後来:嵐の聖地11

 やはり私が喋らず動かない事が正解だったのか、何かを察したジークムントさんも話の流れを誘導する側に回ってくれたからか、そこからは何とかスムーズに進んだ。

 どうやらヴィントさんが決意した段階でサブクエストを受注できたのは私だけであり、モルたん(ヴィルさん)とジークムントさん(シュタルさん)は、ヴィントさんから話を聞いた時点で受注できるようになったらしい。

 サブクエストのタイトルは「失われし聖地」。モルたんも割と真面目にフリアド世界と関わってきているようで、聖地、とついたタイトルを見てだいぶ真面目な顔になっていた。そのままどうか私の事は忘れてくれ。


「なお今回の件において必要なのは、「大神の悪夢」に出現する「伸び拡がる模造の空間」の討伐回数です。よって、より多くの召喚者プレイヤーとその仲間の皆様に協力をお願いする必要があります」

「そこを私達が宣伝するのね!」

「そこでちぃ姫が補給物資を出すって訳か」


 ……まぁ、そうもいかんわな。ピシッ、と笑顔が固まったモルたんを見てジークムントさんが「あ~」みたいな顔になったが、まぁ実際そういう事だしなぁ。

 いや、一応言っておくが、モルたんが所属するアイドルグループの知名度が無いって訳じゃないんだ。割と有名になってきてるからな。宣伝効果は大きいだろう。それは間違いないし、アイドルが応援してくれるんならってやる気を出す人は多いと思う。

 ただ、その……うん。まぁ。私が強すぎるんだよな。何しろ正式な皇女で第一陣の魔物種族で、最初の公式マスコットの1人だから。ぶっちゃけ、相手に回す方が間違ってる。自分で言うのもなんだが。


『モルガナイトからフレンド申請が行われました』


 だからそっと視線を逸らしたんだが、何故かフレンド申請が飛んできた。あー、うん、そのー……たぶん内緒話をしたいんだろうなっていうのは分かるんだが。


『モルガナイトからのフレンド申請を拒否しました』


 これを受けると、私自身がこの後ずっと鬼メールと鬼ウィスパーで他の連絡が受けられなくなりそうだし、そもそもこんな形でのフレンド申請を受けたら、それこそ『可愛いは正義』からすら追い出されるレベルの可愛い過激派がヤバい事になるから……。

 というか、こういう場でならフレンド申請を受ける、なんて話が広まってみろ。こういう場を作る為だけにいらん騒ぎを起こす奴が掃いて捨てるほど出るぞ。そしてそんな騒ぎが起こって、あのゲテモノピエロが動かない訳がない。

 と、いうのは、ちょっと考えれば分かる事なんだよな。正直、フリアドにおける召喚者の皇女という立場私の特殊性を考えると。流石に、モルたんだってその辺は分かっている筈なんだが……。


「消耗品の補給があるとなしとでは、だいぶ違うでしょうからね」

「ま、そりゃそうだ。どうせプレイヤーイベントとして、ランキング報酬も出すんだろ?」

「用意は進めています。その辺りもご意見を伺いたく」


 私が手元で何かしたのは見えただろうし、その瞬間モルたんのキレオーラが爆発したから「何かあったな」と瞬時に察しただろうカバーさんとジークムントさん。だが、私がすっと次の話題に進んでほしい意図を込めて話を誘導すると、そちらに乗ってくれた。

 話が動き始めればそちらに付いて行かないといけないのは、モルたんだって分かっている。なので、そっちに集中し始めたようだ。……真面目ではあるんだよなぁ。こう、キレた時の行動が衝動的すぎるだけ? で……。

 ……リアルとゲームは切り離す主義の私ですら、実年齢が心配になるぞ。この子いくつだ? フリアドが15歳以上で「伸び拡がる模造の空間」の初登場からやってるんだから、最低でもマリーと同い年の筈だろ?


「その辺はいつも通りでいいと思うぜ。元々年末であっちこっち祭りの空気なんだ。消耗を気にせず、って程じゃなくてもいつもより楽に挑めるんなら、参加者は増えるだろ」

「……そうね。あのレイドボス? って、装備品を落とすやつよね。それに挑めるなら、ファンの人達もたくさん来てくれると思うわ」


 うん。とりあえず、この話し合いを乗り切ったら大丈夫だと思おう。たぶん。きっと。恐らく。

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