後来:嵐の聖地8
へらへらした態度と軽い言動であんまり考えてない印象を振りまくヴィントさんだが、本当に何も考えてない人が、エルルが来るまでの第7番隊を実質纏められる訳がない。
そして実際しばらく様子を見ていたら、常に一歩引いたところで全体を眺めている事に気が付いた。騒いでいる中にはいるんだけど、決して中心にはいないし、輪の中に引っ張り込まれても、他の誰かを押し込んだりしたひょうしにするっと抜けていく。
騒ぎの中には居るし、会話に入ってこないって訳ではないから、ちょっと見ただけでは分からないんだろう。私も気付くのにちょっとかかった。それぐらい自然に呼吸をするように、絶妙な位置取りを続けている。
私が気付いたのは、そこが「中と外を両方見る事が出来る」位置だったからだ。もっと言えば、輪の中と外、そのどちらで何が起きても対処できる位置。すなわち、護衛の人の立ち位置であり、私から見た竜族部隊の人達がいる位置だな。
おや? なんだか竜族部隊の人達全体に対して私相手と同じような位置取りをしているな? って気付いたのが最初だからな。自然に出来過ぎてて、護衛されてなきゃ見落とすところだった。
で。護衛のお仕事をしている時と同じ位置を常にキープしてる、かつ、推定だが第7番隊の時からずっとそれをしてるって事は。ヴィントさんのあの不真面目な態度も、完全に素のものではないよな? っていうのはすぐ分かる事で。
その上で第7番隊の資料を洗い直してみたら、エルルが隊長になる前の第7番隊は、本当に真っ当な仕事だけを厳選して受けている状態だったっていうのが分かった。エルルが隊長になってからは、これただの雑用では? って仕事もしてたみたいだけど。
まぁ仕事は仕事なのでエルルに非は無い。雑用を振って来た人達に対するあれこれは別の話だし。なのでさておき、恐らくはそれこそがヴィントさんが副隊長であり、実質的な隊長だった理由だろう。
でもって、そんな人の「外せない用事」だ。それがどれほど大事で、そしてどれほど困難であってもやるべきと決めた事なのかは、まぁ、察せるってもんなんだよ。
「…………ったく、そういうトコだぜ殿下ぁ」
「だって、ここまで直球で言わないと、ヴィントさんは煙に巻きかねませんし」
「えぇー? んなこたないよなたいちょー?」
「俺は否定できない」
頼れ、と、ド直球で言った結果は、顔を引きつらせつつのそんな返答だったが。エルルも否定できないって時点でほぼ確定事項だろう。頼れ。巻き込め。抱え込むな。と、何度言っても聞きゃしない。そこはほんと似たもの同士の隊長と隊員だと私は思う。
一応は上司であり皇女として相対しているので、キリッとした姿勢も顔も崩してはいない。だが、内心をそのまま表に出すならジトッとした目を向けている。煙に巻くと書いて話を誤魔化し逃げると読むからな?
ただまぁ一応外面は大事だし、そもそも今はヴィントさんの弟であるフリューさんが同席している。一般竜族らしく
「……ぜってぇ大変な事になんだけど」
「世界を滅ぼしかけたアレ程ではないでしょう」
「その手足ぐらいは十分にあると思うがー?」
「それぐらいなら余裕ですね。人数を集めて袋叩きにすればいい訳ですし」
「なぁたいちょーなんでこの殿下こんな修羅場慣れしてんの?」
「召喚者だからだろ。というか俺に聞くな」
流石エルル、理解度が高い。そうだよ。
だから、ヴィントさん。はよ覚悟を決めろ。覚悟が決まったら「指針のタブレット」のサブクエストも受注できるようになるんだろうし、動かす人数考えたらその実あんまり時間無いんだから。
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