第54話 変な魔導書
迷宮ダンジョン十五階まで踏破した。一風呂浴びて、冷風機で涼んでから
「おお、遅いぞ!」
ジャスは、私よりエールが待ち遠しかったんじゃないの?
エールの小樽を机の上に出すと、いそいそと一緒に出したジョッキに注ぐ。
「エールの樽を置く台を買わなきゃなぁ!」
確かに不便だけど?
「折りたたみの台なら良いんじゃないか?」
いつもは、ジャスのストップ役のルシウスまで!
「あっ、木と木を組み合わせて、パッとひろげるだけの台なら、背負い籠の中に入れても良さそう!」
三人でエールを飲みながら雑談していると、
「そんなエールの話より重大な事があるだろう! アレクは、手に武器を持たないとホーリーランスが使えないと言うのだ。槍を練習しないといけない」
チェッ、風呂上がりなんだから、エールの一杯ぐらい良いだろう! あっ、
「猫ではない!」と怒られた。
「槍なら、武器庫で手に入れたのがあるぞ。クランを作ったら、新人に与えても良いと思うから、ある程度は残しておきたい」
武器庫で山ほど手に入った剣と槍と盾と斧と鎌と弓矢、スケルトンがドロップする剣より上等だったんだ。
「そうか、その槍で練習すれば良いのかな?」
アイテムボックスから槍を取り出す。持ってみたけど、イマイチしっくりこない。ナタや手斧とは勝手が違いすぎる。
「そんなヘナチョコな槍ではなくランスだ!」
ああ、機械騎馬騎士が持っている円錐形のランス! より無理な気がするよ。
「アレク、魔導書を出せ!」
へぃへぃ、今夜はルシウスですら、ちょっとお疲れモードで仕切らないから、
でも、魔導書を出したら、二人もジョッキを置いて真剣モードになった。
「おお、いっぱいあるな!」
「アレクは触らない方が良いから、俺たちが並べよう!」
ルシウスとジャスがベッドの上に並べてくれた。
机の上には、エールの小樽とジョッキが三個あるし、数がかなり多いからね。
「要らないのは、オークションに掛けても良いが、クランを作った時に保存しておいても良いな」
ケチなルシウスだけど、オークションで金儲けするよりも、クランメンバーの育成に役立てたいと思っているみたいだ。
「あっ、『精神錯乱』の魔導書はどうする?」
「保留だな!」ルシウスがリーダーとして決断して、ジャスと私は頷く。
「ああ、それと『誘惑』の魔導書は扱いに困るな。アレク、試してみるか?」
ジャスに回し蹴りを軽く一発!
「おぃ、真剣に選ぼうぜ! 今回は、ちょっと変わった魔導書もある。技能系だが、ジャスどうする?」
ルシウスが手で指した魔導書は『盾の初歩』だった。なんか『錬金術の初歩』と同じ感じかな?
「ううん、俺は大剣持ちだから、盾は装備できないんじゃないかな? だから、これは他の人に譲るよ!」
「大男なんだから、皆を護る盾役が向いているぞ! シールドバッシュが使えるようになれば、攻撃力も強い。ほら、そこに『炎の盾』の魔導書もある」
ジャスは悩んでいる。そりゃ、これまでの戦い方を変えるのだから当然だよね。
「ルシウス、ジャスにマジックポーチを渡せ! そこに大盾を入れておいて、ボス戦の時は、皆の盾役になれば良い」
「それは良いかもな!」
ジャスは、乗り気になったみたい。まぁ、開けれるかは分からないけどね。
「ルシウスも攻撃力を上げるなら『風の剣』だけでは心許ない。その『大地の剣』を試してみろ!」
これは、すんなりとルシウスも受け入れる。早速、魔導書を手に取ってパラパラと捲っている。
「アレクは、その『槍の初歩』だな!」
初歩って微妙! でも、ホーリーランスはかなり強いと思うから使えるようになれば良いけど……。
「ナタに弓にランス? ええっ、器用貧乏になりそうだけど、不器用なんだよね。剣すらも満足に振れないのに……」
ぐずっていると、
「槍とランスって違うんじゃないの?」と文句を言いながら、ペラペラ捲る。
「ほら、槍を持ってみろ!」
「あれっ? しっくりとくる!」
部屋の中だから、振り回したりできないけど、手に槍が馴染んでいる。
ジャスも、やっと『盾の初歩』を手に取った。これまでの戦い方を変える事になるかもしれないのだ。悩むのも当然だよね。
「本が開かないかもな!」と言いながら、表紙を持つと開いた! ペラペラとページが捲れて白紙になる。
「盾も出そうか?」
アイテムボックスの中の盾を出してジャスに手渡す。
「ううん、ちょっと小さい気がする」
まぁ、初心者が持つには上等な盾ってだけだからね。これは、大盾を買わなきゃいけないかも。
「ジャス、こっちもだ!」
「ええい、盾を持つなら、これもだな!」
勢いよく開いてページを捲る。
まだベッドの上には魔導書がいっぱいある。
「ルシウスも回復系を何か持っていた方が良いだろう。『癒しの風』は駄目だったんだな? 『大地の癒』は? 駄目なら『癒しの水』もあるぞ!」
相変わらず良い加減な
ルシウスは『風の剣』と『大地の盾』、そして『大地の剣』の魔導書を開いたから、『大地の癒』を手に持った。
「『大地の癒』を試してみよう!」
普通、そう思うよね! でも、魔導書は開かなかった。
「そっちを試したら?」がっかりしているルシウスに、『癒しの水』を勧める。
慎重に手に持って、『癒しの水』を開く。パラパラとページが捲れた。
「
ベッドに残っている魔導書を三人で眺める。
「『開錠』は便利かもな?」
確かに、鍵を手にいれ損なって、目の前に宝物庫がある場合に、便利な能力かも。
残っているのは、前世のゲームのシーフ系の魔導書が多い。
「『遠見』? 『探索』? 何処が違うのだ?」
ジャスが首を捻っている。
「『忍足』、これアレクに良いんじゃないか? ガサガサ煩いからなぁ」
うっ、確かに大男のルシウスやジャスより、足音が消せていないんだ。
「アレク! 思考も煩いのに、足音も消せないのか!」
酷い!
『
『忍足』をパラパラ捲ったよ。忍足って忍者っぽいよね!
「馬鹿か!」と
その後、ルシウスは『開錠』と『探索』を開いた。ジャスは『裁縫』と『力二倍』という正反対に思えるのが開けたんだ。
他のは、二人は開く事ができなかった。
『遠見』『寝技』『マッピング』『ファイト一発!』『氷漬け』『夢見』『植物成長』『ファイヤーボール』『竜巻』『地震』『石投げ』『応援』『大地の癒』の魔導書がベッドの上に残っている。
「アレクなら全部開けられるのでは?」
ジャスが前に
「『応援』『ファイト一発!』は持っていたら良いと思うぞ。それか私が開いても良い」
ううん、悩む! 『ファイト一発!』だなんて叫びたくないけど、ヴリシャーカピやジェネラルオークのボスが鼓舞を使ったら、攻撃力が上がったんだ。
「よし、私が『応援』を開くから、
「ずるい!」
私が怒っているのに、ルシウスとジャスは笑っている。
「さっさと習得しろよ!」とジャスに言われて、『ファイト一発!』を開く。一瞬、開かないんじゃないかと、ホッとしたけど、すぐに開いたよ。
「ファイト一発!」
ちょっとムカついたから、全員に掛ける。
「馬鹿者!」
「何をするんだ!」
「目が覚めたじゃないか!」
そろそろ解散して、寝ようと思っていたのに、元気溌剌だ!
「図書室には、定期的に潜ろう!」とジャスは気勢をあげている。
「目が覚めたなら、ドロップ品の整理だな」
ルシウスの言葉で、ドッと疲れた気分だよ。元気いっぱいだけどさ。
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