後来:嵐の聖地3

 過去に登場したレイドボスが、クラン単位で挑む体力や攻撃範囲になって登場する「大神の悪夢」。その相手によっては、召喚者プレイヤーは通り抜ける事が出来ない壁の向こうに何かある、って場合がある。

 もちろん「モンスターの『王』」のように、最初から周りが囲まれている場合もあるが、周りが開けている奴もいる。具体例を挙げると「凍て食らう無尽の雪像」とか「縛り連ねる外法の綱核」とか、後は名前に「禍」が入る復活レイドボス達だな。

 今から挑む「伸び拡がる模造の空間」も開けた場所がステージとなる再現レイドボスだ。そしてこれは主に復活レイドボスで確認されていた事なんだが、特定の種族の人を連れて行くと、その人は通り抜ける事が出来ない壁の向こうまで行けるらしいんだよ。


「は…………はァ!!??!?」


 だからまぁ。「伸び拡がる模造の空間」との戦闘空間、クラン単位で相手できる程度の規模に抑えられた人工生物と、そいつが「器」と認定した橋で蓋のできる水路、及び、水門で区切られた内海。内海に浮かぶ巨大な積乱雲。

 その全体を確認した時点でヴィントさんが素っ頓狂な声を上げるのは分かっていたし、そのまま普段に無い焦った様子で振り返ってくるのも想定通りだ。なので。


「ヴィントさんは全面的に自由行動を許可します。他にも独自に動きたい人は私に許可を得ずに動いて構いません。ただしこの空間がもつのはあの水路に詰まっている黒い物を倒し切るまでです。時間は有限である、という事だけ忘れないで下さい。では、行動開始」


 橋の上げ下げを行うレバー操作は1人でも出来るようになってるし、「第一候補」と「第四候補」が動いてくれたから、カバーさんだけではなくパストダウンさんとフラップさんもいる。だから、こっちは正直問題ない。

 だからどっちかというと問題は、この島が「竜族にとっての聖地」である事が分かり、私の方を振り返って行動許可を求めた、ヴィントさんの方というか、その行先だ。

 ……ま、だろうと思ったけど。


「移動制限の壁を越えましたね。そんな気はしましたけど」

「追わなくていいのか?」

「私達はあの壁を越えられませんからね。追いかけようがありません。それにどのみち、この場での目的を達成すれば強制送還されます」


 追いかける方法も無ければ必要もない。どちらかというと、目的である「伸び拡がる模造の空間」をあまり早く倒し過ぎないように気を付ける、もっと言えばヴィントさんが何かをする為の時間を稼ぐ必要がある。

 タイムアタックの対象になっているから、もちろん最短だと何時間かで削り切れる。のだが、今回は目的が違うからな。完全身内にしたのはヴィントさんが壁を越えられるっていうのを知られない為っていうのもあるが、時間稼ぎを目的としても問題ないって状態にする為だ。


『ところで「第三候補」』

『なんでしょう「第一候補」』

『“神秘にして福音”の神の神器に反応は無かったのであるか?』

『まだ無いんですよね。たぶん、ヴィントさんが覚悟を決めて協力してくれと頼んで来たら反応すると思います』

『なるほど。今は未だ予告段階という訳であるな』


 という若干メタなウィスパーもあったが、大体そういう事なんだよな。地図を出して話を聞いた段階で、あれ? 何で「指針のタブレット」にクエスト通知が来てないんだ? って思ったし。

 サブクエストと判定されるには、少なくとも「指針のタブレット」を持っている召喚者プレイヤーが関われるようになる必要があるからな。ヴィントさんが完全に1人で何とかしようと決めている段階では、参加も何も無い。

 だから「大神の悪夢」の「伸び拡がる模造の空間」に連れてきたんだけどな。エルルも言っていた通り、「大神の悪夢」は召喚者プレイヤーが挑むものって認識らしいから。


『ここで、召喚者プレイヤーが関わる事で何かある、何ならちょっと飛躍してでもいいから嵐の元となる島が復活するかもしれない、ぐらいまで思ってくれればサブクエストになるのではと思っています』

『そんな気がするであるな。となると、問題はどこまで規模を大きくするかであるか』

『まだちょっと情報が足りないので、どこまでの規模にした方がいいのかは分かりませんけどね』


 何故なら、現時点でヴィントさんの兄弟家族、いわゆる「一族」のくくりに入る人が何人いるかも分からないからな。

 何ならヴィントさんに兄弟がいた場合、何とかしようと協力者を求めて世界中放浪してる可能性もあるし。フリアド割と軽率にそういうことするから。

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