幕間?:さてこれは嘘か誠か?

 渡すべき相手に「絆のリング」を渡し終わったら、時間も時間なので当然ログアウトだ。どうやらサーニャは張り切り過ぎた結果皆と一緒に寝てしまったらしく、現在ついて来てくれているのはエルルだけである。


「護衛が護衛対象より先に休んでどうする……」

「まぁあれだけ暴れれば仕方ありませんよ」


 そういうエルルも声が疲れているので、さっさと私も休んで(ログアウトして)エルルを休ませるべきだろう。真面目なんだよな。休んでいいんだよ?


「あ、そうでしたエルル」

「どうしたお嬢」

「私が最初に吐いた「嘘」って、何だったか分かりますか?」


 しかし船を停める作業中に、どうせついでだと思って聞いてみた。ん? という感じで僅かに眉間にしわを寄せたエルルだが、すぐに首を傾げて見せる。


「ほとんど最初のあの一言だろ? 「これから面倒くさい話をします」ってやつ。そこが嘘なら、後に並べた条件は全部後付けだ。よく考えてって言うのを強調したのは引っ掛け」

「流石エルル。正解です」


 大正解なんだよなー。後は何かそれっぽい事を言っているだけで、私の最初の「嘘」は考えれば考える程ドツボに嵌るタイプだ。元ネタは「答えはかんたんです」という問題。後にはやけに難しい、或いは答えが何通りもあるような問題が続くが、答えは「かんたん」という引っ掛けである。

 さて。そしてその引っ掛けに使った「よく考えて下さい」という言葉は、意外と影響があったらしい。後は単純に人数と、その相手がほとんど『可愛いは正義』の人達だったというのもあるかも知れない。つまり、分かってても黙ってくれた、って可能性だ。

 まぁそういう事なので、「嘘」として見破られずに経過した時間はほぼイベント期間一杯。人数も十分、という事で、こちら「も」高ポイントを獲得した「嘘」となった。となれば、順当に行けば「絆のリング」がもう1つ手に入っている、筈なのだが。


「まぁそれでも意外と見破られなかったらしく、大神からご褒美を頂きまして」

「半分以上あの迷路のあれで吹っ飛んだような気もするけどな……」


 イベントの性質とそのポイント獲得方法から、運営が想定した「絆のリング」の入手達成は、多くても1人1つまでだ。ところがここに、うっかりと2つ手に入れる条件を満たしてしまった召喚者が存在している。

 だから、流石にこれはちょっと、と、運営からのストップがかかった。余分に届いていたメールは、そのお詫びだったのだ。しかしそれでも、何もなし、というのはどうかと思ったのか、運営は代わりの物を贈る事にしたらしい。

 インベントリから、ではなくドレスのポケットから小さな箱を取り出す。それを、エルルの胸元に押し付けるようにして渡した。


「と言う訳で、正解したエルルには私からこれをあげます。まぁ元は大神から貰った物なんですけど」

「?」


 私の片手よりはちょっと余る程度の大きさの箱を、疑問符を浮かべながら開けるエルル。中に入っているのは、銀色の地金で竜の翼を模り、黒く塗った上に白い星が光るような、耳の縁を挟む形でワイドタイプのイヤーカフだ。

 お詫びだけあってある程度デザインが指定できたそれが何か、エルルはちょっと分からなかったらしい。


「耳飾り?」

「です。対となっている片方と相互に会話が出来る力があります。相互だけですけどね」

「つまりお嬢が迷子になったり飛び出していってもすぐ探せるし事情(言い訳)を聞けるって事か」

「……そうですね」


 迷子になるのは私って言うより……と思ったところで考えるのを止める。何でこっちがエルルだったかって言うと、サイズの自動調節能力が無いからだ。

 能力的には劣化版だが、デザインを選べるというのが運営からのお詫びだった。仕方ないね? 想定外だったんだろうし。

 向きを確認して左耳に付けるエルル。うーん元がイケメンだから良く似合う。


「これでお揃いですね!」

「ん? ……あー、対ってそう、いう……」


 長い髪を持ち上げて右耳を見せる。同じデザインのイヤーカフはもう付けた。ははは、だから地金が銀色だったんだよ。銀色なら私は大抵似合うからね!

 …………うん。エルルがその後何だか余計に疲れて見えたが、気のせいなんじゃないかなぁ。

 だってしょうがないだろ。




 ……この世界(フリアド)における、対の耳飾りの意味なんて知らなかったんだから!!

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