幕間:年末の合間

 リアル年末は、大体忙しい。主に年末年始にハードなイベントを持ってくる運営のせいで。

 そして運営がイベントで忙しくしている原因なので、フリアド内部におけるクリスマスは影も形もない。いや、ボックス様のように、一部神様にその当日祈りを捧げればプレゼントがもらえたりもするが、大きな動きは無い。

 まぁ何かあったとしても、大体はイベントの大詰めをしているタイミングだ。分類詐欺のミニイベントなんかをそのタイミングで開催されたら、全力の抗議メールを送る。


「…………。確かに、ミニイベントではありませんが」


 さてそんな状態で、南北の大陸で空間異常を解決している中でシステムメールが届けば、まぁ警戒するだろう。2ヵ月連続イベントの真っ最中だぞ、と。

 で、実際警戒しながら確認したんだが……ミニイベントという名の必須イベントでは無かった。そして空間異常の攻略に必須な物をたくさん作る必要がある、という方針を変える必要もなかった。

 そこに書いてあったのは、手作りの靴下に、欲しい物を書いた紙を入れておくと、その靴下の品質に応じてプレゼントが貰える(靴下は消える)、というものだった。何かを集めたりどこかを走り回ったりする必要はなく、生産作業の延長だ。


「その、レア度に応じて、というのがまたひと悶着ありそうな気がしますね……」


 靴下のサイズや種類に決まりはないのだが、手作りというのはどうやら最低でも布地を買って裁断するところからしないといけないらしく、誰かが作ったものを買うのはダメらしい。掲示板を覗いたら、戦闘職召喚者プレイヤーが悲鳴と怨嗟の声を上げていた。

 まぁその内「簡単靴下手作りキット」みたいなものが販売されるだろうし、そちらは落ち着くだろう。作り手の生産スキルが無くても、元の素材が良ければある程度品質は上げられるからな。

 なお、欲しい物が貰えるのは1度きりでは無いようだ。返品というか交換というか、一度貰ったプレゼントに全く手を付けずに新しい靴下を用意し、欲しい物を書いた紙を入れて、プレゼントと一緒に置いておくと、前のプレゼントと新しい靴下が消えて、新しいプレゼントが貰えるらしい。


「……。あぁ、なるほど。一応スキルレベルが低い人への救済でもあるんですね」


 ただその書く内容は全く同じでもいいらしく、貰った回数=靴下を作った数が増えると、プレゼントが良くなっていくらしい。下手でも数を揃えればある程度のラインまでは届くって事だな。

 ちなみに貰い方は、靴下をベッドの近くに置いて、部屋が無人の状態を5分以上維持する事のようだ。夜を待つ必要はないというか、数をこなそうと思えばできる感じか。まぁそうでなければ、ここまで検証が進んでないだろうけど。

 そして早くも更新された『アナンシの壺』のイベント情報のページには、欲しい物はざっくりとした分類で書く方が良い、と書いてあった。例えば「敏捷補正がついた短剣」ではなく「短剣」もしくは「小型装備」。


「まぁ、靴下の品質によって内容が変わるなら、それはそうでしょうけど」


 何故なら靴下の品質が「欲しい物」の最低ラインに届かない場合、ただ消えるだけになるんだそうだ。一応数はカウントされているから何度も繰り返せばその内貰えるんだそうだが、雑にしておいた方が上がり方が分かりやすいとの事。

 だが、今はイベント中で大変忙しい。はっきり言って、そう何度も繰り返している暇はない。生産作業で忙しいからな。作る物は山ほどあって時間は足りない。

 となると、一発で可能な限り品質を上げるべきなのだが……。


「……。その結果がこれか?」

「これですね」


 なので私はまずうちの島にいる霊獣達をブラッシングして抜け毛を集め、ヘルマちゃんに頼んで素材をちょっと分けてもらい、そのままヘルマちゃん指導の下で靴下を作り上げた。素材が良ければ品質は跳ね上がるからな。

 欲しい物は、どうなるかなーという実験も込みで「世界平和」。その結果どうなったかっていうと。


「ま、自分で守れって事でしょう」

「……それでいいのか?」

「世界情勢的に仕方ないんじゃないですか?」


 作った靴下は普通サイズだったんだが……そこに、チケットのようなものが2枚入っていた。そしてそれにはそれぞれ「引換券(建設修復用素材:石材×10万)」「引換券(建設修復用素材:木材×10万)」と書かれていた。

 うん。いやまぁうん。確かに、いくらあっても足りないし守る為には必要なものだけども。



 ちなみに、その靴下をそのまま、同じ内容で同じ靴下をもう一度交換してみたら「引換券(神々の塗料×1万)」というものが増えていた。

 …………確かにいくらあっても足りないものだけどさぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る