別面:しまわれた問い

 頭の中にあるその問いかけを、頭の中に収めたままにしている理由は、言葉にしろと言われるとちょっと困ってしまう。



 普段いくら思ったことがそのまま口に出ているようだと言われて、実際それを否定できなかったとしても、口にそのまま出したところで何てことはない言葉と、流石にこればかりは慎重に扱った方がいい言葉の違いぐらいは分かっている。

 けどたぶん、この問いかけは頭の中にしまったままじゃなくて、それこそ何気ないいつもの会話の中にポイっと放り込んでしまえばいいものだ。もちろん口に出せば何てことはないどころか、今ある色々なものが激変してしまうだろうけど。

 それでもきっと、口に出した方がいいものだ。どれほど何がいくら変わろうとも、一番大切だと思えるものは変わらないだろう。そして、いい加減にしろと思うほどにまだるっこしい事が、解決という形で変わるだろうから。



 それでも、決してその問いかけは言葉になって頭の中から出てくることは無い。何でかは自分でも分からない。いつも通りに喋って、笑って、時々怒られて、そして夜寝る時になって、そう言えば今日も言っていないと自分で首を傾げるくらいなんだ。

 別にいつだっていいんだ。もちろんその場所というか状況と言うか、口に出した時に誰が居るかで多少は変わるだろうけど、結局早いか遅いかの違いだろうし。というか、一番人数の多い、全員が揃っている場所で放り込んでしまうのが何というか、解決までの時間は短くて済むだろう。

 それを眺める事だって、ちょっと想像してみればそれはそれはゆか、ううん、楽しいだろうに。騒がしいと忙しいを含んだそれは、決して嫌いな物ではないのに。その筈なのに。そしてそれだけの騒ぎが起こっても、一番大事で変えたくないものは変わらないだろうに。



 分かってる。これは言った方がいい。指摘した方がいい。問いかけた方がいい。誰かが気づいて口に出して突きつけなきゃ、いつまでたっても解決しない。そうでもなければどうにもならない程に両方鈍すぎる。それで自覚一切無しとか、嘘だろう? いい加減にしろ。

 ――それでも、そこまで思っているのに、その問いかけは言葉として口から出てくることは無い。頭の中に居座ったままだ。その理由が、自分でも、分からない。


「こっの、降って湧いた系お嬢はいい加減にしろとあれほど言っただろうが!!??」

「今回は流石に不可抗力でしょう目一杯加減もしましたしいだだだだだだ!!」

「島1つ吹っ飛ばして加減してたとか思える訳無いだろうが!! そもそもそういう特大の厄介事に突っ込んでいくな!! せめて俺かアレクサーニャに一声かけろ!!!」

「でも声を掛けたら絶対止めるじゃないですか2人とも痛い痛い痛い!!」

「あ、た、り、ま、え、だ!!!」

「あだだだだだだだ過去最高に痛いんですがーっ!?」


 これ以上なんて無いってくらい心臓に悪い癖に「いつもの」になってしまった騒動の後で、これまたいつもの風景をやれやれと見守りながら、頭の中にしまってある問いかけが浮かんでくる。

 簡単な事だ。放り込んでしまえ。丁度皆揃ってるじゃないか。当たり前を、常識を、普通はそういうもんだって事を説明してしまえばいい。それで悪くなることなんてないじゃないか。


 ――なぁエルルリージェ。


 問いかけた所で、姫さんの態度が変わる事なんてない。エルルリージェだってそうだ。同じく微笑ましいものを見ている目の人間も、のんびりお茶の準備をしている人間も、そこに集まって来る種族も様々な使徒生まれ達や、姫さんが他の世界で結んだっていう縁の持ち主も、ボクに対する態度が変わるなんてことは無い。それぐらいは分かってる。


 ――君まさか、本当に自覚してないのか?

「その辺にしときなよ。いくらボクらが引き離されてたとは言え、姫さんがボクらを意図して撒いた訳じゃ無いだろう?」

「……それはそうだが……」


 結局口から出たのはいつもの調子で、違う言葉。頭の中にある問いかけはしまわれたまま。

 何故だろう。その理由がさっぱり思い当たらない事に内心で首を傾げながら、今日もボクは、口を噤んでいる。

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