後来:嵐の聖地4

 初戦の時は時間のかかった「伸び拡がる模造の空間」だが、あの時と今ではそもそものステータスが違うし、装備が違うしスキルレベルが違うし、ギミックも全部分かっているし、何よりクラン単位で相手する程度の体力になっている。

 一般的なクランで相手をするように調節された体力というのは、特級戦力揃いの『アウセラー・クローネ』うちのクランにとっては、パーティか下手したら個人で倒せかねない、という規模だ。

 という訳で「第四候補」は「伸び拡がる模造の空間」そっちのけで宿光石の採掘にいったし、「第一候補」は相手こそしているものの周辺の海を調べているし、私も私で封印魔法と罠系魔法の連打は続けつつ、丸く磨いた宝石の詰まった箱を持って積乱雲に近づき、精霊獣の確保をしていた。


「まぁ確かに、引っ越しの時にテイムできる範囲の子しか連れていけなかったっすもんねぇ」

「面積も広くなったから、ちょっと寂しかったのは確かよね」

「属性精か霊獣に進化する、って前提ですけど、全体の数が増えると新しく生まれる子も増えますし」

「そもそもわたくしは、この時始めたばかりだったのですわよ? その後も通いましたけれど、中々しっかりと探す、という訳にも行かなかったのですわ」

「一応はレイド戦ですからね。他の事で忙しかったっていうのもありますし、数を倒す時はスピード重視でしたし」


 まぁそういう事だ。仕事はしているので大丈夫。魔法の連打はしてるから。それに再戦の場合、橋をレバー操作で持ち上げるところからだし、内海から積乱雲がどいたらそれにつられて本体が出てくる形になる。楽だ。圧倒的に楽だ。

 流石に神獣チャレンジはしないが、ルイシャンは連れてきている。そしてルイシャンがいると、野良状態の精霊獣でも安定できるようだ。鞍の上とか首筋とかでまったりしているもふもふは可愛いな。

 なおそんな状態だからメイン戦力はうちの竜族部隊の人達であり、だからこそ真面目に隊長やっているエルルから「それでいいのか」みたいな視線が時々向けられるが、正直今の状態でも過剰火力だぞ?


「時間を稼ぐ必要がありますが、野放しにも出来ない以上、最低限の火力でだらだら相手をするのが最適解なんですよね」

「で、そうするとある程度は暇になるんすよね」

「むしろ暇でなければ困るとも言うわ」

「かといってただお喋りするのもあれですし」

「その状態で有益な事、となると、宿光石の採掘か周辺調査か精霊獣の確保になりますわ。何も間違っておりませんわね」


 ねー。と召喚者プレイヤー女子組で声を揃える。うん。最適解だな? 少なくとも今回の挑戦では。突撃からしばらくしたら落ち着いて来て、その頃には好奇心が勝ってる精霊獣可愛いな。ブラッシングで溶けるところまでセットで。

 そんな感じで過ごす事、えーと、3時間ぐらいか。何か気のせいか積乱雲が小さくなった気もするが、それだけあればどれほど手を抜いていたって橋が全て開き切る。

 水路に詰まっていた分を全部ガチャ券もとい種として回収する事が出来たら、この積乱雲ともお別れだ。つまり、そろそろ時間切れな訳だが。


「……戻ってきませんね。もうちょっと時間をかけるべきでしたか」

「結構苦戦してたんだが?」

「でも致命的な事にはならなかったでしょう」


 それぐらいの戦力差はあるからな。流石に竜族部隊の人達に全てを任せるとまだちょっと危ないかもしれないが、何ならそれぐらいで良かったかもしれないとは思ったぞ。

 魔力の強制消費なんて滅多にするもんじゃないから、知らない形で疲れてる? ……それこそ訓練にいいんじゃないか? ちょっと皆身体能力に振り過ぎだよ。


「防衛設備を使う場合も魔力の強制消費になりますからね。いっそここで慣れておきますか?」

「普通は慣れるもんじゃないんだからな、それ」


 そうかな。魔力の強制消費ぐらい普通の技能だけど。回復速度を鍛えるのにいいだろうし。

 というか私の場合、【調律領域】の供給能力を使うと全リソースが強制消費になるからな。それで何度前線を支えていた事か。

 うん。訓練に取り入れた方がいい気がしてきたぞ。今回「第四候補」が宿光石をたくさん手に入れているだろうから、小隊ごとに1つ、あの超大出力サーチライトを配備するか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る