産体制だから、私もログインしてすぐ生産作業に入った。初動が大事というか、最初からすごい勢いで走るつもりの召喚者プレイヤーが多いって事だな?


「まぁ、それなりにフリアドをやっていれば、こういう時の「大規模」では、最初から全力で走らないと間に合わないかもしれない、っていうのは分かる事ですしね」

「それと今回の場合、購入できるものも、挑戦して手に入るものも、どちらもいくらあっても困らない系統ですから。持ち腐れになる事が絶対にない、と分かっている分だけ、初動が大きいようです」


 なるほどな。罠系魔法は当然として、地味に照明系魔法も使うからな。何しろ閉所の探索には必須だから。そして少なくとも野良ダンジョンは完全に閉所だし、異世界でも洞窟や谷底を探索する機会は結構多い。夜の行動や警戒にも必要だ。

 絶対に必要になる消耗品だから、使い切れない事が何の問題にもならない。そして、サブクエストでこれでもかと使う事が分かっている。なら、それこそここで買えるだけ買ってしまえ、となる訳だな。それが初日から在庫が危ういという状態になると。

 という事は。


「そういう理由なら、少なくともサブクエストが達成されるまで買い占めに近い動きは止まらないのでは?」

「……動かせる現金が尽きれば一旦落ち着く見込みです」


 現金が尽きれば、か。

 ……それってつまり、それだけの金額が私の所に集まるって事だよな?


「……また現金資産がすごい事になりません?」

「寄付を受け付けている組織の選定は行っています」


 つまりまたしても大口寄付をしまくる事になる訳だな。いやまぁ皇女としてはそれでいいのかも知れないんだけどさ。うちの子にボーナス出すにしても限度があるし、大型設備は既に大分購入済みだから、それこそクランの共有倉庫を拡張するぐらいになる。

 流石に、大量に市場に流れるだろう重ねられるアクセサリを買いまくったら、マッチポンプに見えかねないだろうし。


「とりあえず、準備段階で共有倉庫が拡張されていた分と同じぐらいには、私も拡張費用を突っ込んでおこうと思います。拡張できる共有設備って他に何がありましたっけ」

「分かりました。他ですと、エリア間を移動する馬車の台数を増やして欲しいという要望が上がっていますね。主に御者の確保が難しい状態ですが、資金があれば指揮官さんのハイグレードドールで代用が可能では、と言われています」


 じゃあそこにも出しておくか。流石にまだ建物とかの劣化は出てきてないだろうし、地形ごと設備を増やすのはちょっと手が回らないからな。

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