別面:旧友の確信

「さて先輩はー……いない感じっすね、これ」


 今日も今日とて普通の大きさの部屋を、それこそ高級なお人形セットのような家具で飾ったある意味とても贅沢な部屋から出て、フライリーが探したのは先輩ことルミルだった。

 どうやら端々から感じる限り、かなり年が近い筈、と勝手に当たりを付けているが、実際はどうか分からない。しかし中身はともかく、見た目は文句なしにドストライクなので深く考えない事にしているフライリーだ。

 とはいえいつも一緒に遊べるかというと、そうでもない。むしろ最近、特にこの島に引っ越してからは、一緒に動ける時間は減っているぐらいだった。


「まぁしょうがないっすね。先輩人気者っすし」


 最初の頃のようにつきっきり、という状態が懐かしくないかと言われれば、そりゃまぁ……と言葉を濁してしまうだろう。

 けれどそれ以上に、可愛いものや格好いいものが好きなフライリーにとって、ルミルの周囲はまさに理想だった。なにせ、その中心となるルミルがまずぶっちぎって可愛い上に、その趣味の方向はかなりフライリーに近い。

 ぶっちゃけ、天国だ。双子の羊っ子達も含めて全員揃った時はここが理想郷だと思った。


「つーかその後も増えましたしね。先輩の神様じゃないけど最高っすわー」


 うんうん。と頷いて現在の幸せを噛みしめなおしたフライリー。


『あら。わたくしの友がその程度だとお思いで?』


 そこへ、下からそんな声が掛けられた。

 普段フライリーは特段何もなければ、地上1mほどの高さを飛んでいる。本人は無意識であるもののルミルの視線の高さがその辺りだからでついでに頭に乗りやすいのがそこだからなのだが、必然的にかけられる声は大抵上からだ。

 逆に言えば、下から声が掛けられる相手は限定される。おっ? と思いつつ、フライリーはその高さを半分ほどに下げた。


「おはよーございますっす、マリーさん」

『えぇ、御機嫌よう』


 そこに居たのは、真っ白くてふわふわした子猫だ。大変と愛らしい姿だが、その中身は先輩で旧友だというルミル曰く、生粋のお嬢様だという。その割には随分と癖のある性格をしていると聞いていたし、実際一緒に行動してみれば、確かにと頷かざるを得ない面が見られた。主に戦闘関係で。

 今は猫の姿なのだが、立ち居振る舞いに気品があるというか。謎の圧を感じるというか。こちらも生粋の庶民である事を自覚しているフライリーからすれば、なるほどこれがお嬢様という生き物か……という感じだ。

 え? これ普通に接して大丈夫? と思わなくもなかったが、ゲーム内に現実のしがらみは持ち込まない主義である。一応飛行訓練がてら、バトラーという蝙蝠の人に聞いてみたが、あちらも悪意が無ければ基本的に不問に付してくれるという事だった。


「ところで、その程度っていうのはどういう意味っすか?」

『簡単な事でしてよ。わたくしが赤色を好むように、彼女は可愛いを好む。ですから、きっとこれからまだまだ増えますわ』

「まだ増えるっすか!? 既に大分天国っすよ!?」

『当然ですわね。増やさない訳がありませんわ』


 まぁそれはそれとして何が琴線に触れたのか、その生粋のお嬢様であるマリーの方からちょいちょい接触を図ってくるのがフライリーだ。なお他の誰かに対しては基本的に塩対応、もとい、興味なさげにするりと逃げるのだが。

 ちなみにフライリーの今の目標は、そのふわふわでもふもふの背中に乗る事だ。流石に子猫サイズでは進化を繰り返して大きくなった状態だと乗れないので、スキル上げにも積極的に付き合っている。


『聞けば、あなたとの出会いと付き合いも偶然だったとの事ですわね?』

「まぁ、そっすね。普通は他に誰もいないとこがスタート地点だったんで」


 とことこと普段模擬戦やスキル訓練が行われている砂浜まで移動するマリーと並ぶ形で飛びながら、いきなり飛んできた問いかけに、フライリーは素直に答える。確かに、あの出会いは偶然以外に言いようがない。

 妖精族という身体アバターを得た事、及びあの出会いに関しては一片の後悔もないどころか、何なら乱数の女神に全力の感謝をささげる姿勢のフライリー。その答えに満足したのか、ふふん、と、マリーは歩きながら鼻を鳴らした。


『出会いがなくとも意図して可愛いを集めて回るのが彼女ですわ。むしろ、出会いの機会を増やす為だけに労力を割ける人間でしてよ』

「あ、それは分かるっす」

『ならば、これからも息をするより当たり前に可愛いが集まる筈ですわ。なにせ偶然という、人の力ではどうにもならないものすら味方しているのですもの』

「ほぇー、旧友の勘っすか?」

『ただの事実ですわね』


 流石に子猫の足でも、これだけ会話しながらだと結構な距離を移動できる。進む先に、恐らく目的地は同じだろうルシルを見かけて、フライリーは大きく手を振った。


『ま、あなたもその鈍さは直した方が良いと思いますけれど』

「ん? 鈍い?」

『えぇ。わたくしが可愛いと褒めたのに、何の反応もしないんですもの』

「ん? んん? ……んんっ!? 可愛いの権化みたいな人が何言ってんすかね!?」

『あら、照れかしら。照れて無意識で認識しないようにしていたのかしら』

「んんっ! いっ、今のは鈍いんじゃなくて普通に言い回しが難しいと思うっす!」

『だからわざわざ、どれほど鈍くても分かるように言い直しましてよ?』

「んんん!!」


 おほほほほ、と笑いながらてってこ子猫なりに走り出すマリー。唐突な誉め言葉とその後ろ姿の可愛さでノックダウンし、地上に落ちて地面をばんばん叩くフライリー。

 クラン『アウセラー・クローネ』のクランハウスは、主不在でも平和だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る