後来:嵐の聖地15

 ヴィントさんが私に休暇申請を出そうとしたのはリアル11月の半ば。フリアド内部時間では半年前になるから、やっぱりヴィントさんらしくないんだよな。当日朝の打ち合わせで「そう言えば明日休みたいんだけど」とか普通に言う人だし。

 まぁ準備自体はとてもスムーズにいったから、リアル11月が残り1週間になった時には既に、竜族と御使族の話し合いが行われていた。メインイベントが丸1ヵ月かかる時の、イベントのお知らせのタイミングには間に合ったって感じだな。

 まぁそのタイミングで準備が実質完了して動き出したって事は、当然ながら、参加する召喚者プレイヤーとその仲間の数も跳ね上がる訳で。


「いくら作っても追いつく気がしませんねぇ……」

「そんな気がするっすけど、他所もかなり大変みたいっすよ」

「特に装備関係は大変らしいですわ」

「回数限定で強い魔法が使える杖、っていうのも大人気らしいですねー」


 お札の量産は「拡縮石」で出来るし、錬金釜で数を増やすのに比べれば段違いに早く出来るとはいえ、やっぱり多少は時間がかかるし魔力も使う。

 なので、フライリーさん、マリー、ルチルにも「拡縮石」によるお札の水増しを手伝ってもらう事にした。いやー、一度に動かせる「拡縮石」の数が増えると効率が段違いだな。

 なおこのお札は「伸び拡がる模造の空間」に挑むのなら、百枚1組の罠系魔法と照明系魔法のお札合計2百枚に、魔力ポーション20本1箱をつけて1セットにして、1グループにプレゼントする事になっている。


「まぁそれでは足りないのが分かり切っているから、更に1人1回5セット限定で同じ内容をイベント価格で販売するんですけど」

「魔力ポーションもかなり質がいいから、20本でもまぁまぁもつっすもんね」

「とはいえ、無料とイベント価格で買える分だけでは足りないのは当然ですわね。無料イベントではありません事よ」

「だから、それ以上の分は通常価格で売る訳ですねー」


 そしてその分も作る必要があるって事だ。この機会に買いだめしとこうって人も絶対にいるからな。何しろ良質なポーションはどれだけあっても困らない。アイテムボックスもある事だし、保存は問題にならないから。

 それに重ねられるアクセサリは人気商品だ。コストを割安に抑えて挑戦できるなら、まぁ金策にもいいだろう。無料セットを貰ってイベント価格のセットを買って、それを使わず自力で「伸び拡がる模造の空間」を倒してアクセサリを集めて、それらを売れば結構な金額になる筈だ。

 ま、そういう風に売りに出したり、そもそも転売目的で購入する奴を市場からはじき出す為にも、正式価格のポーションとお札の在庫をたっぷりと用意しておかないといけないんだが。ほんともう、そういう事だけは素早く的確にする奴はいるからな。


「転売目的で買い込んで売れなくても、自分で使ってしまえばいい類ですから、痛手にはならないでしょうけど」

「まぁ、そうやって普通に稼いでる間は転売できねーでしょうし……」

「そもそも、その人数自体がだいぶ減っているらしいですわよ? こちらではギルドが元締めでしょう。そこでおかしい値付けがされていたら、出品を差し止めて“天秤にして断罪”の神の神官が呼ばれるらしいですわ」

「その辺の根回しと注意喚起もしっかりしてるってカバーさんが言ってましたよー」


 なるほど。こういう時に人脈が物を言うのか。住民の人達との交流って大事だな。いやまぁ転売に関してはそういうの関係なくちゃんとしていてほしいけどさ。

 安く仕入れて高く売るっていうのは商売の基本だし、それこそ行商人とかはそうやって儲けを出すんだろうが、それと転売は違うからな。主に労力と必要投資とリスクと人脈と交渉力が。何より販売元にちゃんと許可を得ているかどうかが。

 出来ればリアルのフリマ系アプリとか個人で出品可能な通販サイトとかの運営も、そういう風に気を付けて欲しいところだが……それをやると、主に人的コストがかかり過ぎるんだろうなぁ。

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