昔日:箱姿の神の話

 そもそもの始まりは、創造の権能を持つ神が暇になった事だった。

 溢れる力と使い切れない時間を持て余したその神はふらりと元居た世界を離れ、世界の狭間を気紛れに彷徨った末に、生まれたばかりの世界を見つけて、そこに手を加えることにした。

 だが、すぐ問題が発生する。生まれたばかりの世界は非常に小さく、神がいくらも創造の力を使わない内に、世界はぎっしりとつくられたもので埋まってしまった。つくっても置く場所が無いのであれば意味がない。さりとて、その神は創造する神であり、破壊する力は持っていない。



 そこに、ふらふらに弱った様子の別の神がやってきた。話を聞いてみればその神は破壊の権能を持つ神であり、最後の一仕事である生まれた世界の破壊を終えたところで、うっかり生き延びてしまったらしい。

 ちょうど良い、と創造の神は破壊の神に提案する。生まれたばかりのこの世界はあまりにも小さく、創造の力だけでは上手く成長していかない。だから一緒に世界を育ててくれないか、と。

 生まれた役目自体は既に終えていた破壊の神だが、新たに役目が貰えるのなら、と、喜んでその提案を受けた。創造と破壊の力が揃ったことで、ようやくその世界は回り始めた。



 やがて世界は少しずつ成長し、それに応じて創造の神は自らの眷属神をつくりだした。つくる側が増えるのなら、と、バランスを取る為に破壊の神の眷属神も増えていった。

 法則が整い、環境が整い、命が生まれ、歴史が紡がれ始めて、そこで創造の神によらない、信仰心から自然発生した神も幾柱か加わった頃。破壊の神の眷属神が、何故か暴走を始めた。

 世界が回るのに必要なだけ破壊する。それが本来の役目だったが、明らかにそれを越えて何もかもを破壊していくその暴走は、収まるどころか他の眷属神へも広がっていった。



 熱病にも似たそれは、破壊の神が止めても、創造の神が治療の為のものをつくっても、一向に収まる事は無かった。やがてその暴走は戦争という形で世界に生きる命に牙をむき、ともに協力して世界を見守り育てていた、創造の神とその眷属神へもその矛先を向けた。

 これはどうしようもない。そう判断した創造の神は、この世界から離れる決断をした。元々放浪していた神だ。多少眷属神が増えたところで、何の問題もない。

 一方で破壊の神はその決断を支持して、しかし自分はこの世界で深い深い眠りにつくことにした。暴走の原因は分からない。だが、眷属神を直接破壊すれば、世界ごと破壊してしまう。それを避ける為の決断だった。



 それに、壊すものがなくなれば暴走している眷属神は自滅する。だから、そうやって落ち着いてから創造の神が戻ってくれば、また世界を育て直せるだろう。2柱の始まりの神はそう約束して、一時別れることにした。

 だが問題が残る。その中でもっとも大きいものは、自然発生した神々の居場所と、落ち着いた頃をどうやって創造の神に知らせるか、という事だった。

 創造の神は自らの眷属神と相談し、この問題を一緒に解決する方法を思いついた。それはつまり、自然発生した神々に、自分たちが去った後の世界を見届け、そして落ち着いた頃に、戻っても問題ないという報告を届ける役目を与える事だった。



 しかしその結論が出て、それに必要な道具を創造の神とその眷属神が作り上げる頃には、破壊の神の眷属神による暴走、その力の及ばない、一握りにも満たない小さな場所を作る為に、ほとんどの神々は力を使い果たしていた。

 創造の神は、その神々が力を集めて何とか作った小さな場所を、託され預けられていた数柱の神の内、もっとも力の強い神に呼びかけた。その小さな場所を半分世界の外に移して確実な安全を確保する代わりに、いつか戻る日を知らせる役目を請け負ってくれないかと。

 その神は、辛うじて残った民が安全に過ごせるのなら、と、その役目を引き受けた。その神に一番近い場所にいた神は、あなたが背負うなら、と、その眷属に下って共に役目を引き受けた。



 そうして問題を解決した創造の神は、眷属神と共にその世界を去っていった。

 破壊の神はそれを見届け、深い深い眠りについた。


 その後の事を知るのは、創造の神から役目を与えられた神と、元神の眷属だけだ。

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