後来:嵐の聖地9
ギリギリなんとか頭を抱えるのは耐えた、みたいな感じだったヴィントさんだが、最終的には覚悟を決めたらしい。
再びの真面目な顔。からの深々と頭を下げて、それに慌ててフリューさんが倣い。
「ルミナルーシェ皇女殿下。どうか、我らが故郷を取り戻す為のご助力を願えますか」
普段のあれこれが、素に近いとはいえ被った皮だったな。というのを窺わせる、至極真面目な声と口調で、
「――無論です。私に出来る全力でもって事態に当たる事を、この名に誓いましょう」
右手を喉の下、鎖骨の間に沿えて宣言する。正式な礼なんだけど何でここ? って思ったんだが、ほら、私の
で、方針が決まったところでヴィントさんもフリューさん以外の弟2人を改めて探しに行くって事で、カバーさんに補助についてもらって出発するのを見送る。恐らくは
なのでそのログインの残りは消耗品を全力で作って終了。相手が分かっているから、巨大な氷を作る為のお札と、宿光石を使った照明系魔法のお札を大量に作った。
「げっ」
「おや」
で、翌日。カバーさんが補助に付いてくれていたからか、割とあっさりヴィントさんの弟の内、残り2人が同行していた
声をかけたのはヴィントさんもしくはカバーさんであり、つまり実質私が呼び出したようなものなので、待たせるのはダメだなとログインしてすぐにその待ち合わせ場所に移動したんだが。
「お久しぶりです、モルたんさん」
「あんたにそう呼ばれる筋合いは無いわよっ!?」
「ではモルガナイトさん?」
「………………モルモル」
「モルモルさん」
「っっぁあああ鳥肌立つ!! 一応悪いと思わなくもないけど蕁麻疹出そう!!」
流石の私でも、どうすればいいんだ……。と皇女スマイルの奥で遠い目をしてしまう訳だが、何とも奇妙な縁というか、その内の1人がなんと、それこそ「伸び拡がる模造の空間」で初めて出会ったモルたんでなぁ……。
どうやら現時点だと、流石に敵意までは向けられていないらしいんだが。それはそれとして、主にモルたん側になにか隔意があるらしく。それが部屋に入って来ての第一声になるし、どう呼べばいい? という手探りでのこの応答になるようなんだが。
エルルが静かに怒ってる気配がするし、ヴィントさんは流石に予想外が過ぎたのかあっけに取られて固まってる。フリューさんは胃痛からか、崩れ落ちる寸前だ。
「も……モルたん、その、君は最高のアイドルだけど、この方相手は流石に……っ!」
「ぐっ……ヴィルが言うなら仕方ないわね……けど! 謝らないから!」
「モルたん……っ! そこが君の素敵なところだけど、どうかお願いだから相手は見てっ!」
「アイドルとして先輩なのは分かった上で、私が尊敬するのはアベリアお姉様だから!」
「モルたんん……!!」
で。その横で、こちらも崩れ落ちそうになっているのがヴィントさんの弟さんの1人で、ヴィルベリアさん。どうやら今この場にいる事を考えると、モルたんのガチファンからマネージャーまで上り詰めたとかだろうか。まぁそれは個人の自由だから別に構わないんだけど。
……あの、私相手は本気で国際問題になりかねないというか、フリアド世界有数の強豪国というか種族を丸ごと敵に回しかねないから、せめて外ではそれ、言わない方がいいぞ……?
私が言ったら、何をどう言っても火に油を注ぐだろうから黙ってるし、その辺は何とかヴィルさんが言い聞かせてるけど、それ、純度100%の善意だからな……? 本当に、純粋に、あなたの立場や下手したら身の安全を考えての言葉だからな……?
「(エルル、落ち着いて。ストップです。実際行動開始したら関わる事はまず無いでしょうし、少なくとも悪意が無いのは分かるでしょう)」
「(お嬢が舐められるのを良しとするのは話が別だ)」
「(吠え癖のある子犬みたいなもんでしょう。というかよく見て下さい、彼女手がちょっと震えてるじゃないですか。自身のファンの前で折れる訳にはいかないという矜持だけで持たせてるようなものですよあれ)」
「(だからと言って自分の矜持の為にお嬢の名誉に泥を被せていいって訳じゃないだろ)」
「(その辺は今絶賛何とか宥めてくれているじゃないですか。今ここでエルルが本気威嚇したら彼が巻き込まれる上に色々大惨事です。落ち着いて下さい)」
「(落ち着いてはいる)」
エルルだけでもこの状態だからな。
なおこれは種族特性によるやり取りなので、ヴィントさんは当然、フリューさんとヴィルさんも分かっている。
だからこそヴィルさんは全力でモルたんを宥めにかかってるんだろうし。
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