第28話 迷宮ダンジョン一階 2

 王座の後ろの小部屋は、ギルドの地図に書いてあるけど、そこから地下室に下りる階段があるのは記入されていない。


「ええっと、この壁を押せば……」


 私が魔法で白く光っている壁を押そうとしていたら、ジャスに「退け!」と言われた。


「回復役のお前が先に立つなよ!」


 確かに、前衛の二人に先に行かせた方が良いよね。


「よっ!」私ではビクともしなかった壁がクルッと回転した。いや、押す場所が悪かっただけだよ。私も身体強化できるんだから!


「おお、隠し部屋だぁ!」

 

 階段を降りたら、思ったよりも広い部屋だったけど……これって、からくり人形というより兵隊ロボットがぎっしり!


「逃げた方が良いんじゃない?」

 こちらに槍を向けている兵隊と、後ろには剣を抜いている騎士達がぎゅうぎゅう!


「ずっと開ける冒険者がいなかったから、ぎゅうぎゅうになるまで沸いたんだな!」


 笑える事に、ぎゅうぎゅう過ぎて、身動きが出来ないみたい。


フルメン!」で兵隊ロボットを討伐したら、後ろの騎士達が襲い掛かってきた。


 騎士達に負けるルシウスやジャスじゃない。それは任せて、騎士達が守っていた王冠を被った猫を観察する。


「うっ、可愛いかも!」

 ここまで出た巨大ねずみを追いかけていた巨大猫は、ちょっと不気味だったから討伐出来たけど、この王冠を被った猫は……真っ白で可愛い!


「ねぇ、名前は?」と思わず聞いちゃった。


「名前を聞く前に名乗るのが礼儀だろう」

 えっ、返事があったんだけど……びっくり!


「俺は、アレク……話せるのか?」


「当たり前だ! 私は神様ガウデアムス! こんな姿になっているが……」


 慌てて、猫を抱き上げて、口を手で押さえる。この世界の人々は、女神様クレマンティアしか知らないんだ。前に神様ガウデアムスがいただなんて、知ったら混乱するだろう。


「アレク、何をしているのだ? 猫なんか抱いて……魔物じゃないのか?」


 ルシウスとジャスには、声は聞こえていないのか? 騎士達と戦闘中だったから、聞こえなかっただけ?


「あまり可愛いから、討伐しなくても良いかなと思って!」


 ははは……と笑って誤魔化すけど、神様ガウデアムスが出てきて、女神様クレマンティアが察知しないわけがない。



 ピカッと光って、麗しい女神様クレマンティアが降臨した。


神様ガウデアムス! こんなところにいただなんて! ここは、私の世界なのよ! 消滅しなさい!」


 お怒りモードの女神様クレマンティア! ルシウスやジャスは、驚いているんじゃないのと心配したけど、固まっている。


「ああ、その二人の時は止めてあるから大丈夫です。さぁ、その神様ガウデアムスを渡しなさい」


 女神様クレマンティアの怒りで、空気がビリビリしている。でも、白猫は私の服に爪を立てて、必死にしがみついている。


「許してくれ……全能神様オムニスにほとんどの能力を封じられ、罰としてここに閉じ込められたのだ。もう、私には何の力も残されていない」


 私は、猫が好きだ! 愛していると言っても良い。でも、その猫好きな私でも、胡散臭く感じる。


 爪をバリッと引き剥がして、首根っこを持って女神様クレマンティアに差し出す。


「絶対に全能神様オムニスから逃れて、ここに隠れていたのだろう。消滅させられた筈なのに……どうやったのか?」


 女神様クレマンティアに渡した猫、見たら負けだ!

 必死で、横を向いて見ないようにしているのに「助けてニァァ!」なんて鳴くんだ。卑怯だよ!


「こんな奴なのです。だから、オークなんて魔物も作ったのだわ!」


 ハッと目が覚めた。これは猫に擬態した神様ガウデアムスなんだ。


「新たにオークダンジョンが沸いたのです! 地上にジェネラルオークが出現しています」


 女神様クレマンティアが綺麗な眉を少し上げる。


「この神様ガウデアムスのしでかした後始末が本当に大変なのよ。アレク、オークダンジョンを制覇しなさい!」


「ええっと、それは実力不足で無理だと思います」


「私が手助けしてやろう!」


 弱味を見せると、ぐぃぐぃ押してくる。神様ガウデアムスって性格が悪い。


「そなたに手伝って貰わなくとも、妾が手助けする」


 ニヒヒと白猫が笑う。本性は隠せないな。


全能神様オムニスは、神々の過度な手助けを禁止されているのを忘れたのか? 神々の力で全てを解決するのは間違いだと思われているからだ。だが、私の能力は殆ど封じられている。人間の少し上ぐらいだ」


 口では、神様ガウデアムスに勝てないのでは? 女神様クレマンティアが言い負かされそう。


 女神様クレマンティア神様ガウデアムスが睨みあっていると、圧倒的な力が降臨した。


 思わず、膝から崩れ落ちる。


「ガウデアムス! 其方はこんな所に逃れていたのか?」


 白猫は、ぶるぶる震えている。オークなんか創造した糞神だけど、駄目だぁ! 必死の覚悟で、全能神様オムニスに「助けてやって下さい!」と嘆願する。


「これは、クレマンティアの愛し子か? ふむ、我にガウデアムスの命乞いをするとは、根性がある。良かろう! これを、そなたの従魔にしてやろう」


「「「従魔!」」」


 白猫は「従魔より、守護天使に!」と騒ぐし、女神様クレマンティアは「こんな奴を愛し子の側におけません!」と抗議する。


「従魔って何でしょう?」

 私の質問に全能神様オムニスが答えてくれる。


「其方の命令を聞く家来だと考えたら良い。絶対に逆らえないようにしておくから、安心しなさい」


 いや、全く安心出来ないし、見た目は可愛いけど、性格は糞なゲーム脳の神様ガウデアムスなんか側に置きたくないです!


「なかなか辛辣な愛し子だのう。だが、そのくらいの根性が無ければ、この世界は救えないかも知れぬ」


 いや、いや! 女神様クレマンティアとの約束は、子どもを産む事だけだったよね。世界なんか救えないから!


女神様クレマンティアも苦労しているのだな。確かに、ガウデアムスはどうしようもない糞だから、この者の心配も理解できる。では、テイマーの能力を与えよう」


 全能神様オムニスの指が私の額に押し当てられる。


「痛ぁぁぁぁ」

 死にそうな痛みで、床を転がりまわる。


「こんな不様な人間の従魔だなんて、嫌です」とか神様ガウデアムスがほざいている。


「お前ほど無様な存在は全宇宙を探しても見つからないと思うぞ! しっかりと罪を償え!」


 白猫の額から金の王冠を引きちぎり、指を押し当てる。


「ギャギャギャギャギャア!」


 白猫が壁と壁を駆け回っているのを、全能神様オムニス女神様クレマンティアが白けた顔で見ている。


「ほぼ能力は封じたから、心配しなくても良いぞ。それから、これを渡しておく。万が一、ガウデアムスが迷惑を掛けた時は使え」


 白猫の王冠を指輪にして、私に渡す。


「あっ、それで妾をいつでも呼び出せるようにしておきますわ」


 女神様クレマンティアがチョンと触ってから、私の指に嵌める。えっ、左手の薬指!


「ええええ! そこって婚約指輪を嵌るとこじゃん!」


「煩い愛し子じゃのう」と全能神様オムニスに呆れられた。


「本当に……では、オークダンジョンを制覇するのじゃぞ!」


 残ったのは、白猫と私! 


「なぁ、これどうするの?」

 他の人、動いていないんだけど……。

動けニャン!」とひと泣きしたら、止まった時間が動きだした。


 ◇


「アレク、笑っているけど、その猫は、魔物ではないのか?」

 

 そこから説明しなくてはいけないの? 根性の悪い白猫は、素知らぬ顔でペロペロと身体を舐めている。返品したいよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る