幕間:時には釣りでも

 イベントを攻略中は忙しい。忙しいが、他の事をしている時間が全くない訳じゃない。

 畑の収穫とか、精霊獣系の子達のブラッシングとか、そういう私的に楽しい事も合間合間にやっている。むしろこっちだけやっていたい。少なくとも私としてはこういうのをしたくてフリアドを始めた部分が大きいし。

 忙しいには違いないが、だからこそ息抜きは大事だろうって話だよ。つまりそういう事。リフレッシュする事でやらなきゃいけない事の効率が最大になるんだよ。


「……あの妙な魚が釣れた時期以降、釣りが楽しくなった小さい組の願いを断り切れなかっただけというか、それに乗っかって現実逃避しようとしてるように見えたが」

「気のせいです」


 気のせいって言ったら気のせいだ。気のせい以外の何物でもない。

 という事で本日、釣り大会である。いやー、ルドルの希望だったけど桟橋を作ってて良かったよね。ちょっと真珠貝の養殖をする為の籠とかが増えた時に増築もしたから、使徒生まれ組とコトニワ組+数名ぐらいなら全員いっぺんに釣りが出来るし。

 ちなみにルウは【人化】していてもしていなくても釣り餌の方に気を取られてしまうので、不参加の上島の東側には来ないようにしっかり言い聞かせておいた。釣り餌を使っての釣りって、私達だと雑魚モンスターをフルーツタルトやパフェでおびき寄せるようなもんだからな。


「丁度時期も良い魚がいるようですから、仲良く頑張って釣りましょうねー。美味しくて大きい魚が釣れたら、それだけソフィーナさんが作った料理をたくさん食べれますよー」

「「「はーい!」」」


 実に良いお返事。お返事側にサーニャが入っていたのは予定調和。今回の釣り大会の発端であるミラちゃんは、ちゃんと日光対策の日傘というかパラソルと、これも後付け増築したひさしが仕事をしているから大丈夫そうだな。照り返しでも微妙に痛いみたいだから頑張った。

 カバーさんとソフィーネさんは釣りには参加せず、撮影班兼万が一の時のレスキュー係。ソフィーナさんは私が今言ったように釣った魚を料理していく係。最終的に魚料理でテーブルがいっぱいになればいいなって予定だ。

 ……何か研究施設の方から「釣りなら! 釣りなら参加させていただきたくぅぅ――!」みたいな声が聞こえる気がするが、まぁそれはさておき。


「こんな島の近くまで来るのか?」

「来るみたいですよ。ちょっと離れたところで撒き餌もしてますし」

「……それでわざわざ小舟まで出してたのか」


 なお、カバーさんとソフィーネさんは撒き餌係も兼ねている。きゃっきゃと楽しそうな年少組を存分に撮影できて、本人達も大変楽しそうだから問題ないな。仕事はしてるし。

 時期が良い魚っていうのはどうやら秋刀魚に近いらしく、ソフィーナさんの手にかかれば大変美味しい焼き魚になる事だろう。今からとても楽しみだ。そしてそれをたっぷり食べるには、たくさん釣ればいい。


「焼き以外にも色々美味しい食べ方があるようですし、頑張って釣るとしましょうか」

「聞いた事ないんだよなぁ……」

「傷みやすい類の魚って話ですからね。新鮮ならお刺身でもいけるそうです」


 楽しみだなぁ! と思いながら竿を振って反応を待っていると、全体を見ながらも釣りに参加していたエルルが、ちょっと首を傾げた。


「……。なぁお嬢」

「なんでしょう」

「召喚者って割と魚系を生で食べるのが好きなのか?」


 あー……。

 そうか。エルル自身があんまり海の幸を楽しめる環境に無かったっていうのもあるだろうけど、そう言えばクラーケンこと異世界イカを生で食べるっていうのも、渡鯨族の人以外には知られてなかったな。デビルフィッシュこと異世界タコも同様。

 そうだな。


「好きですね。その為だけに鮮魚の冷凍技術が発達する程に」

「そんなにか?」


 そんなになんだよな。だって美味しいんだから仕方ないじゃないか。

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