後来:嵐の聖地1
フリアドではメインストーリーというか、メインクエストは終了した。最後まで勝ち切ってやったからな。だから、もうメインクエストを対象としたイベントは発生しない。
ではやる事が無くなったかというと、まぁそんな訳がない。フリアドは今日も盛況だからな。分霊だった大神を含め、外から来た神の元の世界の探索と復興があるし、そもそもフリアド世界内部にもいくつもエンドコンテンツがある。
それに、サブクエストの数と種類はメインクエスト終了に伴って大幅に増えている。私はコトニワ世界の探索をメインにしているが、別にフリアド世界が平和で事もなし、何てことは無いのだ。ゲームとしては正しい姿だが、世界としては平和からは程遠い。
「お嬢、今日の仕事な」
「今日の仕事は今まさに終わった筈ですが?」
「それは領地の分だ。これは組織関係」
手のひらを目一杯広げたぐらいの高さの書類を片付け終わったところで、その倍ぐらいある書類の山をもってエルルが入室してきたのに顔を引きつらせてしまうのは仕方ないと思いたい。うっそだろ。
けど組織関係って事は、竜族部隊の人達や研究施設を引き継いでそのまま一緒に引っ越してきた魔族の人達、何よりうちの子達の要望って事だからな……仕方ないか……。
と思って腰を上げかけたところから、椅子に座り直したんだが。
「おや? ヴィントさんからも何か?」
いつもと違って、その後ろにヴィントさんが続いていた。えっまさか2人で運ばないといけない書類の量!? と一瞬思ったんだが、ヴィントさんが手に持ってるのは紙1枚だ。
いつものヴィントさんなら、エルルの運んでる書類の山に乗せてさっさとどこかへ逃ゲフン行ってしまいそうなもんだが。何か動きが固いし様子がおかしいな。何かあったか? っていうかこれはあれか?
「というか、私に何か直談判したくて来たのでは?」
「……たいちょーと言い殿下と言い、話がはえーのも大概なんだがぁ?」
「諦めろ。俺はともかく、お嬢がそういうのを見逃す訳がない」
エルルの方はどういう意味だ。当たり前だろ。竜族部隊の人達は全員丸ごと既にうちの子だ。うちの子の異常を見逃す訳がないだろう。それでなくてもエルル筆頭に不調を隠す人が多い傾向にあるってのに。
「エルルを始め、部隊の人達はルウとは言いませんが、せめてルチルを見習って下さい。この間の訓練所における備品の話もそうですけど、何かあったら言うように」
「そこで俺が入るのか」
「むしろ何かあったら文字通り消える分だけ、エルルが一番難易度高いまであるんですからね。エルルに比べれば他の人の異常を見つけるのは簡単です」
「たいちょーのせいで殿下の観察眼が鍛えられてんじゃねーか」
そういうとこだぞ。そう、そこで目を逸らすとこだ。こっち見ろエルル。
「で、ヴィントさんは何があったんですか? というか何があるんですか?」
まぁでも、今はヴィントさんだ。エルルに視線が向いてる間にそっと私の机に書類置いて帰ろうとしても逃がさないぞ。ヴィントさんも大別すると風属性だから、竜族にしては気配が割とちゃんと消せてるんだが、それこそ比較対象がエルルとニーアさんだからな。
という事で、書類を置いて帰ろうとした瞬間の、一番近づいたところでくるっとヴィントさんの方を見る。ギクーッと動きを止めるが……その辺がこう、「らしく」無いんだよなぁ。
もっと自信家で飄々として煙に巻いてうやむやにして、普段なら弱みなんて、こっちがどれほど探ったって爪先程も見せようとしない癖に。そんな取り繕いすら出来ない程の「何か」がある、って事だろ?
「いや何でもねぇし。ただまぁほら? 年越しの忙しい時期だから? 休みを取るにしても一応直接確認した方がいいんじゃねぇ? ってたいちょーに言われてよー」
「エルルですら分かる程様子がおかしい理由がそんなもんじゃないでしょう。第一、エルルが時期で休みの理由を聞く訳がないです。まして私に直訴しろとまで言うって事は、相当な何かですよね?」
「…………そういうトコだぜ殿下ぁ」
何がだ。
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