後来:赤い薔薇の庭

『大ニュースでしてよ!!!』


 と、珍しくもマリーの大声が、これまた珍しくクランメンバー専用広域チャットに響いたのは、土曜日の午後のログインだった。

 私はその時一旦異世界から帰還し、その間に溜まっていた書類仕事を終えて消耗品の生産作業をしていたのだが、本当に珍しいな。マリーがここまで大興奮するのは。

 生粋のお嬢様である彼女はコトニワの頃からの付き合いであり、ボックス様の世界で元コトニワプレイヤーとして先陣を切って探索している。他にもいくつか進捗の良いクランがあるらしいので、そこにも元コトニワプレイヤーがいるのだろう。


『おっと「第三候補」のとこのお嬢様じゃん。珍しいな、どしたん?』

『私はもうすぐ休むけど~、どうしたの~?』

『あっえっとすみません、ソフィーナ共々戻ってきたら聞かせて下さい!』

『ソフィーネさんお疲れ様っす。で、どしたっすか?』

『広域チャットで報告というのがまず珍しいのに、マリーですからね。まぁそれだけ大ニュースなんでしょうけど』

『その通りですわ!!』


 「第四候補」が付き合えそう。「第五候補」はもうすぐログアウト、ソフィーネさんはログアウトするとこだったなこれ。で、フライリーさんがいる。他は反応がないからログアウト中か興味がないか、遠くにいるかだな。


『んもう、本当に大ニュースでしてよ!? 急いで全員こちらに集合して頂きたい程度には大変な事が分かりましたわ!』

『……全員招集とは驚きであるな』

『あ、いたんですか「第一候補」』

『来客対応中であったである』


 なるほどそれはしょうがないな。

 しかしマリーの大ニュースとは何なんだろう。大体主だったクランメンバーで、反応する相手は揃ったように思えるが。


『植物園が見つかりましたの!!』

『……あー……』


 そ…………っかー。

 見つかったかー……コトニワ世界の、植物園が……。

 うん……そうだな……大ニュースで、マリー大興奮だな……。


『待って「第三候補」。何その、何そのクッソ深いため息と呻き声。何か既に嫌な予感しかしないんだけど』

『大ニュースでは、あるようね~。私達には、まだ分からないけれど~』

『……一応、詳細の説明をお願いしても良いであるか?』

『仕方ありませんわね! よくお聞きになって!』

『……必要分はこちらで補足します』


 前提として、コトニワ世界は一度滅びかけているというか、まぁぶっちゃけ滅んでいる。その理由は破壊を司る神々の暴走であり、破壊の力が世界中で暴発するような形でばら撒かれたからだ。

 ただそれでも元から頑丈に作られていたり、守護を司る神によって守られたり、創造を司る神によって対処されたりで、まぁまぁ、そこに何があったかが分かる程度の瓦礫はどこにでも残っているし、場所によっては物や施設が一部ないし内部だけは無事、という事がある訳だ。

 コトニワ時代はそういう場所が「探索先」として表示されて、住人に探索に行ってもらい、その場所独自のアイテムを手に入れる事が出来た。だから植物園は、植物に関するアイテムが手に入る場所だ。



 と、思うだろ?



わたくしの「庭」に根付かせた「緋紅薔薇」の原種がある場所ですの! そろそろ世代が重なって来て色が暗くなっていたのですわ! 是非とも原種の種を持ち帰りたいので、ご協力願いたいですの!』

『なお「植物園」は例外として資源の採取場所ではなく、こちらでいうダンジョンです。それも世界背景的に、植物に関する創造の神の力と枯死や搾取といった権能を司る破壊系の神の力が合わさり、突然変異した植物系モンスターの巣窟です』

『ある意味「生きている」場所ですから無限に資源が得られる良い場所でしてよ?』

『そうですね。もちろん相応の危険に対処できるだけの戦力があれば、という前提なら』


 っていう事なんだよな。

 難易度? ……当時のフル装備だったルージュでも、装備の損耗率が最低3割。もちろんそれだけ得られるものはあったんだが、私は積極的には探索しなかった。ちょっとな。消耗が激しいから。


『うーんこの。ちなみにお嬢さんが原種の種欲しいって言ってるけど、その難易度ってどれくらい?』

『回数をこなせばその内手に入りますわ!』

『ランダムポップのレア中ボスのプチレアです』

『なるほど! 難易度たっけーな!』


 だから、マリーの真っ赤な薔薇で埋め尽くされた「庭」は名物になっていた訳でな。

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