第32話 告白!
迷宮ダンジョンの出口で逃げ出した冒険者達が兵士に止められていた。
「荷物持ちはどうしたのだ!」
頭や腕から血を流している冒険者達が、放置して逃げたのはあきらかだ。
「こんなの聞いてねぇよ! 巨大なねずみや巨大な猫が大広間いっぱいに沸くなんて! その上、天井からはシャンデリアが攻撃してくるし!」
兵士が呼んできた隊長が腕を組んで聞いていたが、吠えた!
「馬鹿者! お前らは迷宮ダンジョンに潜る資格無しだ! 広間ならまだ救助できるだろう! 行くぞ!」
救助に向かおうとする隊長に、ルシウスが声を掛ける。
「そいつらの荷物持ちなら、連れて出たぜ。怪我をしているから、治療費を日当に上乗せして貰ってやって欲しい」
隊長と兵士達は、ホッと安堵した顔になった。
だが、相手の冒険者のリーダーは、恥ずかしげもなく言い張る。
「ドロップ品は、拾ったのか? ほんの少ししか拾ってないじゃないか! 日当はなしだなからな!」
「旦那、それは無いだろう!」
荷物持ちの男が抗議する。他の男達も「見捨てて逃げたくせに!」「金を払え!」と怒る。
「知るか!」と荷物持ちを押しのけて
「日当も払わない奴を乗せる訳には行かないぜ。それに、荷物持ちの馬車代も貰わなきゃな!」
隊長が兵士たちに、冒険者を捕まえさせる。
「日当を払わないなら、借金奴隷落ちだぞ! それに、ギルドに報告するからな!」
私はビビって、ルシウスとジャスの顔を見ちゃった。借金奴隷ってすぐになるんだ。
「宵越しの金を持たないとか粋がって、馬車代ぐらいしか持っていないのかもな。ダンジョンでドロップした物を売れば、荷物持ちの日当を払っても、今日一晩の宿代と酒代ぐらいにはなるのだろう」
ジャスが顔を顰めている。底辺の冒険者がやっと銅級になり、金になる噂を聞いて迷宮ダンジョンに来たのだ。
「同じ中級者用ダンジョンだけど、基礎ダンジョンや食物ダンジョンや暗闇ダンジョンより難易度が高いからなぁ」
ルシウスは突き放した感じで、兵士たちも取り囲んで「荷物持ちに日当と馬車代を払えないなら、借金奴隷になるぞ」と脅しているのに背を向けて歩き出す。
全員が小銭をかき集めているのを見て、ジャスと私も歩き出した。
「ここのギルドマスター、もっと冒険者の育成に手を掛けた方が良いんじゃないか? 盗賊落ちルートが出来上がっていくばかりだよ」
「そうなんだが、あのギルドマスターと話し合いたくない」
ルシウスも苦手なんだ! なんかシンパシー感じちゃうよ!
「俺もアイツ苦手だぞ!」
ジャスは、まぁ苦手だろうと思っていたよ。
はぁぁ、そんな他人事よりも大切な話があるんだ。
「部屋で飯を食おうぜ! 荷物を選別しなきゃいけないし!」
宿屋の部屋に荷物持ち達の籠を置いて、中身を整理するのだけど……。
カバンの中で眠っていた
「あのう、簡単な選別方法を思いついたんだ」
遠いところからの告白に、
「収納!」口にしなくても、アイテムボックスの中に入るけど、ルシウスとジャスにわかりやすいようにね。
昨日の残りの魔導灯の部品、機械兵と機械騎士の部品が全部なくなった。
「どこに消えたんだ!」
ジャスが騒いでいる。ルシウスは、無言!
「あっ、今日のも収納!」
籠に満載されているドロップ品も無くなった。
二人の沈黙が怖い。怒っているよね!
「アレクはアイテムボックス持ちだ。使い方は、まだ初心者だがな」
「アイテムボックス! それはマジックバッグと同じ効果があるのか?」
ルシウスはマジックバッグを探していたからね。
「マジックバッグと同じ効果だと思ってもらって良いよ」
ちょっと違うけど、この説明で良いよね。
「何を言っている! マジックバックは単なる魔導具に過ぎない。アイテムボックスは、
「なぁ、その
「話せるに決まっている! 我は……」
慌てて
「アレクが何かを隠しているとは考えていたが、こんな重要な秘密だとは……それで、これを俺たちに告げたのは、信頼したからか? それとも、もっと重要な事があるからか?」
ルシウスの目が厳しい。怒っているのに、冷静に話そうとしている。
「前から話さなきゃと思っていたけど、タイミングが合わなくて……いや、ごめん!
頭を下げて謝る。背中をバン! とルシウスが殴る。
「ガハハハ、過ぎた事は仕方ない! アイテムボックス、喋る猫、スゲーじゃねえか!」
うっ、まだ秘密があるんだよ。
「全て話した方が良い」
アイテムボックス以外に何が? とルシウスとジャスは待ち構えている。
「ええっと、私は神聖魔法と空間魔法が使える。バリアは空間魔法なんだよ。だから、アイテムボックスも使えるし、転移もできる」
二人は魔法に詳しくないから、バリアは神聖魔法だと思っていたみたい。
「転移! それならダンジョンの最奥にも行けるのか?」
ルシウスが、ダンジョン制覇ができるのではと期待しているけど、無理!
「行ったことがある場所、それか見えている場所にしかいけないんだ」
ジャスが腕を組んで考えている。
「でも、オークの巣になった開拓村には飛んだじゃないか? 行った事もないし、見えてなかっただろう」
ジャスって細かいこともよく覚えているね。
「あの時は、
二人は、少しがっかりしたみたい。
「アレクのレベルが上がれば、
「魔導灯を作ってだせば?」
「うっ、それってアイテムボックスの中でできるの?」
「できるさ! 俺様が教えてやろう!」
偉そうに私の肩に乗り、冷たいピンクの鼻を私の頬に押し当てる。
「酷いなぁ! 全く整理されていないじゃないか! インデックス! これで整理された。魔導灯! 機械兵! 機械騎士! 冷蔵庫! 全く低脳相手は苦労する」
腹が立つけど、目の前には魔導灯が五個、機械兵が二体、機械騎士が一体、冷蔵庫が一個ある。
「すげぇ!」
「これは、高価買取が期待できる!」
機械兵と機械騎士がどの程度の強さかはわからないけどね。冷蔵庫はきっと高く売れる!
「ほら、
「
二人は、ホッと息を吐く。
「やはりアレクは愛し子なんだな。
「ルシウス、違う! 俺は、愛し子ではない」
「諦めが悪い!」と
「なぁ、それより……お前って女なんじゃないのか?」
ジャスが言いにくいそうに口にだす。
「えっ、アレクは男の子だろう!」
ルシウスは鈍い。色狂いのジャスの方が勘が良い。
「そんなのどちらでも良いだろう!」と誤魔化す。
ジャスが「まぁ、好みのタイプではないから、どちらでも良いか」なんて酷い事を言っている。
「えええ、女の子なのか? でも……まぁ、クレアやルシアも女だし……」
ルシウスは、少し困惑していたけど、パンと自分の顔を叩いて、笑う。
「まぁ、アレクが女扱いを求めている訳ではないから、今まで通りで良いか! えっ、それとも女扱いして欲しいのか?」
「いや、今まで通りで頼む。それと、女だとは公表したくないんだ」
本当にジャスは勘が良い。
「ああっ! 隣の好色な領主に売り飛ばされそうになったと言っていたな! 南の大陸まで追いかけるような粘着タイプなのか?」
「さぁな! だけど、かなりの高額を支払ったみたいだから……捕まったら、ヤバい!」
「国ごと滅ぼしてやる!」と怒っている。失言猫だよ!
「
ルシウスとジャスは、北の大陸の情勢に疎い。でも、国ってワードで、何となく察したみたいだ。
「兎に角、オークダンジョンを制覇しなくてはいけないのだな! だが、その
ルシウスが纏めてくれたから、これで終わりかな? と思ったけど、そこから二人にあれこれ怒られた。
「水臭いぞ!」
ルシウスには、もう一度謝っておく。
「俺は、男に気があるのかと、すげぇ悩んだんだぞ! まぁ、女だったから良かったが。それにタイプじゃないから、仲間として問題ないがなぁ!」
ジャスの失礼な発言、回し蹴りしておこう!
「アイテムボックスを皆に知られないように使わないとなぁ。食料やドロップ品を持つ必要が無いのは、有利だけど、知られたらアレクは拉致されるし……」
「マジックバッグがあれば、アイテムボックスを誤魔化せるだろう。確か、迷宮ダンジョンにもある筈だ」
三人で、やった! と喜ぶ。
「何処にあるの?」と
忘れたんだ! でも、見つけたら、アイテムボックスを人目を気にせず使えるようになるかも!
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