別面:動くシステム外同盟者達
「さて。まずは急な呼びかけにも関わらず集まってくれたことを感謝するわ」
大きな会議室の様な部屋で、円卓を囲む人影たちにそう口火を切ったのはソフィーナ。窓もカーテンも閉め切られ、灯りも制限された薄暗いその部屋には、それなりの人数が集まっていた。その誰もが無言で静かにしていながら、強者のオーラとでもいうべき存在感を感じさせる。
そう。今回のこの集まりは、非常に重要なものだった。何せここに集まっているのは、少なくとも最低限の実力を持った……個人の武力だけではなく、資産、人脈、情報、そういったものを一定以上備えた組織の、トップかそれに準じる立場にある人物ばかりだからだ。
実力者である事を除けば、あまり共通点と言うものが見当たらないその参加者たちには、もう1つ、非常に大きな共通項があった。
「気にするな。今を時めく専属料理人様の招集だ。何を置いても参加するさ」
「そうそう。何より、そちらから声をかけるって事自体が「何かあった」って事でしょ? もちろん参加するわよ」
「舐めるなよ? そもそもここに来る権利を得られた時点で、大体話の要点は分かっている」
「――ま、「報酬」に、これ以上なく期待できる、っていうのも、あるけど?」
それぞれに応答を返す彼らに、ソフィーナは見た目通りの強気な笑顔を返す。そして、自身の背後、その壁に向けて設置された「プロジェクター」のスイッチを入れた。
「話が早くて助かるわ。つまりは、可愛いを助ける為の邪魔になり、可愛いを愛でる時間を削り、ちぃ姫がのびのびと動けなくなる奴らに対してお灸をすえて欲しいの。もちろん手段は、“神秘にして福音”の神が許す範囲なら何でも構わないわ」
つまり実質何でもありという、制限になっていない制限を口に出しながら、現代のそれとは違って、直接映し出す写真をセットする場所に、まず1枚の写真を差し込む。
大きく白い壁に映し出されていたただの白い光が、セットされた写真を、拡大して映し出したものへと切り替わった。
「ほう……」
「うっふふ、噂の子猫ちゃんね?」
それは、キリッとお座りをしたマリーだった。後ろには赤や黄色の花があり、実に可愛らしい。
……そう。この場に集まった彼らは、1人残らず、可愛いものが大好きだった。むしろ可愛いものを探し、触れあう為にゲームを始めたと言っても過言ではない人物ばかりだった。もちろんソフィーナのシステム上の古巣であり、現在も同志である『可愛いは正義』の代表者も参加している。
「まずこの場に集まって話を聞いてくれたという事で、この写真を配るわ。そして口外禁止の誓約書を書いてくれればこの子のお昼寝姿の写真を。参加を表明してくれるなら、ちぃ姫がこの子をブラッシングしている写真を出すわ」
その説明に合わせて、ソフィーネがすすっと円卓に座っている人物たちの前にペンと紙を置いていく。ざっと目を通した各人は、躊躇う様子を一切見せずに2枚の紙にサインを書き込んだ。
そしてもう1枚紙がある事に気付き、ほぼ全員がその内容に目を通す。そのタイミングで、ソフィーナはその紙と同じ内容の紙をプロジェクターにセット。口を開いた。
「その上で、参加した後の実働で挙げた成果に応じて、その中から好きな写真を。もちろん協力したらそれぞれに権利が手に入るし、複数の成果を挙げればその数だけ選ぶ権利が得られるわ。ただし、嘘はダメよ」
それは、文章が並んだリストのような物だった。内容は、と言うと。
・ちぃ姫によるブラッシング
・皆でお茶会
・果樹園の収穫
・畑の水やり
・突発釣り大会
……という具合に、『アウセラー・クローネ』の東の島における日常と言うか、息抜きと言う感じの内容だった。ソフィーナの言葉を受けて、各参加者の目が光ったのは気のせいでは無いだろう。
「……ところで、1つ質問いいか?」
「どうぞ」
「これを見る限り、内容が書かれていないが……まさか、ランダムか?」
「総数は言えないけれど、同じ組織の中での被りはなしよ」
なお、ここに集まっているのは、はっきり言ってかなり強火かつ重度の可愛い好き達だ。そしてソフィーナが報酬として出す、という時点で、それらが可愛い写真(スクリーンショット)であるのは確定していて間違いはない。
そしてこの場合の成果というのは……主にちぃ姫に対して迷惑をかけたり、イベント攻略の邪魔になったりして、その上でなお一切の反省をしていないプレイヤー及びクランを、(ゲーム内において)社会的な意味で抹殺する、という意味だった。
「あぁ、そうだ。1つ、『可愛いは正義』から情報を出しておくわ。“天秤にして断罪”の神が、一部の召喚者について。何度も同じ魂を裁いている気がする、と、零していたそうよ」
「ほっほぅ……」
「それはそれは……」
それを分かった上で、円卓の席の1つ、『可愛いは正義』の代表者から発言がある。もし部外者がこの部屋に居れば、すぅっと温度が下がったように感じただろう。もちろん、部外者は念入りに排除されているから、有り得ないのだが。
「我が同志ながら、最高のタイミングで情報を出すわね。――と言う事で、各人の健闘を祈るわ。成果の確認は検証班を通して行うから、その確認が取れ次第こちらから報酬の確認メールを送信、それに希望を書いて返信を頂戴。では、解散!」
その声に応じて、順番に席を立って部屋を出ていく参加者たち。なお部屋から出る際に2つの誓約書を提出し、それと引き換えに3枚の写真を受け取っていった。それを大事に懐に入れて、1人ずつ部屋を去っていく。
その後、これ以上なく強火で重度で本気のプレイヤー達によって、全方位に迷惑をかけた上で一切の反省を見せない害悪プレイヤーは一掃された。
また一部リアルの伝手を利用したプレイヤーによって転売組織の存在が発覚、運営への密告までが行われ、過去に転売で大好きなシリーズの続編が1つ潰されたという主任によって緊急メンテナンスが強行される事になるのだが……まぁそれは、大半のプレイヤーにとっては知られざる事だ。
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