幕間:幼馴染の証言

「しかし姫さんは寒いとこでも元気だなー」

「可能な限り鍛えた【環境耐性】と、氷の精霊さんの守りありきですけどね」

「正直若干羨ましい。ボクはスキルにはならなかったから」


 それはちょっとした用で北の大陸に戻って来た時の事だ。エルルは別の用事があったのでサーニャとの来訪である。しかし相変わらず竜都から見た景色は、北と南で文字通り別世界かと思うほどに違う。観光目的でも人が集まる筈だ。

 しかしそれはそれとして、エルルと同じくサーニャも【○○精霊魔法】を習得していないらしい。普通に話が出来るだけではそこまで力を貸してくれないのだとか。私は……スキルにこそなったものの、姿を見せて貰えないんだよなぁ。


「やっぱり出来る事が違うんですか?」

「そっりゃだいぶ違うよ! いくら【環境耐性】を鍛えても寒い所に行けば寒いんだから!」

「まぁ確かに、精霊さんと契約する前は私も大概寒かったのは確かですが」


 と答えて、あぁ、と気が付いた。なるほど、そう言えばそうだな?


「それに私は、耐寒性能と着心地を優先した装備と言う名の服ですからね。エルルとサーニャは、確かそれ、服の見た目してても金属鎧でしょう? 余計に寒いのでは?」

「うーん、まぁ、そう、かな? そうかも知れない。頑張れば耐えられちゃうから、外から補う発想が無いのはそうかなぁ」

「何でそこが曖昧なんですか」


 何故か考え込み始めてしまったサーニャ。相変わらず【人化】するとしないとで形が変わる軍服(鎧)の謎は未解明のままだ。竜族に合流できる見通しはまだ立っていないからね。合流できても、現代竜族だと不安を覚えるのは何でだろう。(目逸らし)


「そりゃ寒くても暑くても動けるよ? 動けるけどさあ。ボクもエルルリージェも、そんなに寒いとこ得意って訳じゃ無いんだよ。耐性はあるけどね? あるけどそれはそれっていうかこれはこれっていうか」

「エルルも寒い所は苦手なんですか?」

「苦手なんだよなー! 顔に出ないから分かんないけど、実はああ見えて雪景色とかめっちゃくちゃ苦手だったりする! こっちの大陸へ移動する辞令から逃げ回るぐらいには苦手!」

「それは初耳です」


 ……そのエルルに雪中行軍とか氷の大地での戦闘とかお願いしまくってたんだけど、そうか苦手だったのか。悪い事したかな。何か埋め合わせできるならしといたほうがいいかも知れない。


「エルルリージェ、弱みを見せない上に諦めるのが早いからな! もうちょっと粘ればいいのに」

「サーニャはもうちょっと割り切りを早くした方がいいと思いますよ」

「そんな!?」


 いや、ほんとに。あの初めて会った時もごねにごねまくったの、流石にどうかと思うんだよ。その後も結局割と長い事引きずってたみたいだし。その点エルルは諦めが早いというか呑み込んでくれるのが早かったからすごく助かるんだよね。


「うえー。そんなに早く割り切れたら苦労しないのに……。……っていうかそもそも、エルルリージェが暖かそうにしてる顔を見た事が無いんだよな。いっつもこう、ぎゅーっと眉間にしわを寄せて顔色悪い感じの無表情だし。火山とかに行かない限りそんな感じだから、寒がりだったのかな?」

「……無表情……?」

「ボクの知ってるエルルリージェはそんな感じだよ。まぁ姫さん相手にしてたらそんな顔してる暇ないだろうけど」

「どういう意味です?」

「そのまま! 頼むからもうちょっとちゃんと護衛させてくれないかな!?」

「皇女である前に召喚者なのでほどほどで諦めてください」


 なるほど。流石(自称)幼馴染、貴重な証言を聞けた。普段は頼りになるが私に振り回されている愉快な兄ちゃんで、真面目にしてる時は格好いいエリート士官軍ドラゴンさんなので、ずーっと難しい感じの無表情って言うのは正直想像し辛いんだけど。

 ま、エルルは私からすればもうとっくに「うちの子」である。私が目一杯の大好きを送る大事な大事な「うちの子」だ。

 たとえそれが血の繋がった相手だろうと。「温もり」を本人が受け取ってないのなら――



 ――返せって言っても返してやるものか。

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