第56話 アレクの休日……白猫視点
我は
我を起こしたのが、私の後任者である
愛し子なのに、煩いし、神を敬う心がないアレクだが、
そのお陰で、消滅させられなかったのだが、罰としてアレクの従魔にされた。
まぁ、人間などは百年も生きないのだから、すぐに解放されるだろう。
ただ、クビになり、怒れる
その上、アレクの従魔に落とされた時に、僅かに残っていた神としての能力も封印され、レベル1の神獣としてやり直さなくてはいけなくなったのだ。
召喚を一度しただけで魔力切れになるという絶望的な弱さだが、これも罰なのだ。受け入れるしかない。
それに、レベルアップして召喚獣の種類も増えたし、一度召喚して魔力切れになるような無様な姿をアレクに見せる事もなくなった。
ただ、アレクは何度言い聞かせても、我を猫扱いする愚か者だ。
それに、一緒にいる黒髪の大男と赤毛の大男、半人前の愛し子のアレクで、上級ダンジョンに成長しているオークダンジョンを殲滅しなくてはいけないのだ。
「
今日は、ダンジョンには行かない。
もっと、もっと強くならないと
何故なら、
「あら、可愛い猫ちゃん!」
アレクの常宿の金熊亭の女将は、なかなか気が効いている。女中も心得ていて、ミルクと柔らかに煮た肉を持って来る。
ただ、ダンジョンのセーフゾーンで食べた『森亭』のシチューの方が味が良い。
朝食後は、アレクはルシウスとジャスとシャツを取りに行く。隠し部屋のボスアラクネがドロップした快適反物で仕立てたのだ。
我は、神獣なので、猫の生態とは無縁の筈なのだが、朝食の後、アレクのカバンの中で揺られていると、ついつい眠ってしまった。
数百年も眠っていたので、眠り癖がついたのであろうか?
眠っている間に、シャツを引き取り、アレクは木工店に来ている。
生ぬるいエールの小樽を置く台とダンジョンの魔物からドロップした本を収納する本棚が欲しいとアレクは昨晩言っていたな。
さっさと購入して、ランスを買いに行かなければならないのに、愚図愚図と迷っている。
アレクの魂がいた世界は、我の世界よりも文明が発展している。それで、我は見学したのだが、あれは無い! 人間同士お互いに殺し合い、大気を汚し、土も汚染され、水も毒に変わっていた。
その上、世界を何度も滅ぼす兵器を持ち、あの世界の神様は恐れ慄いていた。
それで、我はあちらの世界の遊戯を参考にして、魔物を作ったのだ。人間同士が戦わないようにと願って。
ただ、魔物が強くなりすぎて、人間が滅亡しかけたのは大失態だ。
特に、オークの設定を持ち込んだのは、我も反省している。この前の女王様も……あちらの世界が悪趣味なのが悪い!
つまり、アレクは魂がいた世界の感覚が抜けきれず、物が溢れている店を思い浮かべて買い物に来たのだが、思ったような物がなくて困惑しているのだ。愚か者め!
カバンから出て、アレクの肩に乗り、アドバイスしてやろう。我はアレクの従魔なのだから。
「
本当に低脳な愛し子で、
「あっ、そうか! ええっと……」
アレクが、紙にどのような物が欲しいのか描いて説明している。
「エールの小樽を置いて、ジョッキに注げる高さが必要なのですが、背負い籠に入れてダンジョンに持ち込みたいので、折りたためるようにして下さい」
木工屋の親父は「ダンジョンの中でもエールを飲むのか! 気に入った!」と笑っている。
エールなどより、
アレク達がエールを美味しそうに飲み干すのを見ると、少し羨ましい気がする。
本棚は、かなり本格的な物を注文している。また、隠し部屋の図書室で魔物を倒して本を増やしたいのだろう。
予約金を払って、店を出た。
「ランスを買おう!」と言うのに渋る。
アレクは、
「先ずは槍を使えるようになってから、ランスを買うことにするよ。だって『槍の初歩』だからね」
腹が立つから、肩から頭の上に飛び移る。
「ちょっと
アレクは、
「ルシウスとジャスはどうしたのだ?」
大男の護衛を連れて歩けば、少しはマシだろうに。
「あの二人は……花街の顔役と取引をしに行ったよ」
ふん、昨夜、そんな事を言っていたかも知れぬな。少し記憶が曖昧なのは、眠たかったからだ。どうも、この姿に引きずられて寝る時間が長い。
どうやら、我がこのぼんやりした愛し子を護衛しなくてはいけないようだ。
ランスは買わないと頑固に言い張るから、ギルドに売る地図の紙とインクを買わせる。
「そろそろ、お昼だけど……森亭は、猫も大丈夫かな?」
あそこのシチューは美味しかった! 猫を食堂に入れるのは、難しいかもしれないが、愛想よくしておこう。
「あのう、この
なかなか可愛いウェイトレスに、にこりと微笑むと「可愛い猫ちゃんですね。躾ができているなら、良いですよ」と入店を許可してくれた。
猫ではない! と頭に直接、アレクに抗議しておく。
「ダンジョンの中で食べたシチューは、ビッグエルクの赤ワイン煮だったんだよ。お昼は、ランチメニューだけだから、何が来るのかな?」
ほう、これは美味しそうだ! 心得ている亭主が小さな皿にアルミラージのシチューを盛って出してくれたのだ。
床で食べるのは、我のプライドが傷つくと察して、ウェイトレスが椅子を並べてサービスしてくれた。
うん、なかなか美味である。
ハッ、目覚めたらアレクの部屋のバスケットの中だった。食後の記憶がないから、寝てしまったのだろう。
アレクは机で、ギルドに売る地図を描いている。
「ええっと、十一階は……」
見ておれぬ! あいつは本当に
「アレク、紙とペンとインクをアイテムボックスに入れろ!」
「えっ、
あの愚か物は、我が寝ている間にブラシを買ったようだ。
「猫ではない!」と言い聞かせても、抱き上げて膝の上でブラッシングを始める。
「綺麗にしてあげるよ」などと言いながら、ブラシを優しく動かす。日頃はガサツなアレクなのに、繊細な面もあるのだな。
「こんな事より……アイテムボックスの中で……地図を……眠い……」
さっき目覚めたばかりなのに、ブラッシングされていると目が自然と閉じてしまう。
まぁ、地図の件は目覚めてから指導しよう。
今日はアレクの休日なのだから……。
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