幕間:猫の一日

[限定スキル【猫化】が全対象者に付与されました

限定スキルは本日中に限り最大レベル状態で発動します

限定スキルは種族レベルに加算されません

限定スキルは何度使ってもレベルが上がりません

限定スキルは本日2月22日が終了した時点で削除されます]


 なんのことかって? 2月22日の日付変更線と同時に届いたシステムメールだよ。またド直球な。しかしイベントでもアイテムでもなくスキルか。

 で。ちょっと注目してほしい。具体的にはこのシステムメールの1文目。そう。召喚者プレイヤーではなく、「対象者」だ。何が違うんだろうと思ったんだけどさぁ。


「それでこの、猫だらけの光景になると。あ、エルル。列整理してくれてるところありがたいのですが、そもそも何の列ですか、これ」

「決まってるだろ。お嬢のブラッシング待ちだ」


 まぁ、うん。いやー、もう、様々な猫ねこネコ。見える限り全てが猫状態で毛の長さも色もバラエティに富んだ猫がわらわらうにゃうにゃと……たぶんこれ、霊獣や属性精の子達も全員【猫化】を発動してるんだな。

 そしてその全員が私のブラッシング待ちと来たか。まぁ確かに、毛のある子でないとブラッシングは出来ないけどさぁ? 特に属性精になった子は、髪の毛だけだから精霊獣だった時と比べると物足りないかもしれないけども?

 ……ま、カバーさんが撮影班よろしくスタンバってるし、別にいいんだけどさ。


「今日限りの天国ですね? よろしい、全員残らず愛でてあげます」

「お嬢もノリノリだな……」


 おっと。口に出すのが逆だった。

 しかしまー短毛長毛小型大型しっぽの曲がり方まで様々な猫だらけとは控えめに言って天国だな。目の色も青や黄色からオレンジや黒にピンク色までまさしくファンタジー。それがブラッシングしてもらうために列をなして待ってくれてるって? 天国だな(確信)。

 ふわふわもさらさらも良いものだ。時々もちもちしてる謎触感の毛が混ざってるんだけどこれ元は誰だ? 正体は別としてこれはこれでアリだけど。


「しかしマリーも運のない。まさか今日に限ってログインできないとは」


 これもステータスの暴力になるのか、体の大きさに合わせてブラシを使い分けて次々と猫をブラッシングしていきながら、とりあえず現在時点で唯一確認されている公式の猫召喚者プレイヤーがいない理由を思い出す。

 どうやらあちらはリアルで付き合いがあるとかで、ゲーム遊びであるこちらには来れそうにない、との事だった。まぁたぶんあっちも猫関係だろうし、個人情報に引っかからない範囲でお土産写真を持ってきてくれるとの事だったので、こちらもしっかりスクリーンショットを撮っておこう。

 もちろんカバーさんに撮ってもらった分も見比べるし、恐らく『可愛いは正義』の人達やソフィーさん達もそれぞれ確保しているだろうから、皆で出し合って見比べながらわいわいやろう。――と思いながら、ふわふわくせっ毛な短毛かつ尻尾の先から耳のてっぺんまで、目も含めてピンク色の小型猫をブラッシングして、そのまま頭の上に乗せた。


「にゃーん!?」

「ははは。なんか驚いていますがあなたはそこが定位置でしょう?」

「にゃぁーん!?」

「何故ばれた、じゃないんですよねぇ。分からいでかですよ、フライリーさん」

『うわ本当にバレてるっす!?』


 流石に全身ピンクなのはあなたぐらいだからだな。ふわふわくせっ毛なのは普段がふりふりドレスだからか? 大きさも猫になった分だけちょっと大きくなったかもしれないが、それでも周りと比べると圧倒的に小さいし。

 しかし【魔物言語】は通じるが、ただの鳴き声だと何言ってるか分かんないな。というか、意識する事で【魔物言語】と鳴き声を切り替えられるのか。鳴き声の時は同族補正が働くのかな。


「しかしさらっと召喚者プレイヤーが並んでいますね。別にいいんですけど。ちゃんと許可を取ってるんならいいんですけど」

『えっ、先輩もしかして全員分かってたり……?』

「最初の方に並んでたクリーム色のさらさら長毛で黄色と緑のオッドアイな中型猫はソフィーネさん。そのすぐ後ろに並んでいた橙色のふわふわ長毛で青と緑のオッドアイな中型猫はソフィーナさん。フライリーさんのちょっと前に並んでいた若草色の短毛で赤紫の目の小型猫はスピンさん。それから」

『あ、いや、いいっす。バレた人達が【猫化】した群れの中でギクシャクしてるんでいいっす』

「こうやって喋ってる間にしれっと混ざってブラッシングされていった赤い目の黒猫はあれ「第四候補」ですよね。うちの子をナンパしたら叩き出すつもりで気配は追いかけてますけど」

『先輩それはステータスの暴力でいいんすか? なんか違うものに感じるっすよ?』

「分類としてはステータスの暴力なんじゃないでしょうか」


 流石に「第一候補」と「第二候補」はいないようだが、もう少し先に並んで待ってる金色の長毛で紫の目をした超美猫は「第五候補」だろ。何やってんだ。……ブラッシングされたいのかそうか。

 いくらうちの島にいる霊獣や属性精が多いといったって、流石にこれは多いんじゃないかと思って注意してたらやっぱりだよ。これはいくらか『可愛いは正義』から、流石に人数は絞ってるだろうけど希望者が【猫化】して混ざってるな?

 まぁブラッシングをした後は大人しく待機場所……という事にいつの間にかなっている草原の一角で猫団子になってるんだけど。と思いながら、のす、と膝に乗せられた大きな頭をブラッシング。


「エルルー」

「なんだ、お嬢」

「そろそろ列も短くなってきましたし、エルルも並んでいいんですよー」

「いや流石に俺は…………」


 私が声をかけたことで振り返り、エルルも見たのだろう。私が今ブラッシングしている猫を。……ちょっと硬い毛質の黒い短毛で、青空みたいな青い目の、大型猫を。


「…………おい。何やってんだアレクサーニャ」

「うなー」

「言葉を喋れ。護衛が何をしてるんだって聞いてるんだが」

「なぁーん」

「おいこら」


 ブラッシングしながら喉元をくすぐると、ゴロゴロ喉を鳴らしてご機嫌だ。その大きさはともかく完全に猫になり切ってるな。いやー、普段は【人化】を解いた状態だとブラッシング出来ないから。サイズの問題で。もちろん今は全力でブラッシングさせてもらうけど。


『うわー流石姫さん、滅茶苦茶気持ちいい。エルルリージェもやってもらえばいいのに』

「お前な……」

『大丈夫大丈夫。この格好でも能力は変わらないみたいだから。爪が出し入れできるって面白いよ?』


 尻尾の先までブラッシングが終わると、大型黒猫、もとい【猫化】したサーニャは私の隣で丸くなった。言葉はちゃんと喋ってるが、動作としては欠伸をしながらなんだよな。猫っぽい。竜の姿よりしっくり来てるってどうなってるの。

 まぁその間も私は【猫化】した猫達のブラッシングを進めている訳でさ。どうやらカバーさんも、なんか定点カメラみたいなものを巨大猫団子の周囲に設置してるから、このあと来るつもりだろうし。


「ちなみに、全員分のブラッシングが終わったら私も【猫化】してあの猫団子に混ざります。そうなると猫の姿をしている方が護衛はしやすいんじゃないですかね?」

「またこういうときだけ都合のいい理屈を……」

「都合が良かろうがなんだろうが事実ではあります。というか、私もエルルをブラッシングしたいです。普段は絶対できませんからね。大きさ的に」

「…………」


 なお、うちの子もちゃんと混ざっていた。ルシルとかは普段からブラッシング出来るのに、わざわざ【猫化】してたからな。

 【猫化】は本来の大きさ準拠なのか、ルドルが中型猫の中でも小柄寄りな大きさだったのはちょっと笑った。ごめん。【人化】したらエルルよりでっかいのに猫の姿だと平均より小さめサイズだったからつい。

 そうこうしている間に、列の最後に並んでいた焦げ茶の短髪中型猫をブラッシングして、猫の列がはける。はよ。とばかり手を広げてみるが、エルルは苦い顔をするばかりだ。解せぬ。


「エルルが来ないと、私が【猫化】を試す前に2週目が始まりかねないのですが」

「………………」


 その後?

 ……【○○古代魔法】による洗浄だけだと、毛質がごわごわになってしまうらしい。というのが、とてもよく分かったとだけ。そのまま丸洗いコースに突入するのは勘弁してあげた。

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