第59話 やっぱり苦手!

 ギルドで、エールで朝食を流し込んだ後、ダンジョンでドロップした物を売る事にする。

「これから、機械兵を召喚するけど、攻撃するなよ!」

 召喚獣の証も見せてから、籠を背負った魔導具の機械兵を出す。


 何人かは「機械兵だ!」と騒いでいたが、迷宮ダンジョンで噂になっているから、攻撃はしてこない。

 大男のルシウスとジャスが怖い顔で睨んでいるのも大きいかも。


「背負い籠を置け!」

 あまりギルド内で騒ぎを大きくしたくないので、背負い籠を置かせて、機械兵をしまう。

 最初から、背負い籠だけ出せれば、楽なんだけどね。マジックバッグがあるのは秘密にしたい。マジックポーチは、ちょっと武器が引っかかったら破れそうだからさ。


 背負い籠から溢れている武器に、ギルドにいた冒険者達が騒めく。大鎌、盾、剣、槍、弓が、籠から突き出しているから目立つ。纏めて括れば良かったかもね。

「これを精算してくれ!」

 籠があるから、今日はジャスと私も一緒に並んだよ。

 それに、武器だけじゃなく、宝石や宝石付きのナイフ、羽ペン二十本などのドロップ品も売るからね。


「これだけの量となりますと、時間が掛かります」

 それは承知しているよ。だから、先に出したんだ。

「精算して貰っている間に、ギルドマスターに会いたい。召喚獣が増えたから、その手続きと、迷宮ダンジョンの地図を売りたいんだ」

 まぁ、ギルドマスターに会わなくても、手続きしてくれたら、私的には嬉しいんだけどね。


 ルーシーさんが聞きに行くまでもなく、下の騒ぎに気づいてギルドマスターが下りてきた。

「騒がしいと思ったら、アレクだな」

 やっぱり苦手だ!

「召喚獣が増えたので、その登録をしたい。ギルドマスターは忙しそうだから、マートンさんでも良いです」

 どうせ、鑑定するのはマートンだからね。事務手続きをして貰えば良いだけだもの。


「いや、私も立ち会いたい。二階にマートンさんを呼んでくれ」

 暇かよ! ジャスが横で私が苦手なギルドマスターを避けようとして、失敗したのを笑っている。回し蹴りしたいけど、何とか我慢するよ。


 三人でギルドマスターの部屋に行く。すぐにルーシーがマートンと一緒に部屋に来た。


「増えた召喚獣を出して良いですか?」

 お伺いを立ててから、機械ハチドリ、機械兵、機械騎士、機械馬を白猫レオに召喚させる。

 ここには鑑定できるマートンがいるから、魔導具は出さない。


「おお、これは! 機械ハチドリが五羽も! うん? 機械兵、機械騎士、機械馬が強くなっていますね」

 やはり目敏いね。でも、余計な事は言わないでおく。

 

「召喚獣として登録して下さい」

 マートンが召喚獣として認めたので、ギルドマスターも頷く。ルーシーさんが書類を作成してくれる。

 名前は、ちょっと非難めいた目で見られたけど、機械兵4、機械騎士2、機械ハチドリ1、2、3、4、5にした。

 今回は初めから星の海シュテルンメーアの印はついている。

 ただ、マートンがチラリチラリと白猫レオの事を気にしているから、鑑定されないように抱っこしておく。

 人を無許可で鑑定するのは、マナー違反みたいだからね。


「これで、召喚獣の登録は終わりました」

 マートンは、ここで退場だ。ここからは、地図を売らなくてはいけないのだけど、ルーシーだけで良いんじゃない? 駄目なの? 私が渋っているので、白猫レオが尻尾で膝をパタンと叩く。


「ええっと、迷宮ダンジョンの十一階から十五階の地図を描いたのです。買って貰えますか?」

 うっ、ギルドマスターの圧が強いから、鞄から取り出した地図を五枚手渡す。

「これは、綺麗に描かれているし、正確そうだ。それに出現する魔物まで書き込まれている」

 特に落とし穴や天井から生えてくる大鎌を思い出したのか、少し眉を顰めた。


「アレクが苦労して描いた地図だ。高値で買ってくれ!」

 ルシウスが交渉してくれる。

「確かに、詳しい。これまでの地図が一新されるな。良いだろう、一枚につき十金貨ゴルディだそう」

 相場は分からないよ。ルシウスがここから交渉を始めて、十二金貨ゴルディに上げてくれた。


「なぁ、ギルドマスターさんよぉ。アレクは銀級に昇級しても良いんじゃないか?」

 ジャスが言い出し難い事を言ってくれた。

「中級ダンジョンの十五階を踏破しているし、あの大変だった護衛依頼もこなした。ファイヤーウルフの連中を捕まえる実力もあるし、回復薬を納入したんだぜ。それに、この地図! 描くの苦労していたんだからな」

 ルシウスが後押ししてくれる。


 ギルドマスターが苦笑いしている。

「まぁ、確かにアレクは銀級に相応しい能力を持っているな。ギルドの依頼受託回数は足りないが、地図の作成、ファイヤーウルフの捕縛と回復薬で貢献は満たしている。銀級に昇級だ」


「「やったな!」」

 ルシウスとジャスに背中をバンと叩かれた。

「ありがとうございます」と一応、ギルドマスターにお礼を言っておく。


「これからも精進しろ。ルシウスとジャスも金級を目指すなら、もっと精進しなくてはいけないぞ」

 ふぅ、やっぱり苦手だよ。


 ここでギルドマスターとはお別れして、下でエールで乾杯したい! と私は思ったのだけど、ルーシーがお茶を持って来た。お茶は良い香りだけど、エールを飲みたい気分だよ。


 雑談を始めるのかな? ちらりと横のルシウスとジャスの顔を見ると、あらら真剣モードじゃん。

馬鹿者ニャニャニャン!」と白猫レオに叱られた。

 女神様クレマンティアの神命は覚えているよと、頭の中で返事をすると、当たり前だと言わんばかりに尻尾で叩かれた。


「オークダンジョンの探索隊が出発してから半月以上になる。捜索範囲が広いから、難航しているみたいだ」

 ギルドマスターは苦虫を噛み潰したような顔だ。めちゃ怖いんだけど! 私は『草原の風』のメンバーが心配だ。


「点在する町や開拓村で休憩は取っているんだろう? 『月の雫』から途中経過の報告はないのか?」

 渋い顔で、あまりちゃんとした報告が無いのが分かった。ジャスが深い溜息をつく。バッカスを内心で罵っているんだろう。


「『金の剣』は、まだ上級ダンジョンに潜ったままなのか? そろそろ戻って来る時期だと思うが……」

 ルシウスの質問に、より顔が怖くなる。ギルドマスターが『金の剣』を心配しているのか、苛ついているのかわからない。


「オークダンジョンの討伐隊には、星の海シュテルンメーアも参加して欲しい。最奥階の攻略は無理でも、浅い階の魔物を減らすのも有効だからな」

 うん? 意味がわからない。


「まだ、アレクは銀級になったとはいえ、経験が少ないようだな。ルシウスとジャスに説明して貰え!」

 やっと解放された! 銀級に昇級したのは嬉しいけど、神命がズシンと重たい。

  

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