後来:嵐の聖地5

 さてまぁそんな感じで、一応問題なく「大神の悪夢」による「伸び拡がる模造の空間」戦は終わった訳だが。問題はやっぱりというか何というか、討伐と同時に強制帰還になったヴィントさんでな。

 いやその、私は一応、時間が足り無い感じだったらもう一度挑戦しますか? と提案するつもりだったんだが。


「いやー、分かってましたが、本気出すと速いですねヴィントさん」


 まさか、通常空間に戻った瞬間、暴風と共に姿を消すとは思ってなかったなぁ。


「呑気に言ってる場合か? 一応職務放棄だぞ」

「追いかけますか?」

「いえ、とりあえずはこのままでいいです。行先も大体当たりは付きますし」


 ひゃっほーい、と大量の宿光石を自分のところに運んでいった「第四候補」に大出力サーチライトの注文メールを送りつつその姿を見送り、エルルとニーアさんの言葉には首を横に振る。

 行先はたぶん竜都の自分の家か、世界を巡っている兄弟との打ち合わせ場所のどっちかだ。一応通常空間であの島があったと思われる「海が熱い場所」に行った可能性もあるが、まぁ、可能性としては低いだろう。

 今回「大神の悪夢」への挑戦をしたのは大神殿ではなく、正式な神域ポータルを設置出来る事が出来た「第一候補」のエリアである。だから、その暴走の様子をよその誰かに見られたって事も無い。一応事前に「第一候補」が人払いをしてくれたからな。


「しかし、突然「大神の悪夢」へ挑む為に場所を貸して欲しい、何なら参加も頼みたい、と聞いた時は驚いたであるが……これは、思ったより大事になりそうであるな」

「世界地図を使って話を聞いた時点でそんな気がしました。だからこそ、即行で全体を巻き込むように動いた訳ですし」

「お嬢」

「くはは! ――だが、実際起こった事とあの反応を見るに、正解であったようであるな。やもすると、同盟クランでも収まらぬぞ」

「流石にまだ超大人数動員の言い訳と動機は考え中です」

「想定はしてるのか」


 流石に同格とは言え最高責任者で組織代表な御使族相手に何言ってんだ、という内容が圧縮されたエルルの声掛けがあったが、「第一候補」本人は気にしてないし、それで妥当だと思っているから大丈夫だ。

 超大規模動員、つまり、召喚者プレイヤー全体を巻き込むかどうかってところまで話が膨れ上がる可能性がある。それは私も想定していたし、何だかんだ不真面目な様子を見せながら最低限のラインを見極めているだけのヴィントさんが、その最低限をぶっちして行動する、って時点でその可能性は高くなった。

 だから言い訳と動機、言い換えると宣伝方法と参加報酬は考え中だ。一応私はこれでも現金資産が余りまくっているし、うちで作れるものには人気商品が多い。その辺りで、プレイヤーイベントとして破格の規模な、サブイベントへの参加要請は出せると思うんだが。


「……色々考えているところ悪いが、「第三候補」」

「何でしょう」

「我の想定通りなら、恐らく神からの啓示が来るであるぞ」


 ……。

 …………。


「え、もしかして本気で「復活」までいくんですか?」

「というより、既に前例があるである。「凍て食らう無尽の雪像」の討伐を行う「大神の悪夢」の討伐成功回数が増えると、北の果てにある聖地の力が増すのは確認されているであるからな」

「聞いてないんですが……」

「あちらもその内“雪衣の神々”から啓示がある筈であるぞ」


 いや、想定はしてた。想定はしてたが。

 大神に「大きな傷」と認定されて空間ごと隔離されたあの島が、竜族にとっての聖地だっていうのは分かってたし。あの嵐というか積乱雲の通り抜けに関する慣れっぷりを見たら定期的に精霊が山ほど集まった嵐が生まれてたんだろうなとは思ってたし。

 「大きな傷」と認定された原因は再現レイドボスという形をとる「大神の悪夢」に挑戦する事で少しずつ減らしていける。そういうバックストーリーだから、「大きな傷」と認定された原因が少しずつでも減らせたら、隔離された空間が戻ってくる、っていうのは、可能性としてはまぁまぁあるとは思ってたんだが。


「聞いてないんですが。……え、もしかしてあの消耗品の備蓄を増やしておいて欲しいって言うのは」

「それに備えての事であるな。その前に、こちらに使う事になりそうであるが」


 聞いてないんだが? ……あとでクランメンバー専用掲示板を確認しておこう。確かにメインストーリーはこちら側の勝利で幕を下ろす事が出来たが、だからと言って情報の共有がちょっと抜けてもいいとかそういう事じゃないんだからな?

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