第63話 オークション会場へ
オークションまでの自由時間で、それぞれ服を仕立て屋に取りに行く。私はついでに、少しマシなジャケットとズボン、そして普段に履く靴も買ったよ。
これまで、冒険者の服しか無かったからね。パティスリー・ナナには明日行こう!
エールの台、なかなか良い感じ。折り畳めるから、籠の中に入れやすい。魔導具の機械兵、機械騎士が増えたから、他の冒険者も変に思わないんじゃないかな?
金熊亭に戻って、スーツに着替える。鏡は、髭剃り用のボヤけた小さいのしかないから、よくわからないけど……派手?
「良いんじゃないか」
まぁ、オークション会場には、冒険者とか来ないし、良いか! 少し小腹が空いたので、アンジェラのケーキを食べる。勿論、
「おおぃ、着替えているか? 馬車を呼んだんだ!」
ジャスの大声で、部屋の外に出る。
うっ、笑うのを我慢しようとして、腹筋が痛い。
大男二人が正装している。スーツは似合っていると言えるけど、撫で付けた髪型とか見慣れないからさぁ。それに、微妙に色が違うのを組み合わせたスーツが派手なんだ。
「アレク、笑ったら許さねぇぞ!」
ジャスとルシウスに睨まれた。下にドカドカと降りて行くと、女将さんが驚いている。
「へぇ、格好良いじゃないか? 見直したよ」
ルシウスとジャスは照れ臭そうだ。私は、女中さん達から熱い視線を感じて困惑中!
まぁ、
仕立て屋が私のスーツを縮めた余り布地で、紺色の蝶ネクタイを作ってくれたんだ。勿論、
ちょっと嫌がったけど「ドレスコードがあるんだよ!」と強引に付けたら、超キュート!
ケチなルシウスだけど、使う時はお金も使う!
徒歩でオークション会場に来ている人なんかいないんだもん。帰りまで待たせる。
ここには、武器は付けていないけど、アイテムボックス、マジックバッグ、マジックポーチに入れてあるよ。物騒な世界だからね。
「わぁ、大きな建物だね! それに、魔導灯をいっぱい使っている」
まぁ、お城に比べると小さいけどさ。魔導灯やシャンデリアで輝いている。ちょっと住む世界が違う人達が参加するのかも?
「
ルシウスが、扉の前の護衛に告げると、顔役から聞いているのか、すんなりと通された。
ここで、普段の冒険者スタイルだったら、お引き取りをと言われたのかな?
「オークションって初めてだよ!」
それは、全員だね! どうしたら良いのか戸惑っていると、花街の顔役が声を掛けてきた。
「おお、ルシウス様とジャス様! それと、そちらは?」
花街での交渉には参加していなかったからね。
「ああ、こいつはアレク。
ルシウスに紹介されて、頭を下げる。
「ふうむ、美しい! いや、失礼いたしました。私は、サムソンと申します」
サムソンねぇ。何だか想像していた花街の顔役ってイメージではない。やり手の商売人って感じ。ちょっと裏社会の人間を考えていたから、拍子抜けしちゃった。
「
そうだよね! 物腰が柔らかい人の方が怖い場合もある。
兎も角、サムソンに説明してもらったので、大体の流れはわかった。今は、オークションに参加する客が集まるのを待っている時間。
「落札に参加予定の方は、信託金を預けて札を貰ったり、オークション品を調べる事もできます。特別料金を支払って、桟敷を用意したりされる方もいらっしゃいます。お酒やおつまみも用意してありますから、オークションが始まるまでお楽しみ下さい」
桟敷は、カーテンがあり、オークションに参加したのを秘密にしたい場合に使うのかな? 何となく、花街の顔役が仕切ると聞いた時、綺麗な奴隷とかもオークションに掛けられるのかなと邪推したけど、カインズ商会で見せて貰ったリストには載っていなかった。
顔役と別れて、落札参加手続きをする。
えっ、信託金が百
札と出品のリストを貰った。そこで、ルシウスが桟敷の値段を聞いたけど、ちょっとそれは高いね! 二十
「桟敷を借りよう!」えっ、借りるの?
驚く私を、ルシウスとジャスが笑う。
「金は使わなきゃな!」
ふうん、確かに誰が何を落札したのか知られたく無い場合は良い。サンドウォームの皮とマジックバッグの関連性を知られたくない。凄く高値になりそうだからね。他の人は作れないのにさ。
オークションに出品されている品が置いてある場所の警備、当たり前だけど厳重だった。
「なぁ、鑑定を掛けても怒られない?」
コソッとジャスに訊く。
「そんな事は、聞いたら良いのさ!」
ジャスも初めてオークションに参加するんだもんね。
「なぁ、鑑定しても良いのか?」
護衛ではなく、オークションの関係者に尋ねてくれた。
「勿論でございます。ただし、お手に取るのは遠慮して頂きます」
許可が出たので、鑑定していく。鑑定力のアップになるしね。掘り出し物があれば落札したいんだ。
まぁ、リストに書いてある通りだったよ。私の黄金の毛皮は、かなりお終いに近いところ。つまり、高額品みたい。
ジャスがこんなもんだろうと頷いている。
おっ、サンドウォームの皮は、ジャスとルシウスが時々見かけると言っただけあって、割と初めの方だね! 落札したいな。
三人で顔を見合わせて、確認した。
宝石のついたナイフとかは、真ん中の前あたり。こうやって飾ってあると綺麗。宝飾品もここら辺だね。これも、次も出品しているんだ!
竜の肝は、真ん中へん。これは薬師しか興味なさそうだけど、薬師と競り合いになるかも。
ルシウスがプッと噴き出す。私の小心ぶりが可笑しいのかも。
「うん? 魔導具だ……でも……壊れているよ」
コソッと二人に教える。迷宮ダンジョンでは未だ見たことがない魔導具。
「何の魔導具なのだ? それと壊れていても大丈夫なのか?」
ルシウスが眉を顰めている。
「温熱ヒーターみたいだけど……チェックしなかったのかな?」
ボソボソ話していると、さっき鑑定の許可をくれた関係者がやって来た。
「何か問題でも?」と訊かれたので、言ってみよう。
「この温熱ヒーター、壊れていますよ」
エッと驚いて、ヒーターのスイッチを入れる。全く作動しない。
「魔石が無いからか?」と裏返して見るけど、魔石はちゃんとセットしてある。
「ご指摘、ありがとうございます。不良品をオークションに掛けたなんて信用が失墜するところでした。出品前にチェックした時は、ちゃんと作動したのですが……」
残念そうに、電熱ヒーターを取り下げさせる。
「
へぇ、そうなの?
「なぁ、アレクなら修理できるんじゃないのか?」
ジャスが
出来るけど? って顔で応えると、ルシウスがにっこりと笑う。
「リストに載っているのに、オークションに掛けないのは、困るんじゃないのか?」
関係者は、うん? と少し考えて、にっこりと笑う。
「もしかして、修理できるのでしょうか?」
ここからは、ルシウスが交渉する。桟敷席分で、修理することになった。
桟敷に案内してもらい、そこで電熱ヒーターを修理する。関係者には、外に出てもらうよ。
「電熱ヒーターをアイテムボックスに入れろ」
へぃへぃ、
アイテムボックス内には、迷宮ダンジョンでドロップした、ネジなどの部品がいっぱいある。
「修理しろ!」と簡単に言うけど、これまでは見本があったからさぁ。
私が戸惑っていると「低脳!」と罵って冷たい鼻を私の頬に当てる。
腹が立つけど、修理はできた。
関係者に修理した電熱ヒーターを渡すと、すぐにチェックする。暖かくなった。これ、ダンジョンで料理するのに便利だね。
しまった! 修理しないで、壊れたままを安く手に入れたら良かったな。
「
あっ、そうか! 錬金術の初歩があるんだ。さっき、修理したから作れそう。
にまにま笑っていると、ルシウスとジャスも気づいたみたい。
「他にも魔導具があるかチェックしようぜ!」
まぁ、アイテムボックスの中に入れないと、構造とかわからないんだけどさ。
なんて思っていたけど、綺麗な女の人がお酒とつまみを持って来たので、なぁなぁになっちゃった。
「リストを見れば良いだけさ!」
ジャス、さっきと言うことが変わっているけど、ルシウスも私も反論しない。
オークションが始まるまでに酔っ払わないようにだけ気をつけよう。
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