第58話 三人揃って

 休日の二日目は、三人揃ってギルドに行く予定だ。

 昨日は、あれやこれや雑用をしたけど、白猫レオにブラッシングできて満足! 抜け毛をブラッシングで取り除いたので、ふわふわ度が増している。


 今日の予定は、ギルドで新たな召喚獣登録して、迷宮ダンジョンの十一階から十五階の地図を売る。

 ギルドで武器などのドロップ品を売る。カインズ商会に魔導灯を売る。

 メンテナンスして貰った武器とエールの台を取りに行く。


 午前中で終わると良いな。前にハモンドさんから貰った紹介状で、チョコ菓子を買いに行きたい! あっ、増えた魔導具に持たせる背負い籠と旗印にマークも描かなきゃいけなかったんだ。

 

「パテスリィ・ナナは明日になるかもな」

 それと、革の胸当てをして行く店では無さそうだから、麻のジャケットも買いたい。

 シャツは快適生地のを着ているから、上着を羽織っても大丈夫そうだ。

 森亭とかアンジェラでも、冒険者スタイルより普通の格好の方が入りやすいよ。


 今日の予定をあれこれベッドの上でごろごろしながら考えていたけど、予定って変わるもんだよね。


「おおぃ、アレク! 起きているか!」

 朝っぱらからルシウスがドアをダンダンと叩いている。

「ああ、起きているよ!」

 素早く着替えて、ドアを開ける。


「今夜、オークションが開かれるんだ。見に行こうぜ!」

 ジャスも騒いでいる。

「オークションに出品はしているけど、買う物ってあるの? 高いんでしょ?」


 ルシウスも、行く気満々みたい。

「オークションに行くには、金が掛かるんだ。でも、花街の顔役に招待されたから、今回は無料で見学できるんだ! 一度、見たかったんだよ」


 成程、オークションに参加するにはお金が必要なんだね。まぁ、貧乏人には縁が無さそうな世界だよ。

「ふうん、それなら一度ぐらい見学しても良いかな」

 呑気にそう言っていたら、二人にガシッと掴まれた。


「アレクは、真っ当な服なんて持っていないよな?」

 それは、当たり前じゃん! ルシウスとジャスだって、冒険者スタイルの服しか見た事ないよ。


「オークションに参加するにはドレスコードがあるんだ!」

「早速、仕立て屋に行こうぜ! 特急料金を払って、あの貴族の服を仕立て直して貰うのさ!」

 白猫レオを抱っこして、慌てて仕立て屋に向かう。


「今夜までに間に合うの?」

 無理じゃない? と訊く。

「まぁ、間に合わなかったら貸衣装を借りるけど、これからオークションに参加する事も多くなるから、作っておいた方が良いのさ」

 腹ペコの白猫レオが肩の上で不機嫌そうに尻尾をぱたんと打ち付ける。


「オークションでマジックバッグの材料が手に入るかもな」

 耳元で言われて、ハッとする。マジックバッグが増えたら、アイテムボックスが使い易くなると思って調べた事があるんだ。


「サンドウォーム、ベビーモス、グラビデドラゴンの皮で作れるぞ」

 うん、どれも対戦したくない相手だね。

 横で聞いていたルシウスが「作れるのか!」と驚いている。


「作ることは可能だけど、材料が手に入らないよ」

 あの頃は、覚醒したてだったからさぁ、簡単に考えていたんだよね。

 ルシウスとジャスが足を止めて考えている。

「サンドウォームなら、自由都市群パエストゥムへ行く途中の荒地に出没するよな! ベビーモスは、俺は対戦したことは無いが、中級者用のダンジョンボスだと聞いたことがある」

「えええ、手に入るの?」

 二人は「「サンドウォームならな!」」と叫ぶ。


「オークションに出るかも?」

 白猫レオに言われて、幾らぐらいまで出せるか、ルシウスが頭で計算し始める。

「おぃ、先ずは服だぜ!」とジャスがルシウスの頭を叩いて、歩きだす。


「そうだよな! 先ずはオークションに参加しないといけないんだ!」

 二人が早足で歩き出すと、私は小走りになる。白猫レオが落ちないか心配で鞄に入れようとしたけど、嫌がられた。眠っていない時は、鞄に入りたがらないんだよね。

「落ちないでよ!」と言ったら「ふん!」と怒られた。

 早く朝ごはんを食べさせないといけないね。


 仕立て屋で、ジャスのマジックポーチから、ドロップした貴族の服を五枚出す。

「俺とルシウスのは、二枚必要だと思ったのさ。似た色の服を選んだけど、どうなることやら。アレクは一枚を縮めて貰えば良いだろう」

 ドロップした貴族の服の中では、地味なのを選んでいるけど、ちょっと派手!


「今夜までに縫い直せるか? 料金は弾むぞ!」

 ケチなルシウスにしては、大盤振る舞いだ。

「ふぅ、何とか致しましょう。生地は上等ですし、飾りは少なくしても宜しいのなら」

 シャツは、快適生地のシャツを使う事にする。だって、蒸し暑いんだもの。


 私のは、一番地味な色を選んでくれていた。濃紺のスーツだ。但し、金の細いストライプがズボンの横についているし、ボタンも金ピカだ。肩にもピカピカの肩章がついている。

「全部、ピカピカは取ってくれ!」と頼んだけど、時間がないので、肩章だけ取る事になった。


 二人は身体が大きいので、仕立て屋は苦戦している。ルシウスは、青色の服を二着。ジャスは濃い緑の服を二着だけど、微妙に色が違うんだよね。


 椅子に座って、膝の上に銀の皿にアルミラージの湯掻いた肉を二切れ出して、白猫レオに食べさせながら見物する。


 仕立て屋が、大胆に服にハサミを入れて、上着のサイドに別の上着を足して、二人の身体の上にピンで留めていく。

 ズボンも同じ要領で、どんどん切っては留めていく。


「凄い! プロは違うね!」思わず拍手しちゃったよ!


 二人は、微妙に色の違う組み合わせのスーツが、前よりも派手になって、少し嫌な顔をしているけどね。


「金級になったら、スーツを新調しようぜ!」

 今でもスーツを買うことはできるだろうに、節約するのがルシウスらしいね。


 これで終わりかと思ったけど、靴もいつもの冒険者用では駄目だそうで、仕立て屋が勧めた靴屋で買った。

 これは、サイズだけの問題だったから、簡単だったね。靴下もついでに買ったよ。いつもは、綿だけど、フォーマルは絹だってさ。


「やっと食事だな!」

 ジャスは、ダンジョンに潜ったより疲れたとボヤいている。

 ルシウスも、仕立て屋でピンが刺さったと苦い顔だ。

「動くからだよ!」と笑ったら、二人に睨まれた。私は、ちょっと長さや幅を詰めるだけだったからね。


「さぁ、ギルドで飯にしようぜ!」

「げっ、行かなきゃいけないと思っていたけど、朝食までギルドで食べたくないよ」

 私の抗議は無視されて、大男二人はギルドに向かう。

「笑った仕返しだな! 絶対にそうだ!」と後ろから罵る。

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