後来:嵐の聖地2

 ヴィントさんによれば、どうやらこのリアル年末年始、フリアド内部だと4年に1度の特別な年越しの中でも更に特別。20年に一度の「やる事」があるらしい。

 他の人には出来ないのか、と聞くと、顔をしかめて黙ってしまったので、たぶん無理なんだろう。なおかつ、私と契約している嵐の精霊さんを貸してくれると助かる、と来た。

 具体的にどこで何するのか、その由来とか、言える範囲ってどのくらい? と聞いてみたら、かなり考えた後。


「……殿下ってさぁ、世界地図大体把握してるよなぁ?」

「まぁ世界中駆け回りましたからね」


 なおこれは「世界地図の上で説明したいから見せて」である。なので一度椅子から立ち、内部に重量を上げる方向で開発された金属をこれでもかと仕込み、竜族でないと開けられないようにした引き出しを開ける。

 そこから地図をもって机の上に広げると、ヴィントさんは、南北の大陸西側の海の、無数の島が並ぶ範囲を東側に抜けた辺りを指差した。


「この辺で、大体ずっと海が熱い場所があんだよ。普段は問題ないんだが、竜皇様の生誕祭と祭礼新賀が重なる年は、そこの温度がめちゃくちゃに上がってなぁ」

「ふむ」

「ほっとくと温度が上がりっぱなしで、生き物が住めなくなっちまうんだよなぁ。んだからこう、嵐を起こして周りと海水を混ぜながら蒸発させて、温度を下げなきゃならん訳よ」

「なるほど」

「っが、問題はぁ。それが出来るのが、何人もいねぇって事なんだよなぁ」

「……。もしかしてヴィントさん、命削ってます?」

「それでか。生誕祭の2回に1回はどこ探してもいなかったのは」

「命は削ってねぇけど、キチぃのはまぁ」


 なお「何人もいない」の竜族的意味は「一族の中で数人かそれ以下」だ。つまり、少なくとも現時点ではほぼヴィントさんしかいないと思っていいだろう。属性の概念がある種族は因子スキルの関係で、どうしてもそういうのって一族の口伝とか代々伝わる祭事って形になりがちだからな。フリアド世界だと。

 ただここで疑問なのは、ヴィントさんは最初の大陸の竜都で封印状態だった。という事は、同じ一族の人達も封印状態だった筈だ。一部は竜都の大陸に残って防衛戦しながら血を繋いでいたかもしれないが、ヴィントさんが示した地点は、当時モンスターの巣窟になっていた範囲である。行ける訳がない。

 ……まぁモンスターの巣窟になっていたって事は、被害はモンスターだけで済んだからいいのか。たぶんいいんだな。いいって事にしよう。

 それに、だ。


「エルル。うちの部隊の人達で「大神の悪夢」に挑んだことってありましたっけ」

「……。いや、あれは召喚者が挑むものだろ? それに訓練なら、こっちで強さも場所も調節できる、あの神の試練の方が良かったし」


 あん? と、なんのこっちゃって顔をしているヴィントさんをちょっと横に置かせてもらってエルルに確認。想定通りの返事だったので、1つ頷き。


「ヴィントさんの休暇願は一旦保留として、エルル。今すぐ部隊全員を集めて出撃準備を整えさせてください」

「は?」

「私は他の仕事を片付けつつカバーさんに連絡します。完全身内だけで挑戦する事にしますので、各自猛烈に働くことになるのを覚悟するようにと通達をお願いします」

「いやお嬢」

「挑む先は「伸び拡がる模造の空間」です。宿光石による照明器具を全員に持たせるように。それさえあれば何とかなる筈ですから」

「確かに何とかなるかも知れんが」

「今日非番の人も引きずり出して全員を揃えるように。休日出勤手当と通常給与に加えて特別休暇日数を出しますから、今回に関しては絶対に全員です。いいですね。はい行動!」


 と、さっさと指示を出して書類仕事を開始だ。同時にカバーさんにウィスパーを飛ばし、「伸び拡がる模造の空間」の「大神の悪夢」に、私と竜族部隊の人達をメインとして、身内だけで挑戦したいが都合の付く人はいるか、と確認を取る。

 どうやらカバーさんは当然、年末も近いし何かあるかもって事で、比較的『アウセラー・クローネ』も稼働率が高いタイミングだったようだ。フライリーさんとソフィーさん達、マリー達に加え、なんと「第一候補」と「第四候補」が動ける状態だったらしい。

 ん? 結局どういう事だって? まぁ確かにヴィントさんはともかく、エルルも気付いてないみたいだったが。



 ヴィントさんが言った「海が熱い場所」ってな。

 たぶんあの「伸び拡がる模造の空間」がいて、「大きな傷」として封印された島のあった場所なんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る