第53話 やっと十五階踏破

 十六階への階段の前に転移陣がある。その前にボス戦があるのは知っていたけど、私達はマジックバックを手に入れて少し浮かれていた。


 相変わらず天井からは大鎌が生えてきて、振り子のように攻撃してくるけど、白猫レオの召喚する機械ハチドリが付け根を凍らせてくれるので、疾風の矢で落としていく。


 落とし穴がウザいけど、アナコンダ、アラクネ、吸血蝙蝠の討伐にも慣れてきた。

 油断したつもりはないけど、気は少し緩んでいたのかも。


「あれは、ハリーじゃないか!」

 ハリーって誰? って聞いている場合じゃない。十三階のセーフゾーンにいた冒険者達だ! 怪我人も出て、苦戦している。


「アラクネのボスは倒したんだな。アナコンダも倒せそうだが……木の蛇ヴィゾーヴニルは無理じゃないか?」

 木の蛇ヴィゾーヴニルの毒で、メンバーの二人がやられている。なんとか残りの三人で攻撃しているのか? いや、怪我人を庇いながら撤退しようと頑張っているんだ! 

 魔物のボスがそれを見逃すわけがない。傷を負っているアナコンダまで攻撃体勢になっている。拙い!


「おおぃ、手助けがいるか?」

 ルシウスが大きな声で叫ぶ。

 多分、ハリーという銀級のリーダーが後ろを見て叫び返す。

「ああ、助けてくれ!」

 これをしないと、後から大揉めするんだ! 獲物を横取りしたとか、大問題になると、護衛任務の見張り当番の時に、他の冒険者達から教えて貰ったよ。


「よし、行くぞ!」

 木の蛇ヴィゾーヴニルの毒の息にはバリアが有効だ。

 バリアを張れば、ジャスが炎の剣でぶった斬ってくれる。

 アナコンダは、あちらが傷をおわせていたから、ルシウスはハリーに譲った。

 ハリーは、仲間を庇う必要が無ければ、大剣でアナコンダの首を刎ねるのも余裕に見えたよ。


星の海シュテルンメーアだったかな、助かった!」

 ルシウスとハリーは握手している。

「フリーダムは転移陣まで行けるか?」

 へぇ、『フリーダム』ってパーティだったんだ。


「アレク、少しは他の冒険者の名前とかパーティ名とか覚えた方が良いぞ!」

 チッ、ジャスったら目敏い! 私が名前を覚えるのが苦手なのを見抜いている。まぁ、反省しよう!


癒しの風を試せニャニャニャニャン!」

 フリーダムのメンバーがいるから、白猫レオは猫の真似だ。


「ジャス、癒しの風を試してみたら?」

 炎の剣は、かなり上手く使っているけど、ジャスが癒しの風を使っているのを見たことがない。


「できるかな?」と少し不安そう!

「できなかったら、私が治すからやってみたら!」と背中を後押しする。


 だって、一番重症そうなメンバーに下級回復薬(劣)を飲ませている程度なんだもん。

「もっと良い回復薬を常備しないと死んじゃうよ」と小声でルシウスに言うと、笑われた。

「回復薬を持っているだけでもマシさ! ジャスに試させるのか? 良いと思うぜ!」


 そこから、ルシウスがハリーと交渉する。えっ、ただじゃないんだ!


「こんな時だから、銀貨クラン三枚で治療してやるよ。まぁ、ギルドの下級回復薬よりはマシだぜ!」

 確かギルドの下級回復薬(劣)は五銀貨クランだったかな? まぁ、ケチなルシウスにしては格安の値段だ。


 ハリーは「お願いする!」と私を見ているけど、違うんだよ。


 ジャスが前に出たので、驚いている。

「こいつが治療師なのか! あっちじゃなくて!」

 まぁ、普通はそう思うよね。赤毛の大男、さっきは炎の剣で木の蛇ヴィゾーヴニルをぶった斬っていたし。


「俺で文句があるなら、やめておくぞ」

 ジャスも気を悪くしたみたい。

「いや、失礼した! こいつを助けてくれ!」

 治療の前に三銀貨クランを差し出したのは、良かったよ。

 ジャスも機嫌良く「癒しの風!」を掛けられた。


「おお、良くなった! ありがとうございます」

 重症だったメンバーが意識を取り戻したので、フリーダムのハリーも喜んでいる。

 私は、こっそりと荷物持ちや他のメンバーの怪我も少しだけ治しておいた。


 アラクネ、アナコンダのドロップ品は、フリーダムの荷物持ちが拾い。木の蛇ヴィゾーヴニルのドロップ品は、うちの機械兵が拾った。ラッキー! 準竜の肝だ!

 行儀悪いけど、アラクネのドロップ品をこっそりと鑑定した。普通の絹の反物だった。何だかホッとしちゃった!


 準竜の肝をゲットして、浮き浮きと転移陣で外に出る。

 フリーダムも一緒に出て、兵士達に「星の海シュテルンメーアに救助して貰った」と話している。

 ここで、ボスを横取りされたとか、襲われたとか騒がないのが銀級なのか? 

 これまで馬鹿な冒険者と出くわすのが多かったから、ハリーの態度が新鮮だ。

 あっ、クレージーホースや草原の風のメンバーも、ハチミツ酒を飲まなきゃまともだな!


「アレクも銀級にならなきゃな! 俺たちも金級になりたいが、二十階まで楽に行けるようにならなきゃ、名ばかりの金級では意味がない!」


 ジャス、それはもしかして、月の雫のバッカスへの批判かな?

 迷宮ダンジョン、もう少し強くなってから、再挑戦だ! だって鍵を持っているんだもん。今度こそ、宝物庫かもね!


 迷宮ダンジョンに二日潜っていて、機械兵達に慣れちゃっていた。ダンジョンの出入り口の兵隊たちも、見慣れてきたから騒がなかったので、そのまま宿に行ったら、亭主に叫ばれちゃった。


「機械兵だぁ! 助けてくれ!」


 しまった! 慌てて消したよ。そしたら、余計に騒ぎ出す。


「消えた? 私の頭がおかしいのか?」


 ルシウスが「あれは、召喚獣なのだ。ここにギルドの召喚獣の証もある。驚かせて済まなかった!」と丁重に謝ってくれたけど、次回は拒絶されそう。

 兎も角、部屋に置いていた部品と魔法陣をアイテムボックスにしまって、防衛都市カストラに帰る。


 先ずは、お風呂だ! お湯を運んで貰っている間、エールだね。

「「「迷宮ダンジョン、十五階踏破おめでとう!」」」

 乾杯して、一気に飲み干す。二杯目を頼んで、食事にする。


「今夜は、俺の部屋に集合な! 売る物、必要な物、ちょっと今は売れない物、色々と分けなきゃいけない。それと、今後の活動について話し合おう!」


 色々なドロップ品があるし、魔導書もあるからね。それと、やはりギルドに依頼がある物は、納入した方が昇級ポイントが溜まる。


 十階までのドロップ品で、要らないと皆で判断したメイド服、銀食器、楽器とかは、ほとんど売っているけど、まだ保留しているのもあるし、出したら拙い物もある。

 

 棺桶とかどうするんだろう? 白猫レオは使い道があるって感じだけど、あれはちょっとねぇ。

 でも、瀕死でも回復の機能は捨てがたいし、連日でダンジョンに潜るなら必要かも。棺桶の外に何かカバーすれば……いや、形は変わっても棺桶は変わらないか?


「兎に角、三日休むから、武器の手入れをしておけ! アレク、矢は武器庫のドロップ品で大丈夫か確認しておくんだぞ。駄目なら、補充しなきゃな」

 三連休は嬉しいけど、ドロップ品を分けるのは少し面倒。


「お風呂の用意ができたよ!」と女将さんが声を掛けてくれたから、部屋に上がる。ルシウスとジャスの部屋に冷風機をだして、私もお風呂だ!


白猫レオもお風呂に入る?」

 親切で聞いたのに、バスケットの中で寝たふりをしている。浄化ピュリフィケーションを掛けておこう!

 あっ、ブラシを買うの忘れないようにしなきゃ! 猫も抜け毛の季節だよね。


「ちょっと休憩しようぜ」

 ジャスの意見に賛成! 迷宮ダンジョン、十五階まで踏破して、疲れたからね!

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