第9話 アルシア町
大きな街道から脇道に進路を変えた。森がより近くになり、魔物と遭遇するのも増えたけど、割と小物が多いので、『草原の風』が矢で射殺す。
「あの弓使い、凄いよなぁ!」
急所をビシッと射抜く。私のは、たまに当たる程度だからなぁ。
「まぁ、練習するしかないさ」
ルシウスに慰められた。
ちょっと落ち込みながら、荷馬車の横を歩く。
夕方になる頃、アルシア町の外壁が見えて来た。
「凄い厳重な壁なんだな」
北の大陸でも大都会は高い厳重な壁で囲まれていたけど、田舎の町はせいぜい石が積んである程度だった。
「魔物が出るし、盗賊も出るからな! でも、中に入れば、少しは休めるさ!」
アルシア町の外側は、畑になっていて、日中は外で畑仕事をする人もいるのだろう。
畑の外側にも木の柵があるけど、魔物は気にしないんじゃないかな? 気分的な物なのかも。
高い壁の上は人が歩けるようになっていて、門だけでなく、壁の上からも四方を見張っている。
四隅には鐘が設置されているから、魔物が出たら鐘を叩くのだろう。
「カインズ商会の者だ。
グレアムさんとハモンドさんが門の兵士に事情を説明する。
「魔物の集団? どんな魔物だったのだ?」
兵士は気になるよね。近くに魔物の集団がいたと聞くと。
「ヴリシャーカピの集団だった。八十頭近く討伐したが、二十頭以上は逃げられた」
兵士が苦い顔をした。ヴリシャーカピが嫌いなのだろう。私も嫌いだから、わかる。
「皮を鞣す職人がいるなら紹介してくれ!」
これは、喜んで紹介してくれた。町の人の収入にもなるからだろう。
「荷馬車は、町の広場に止めてくれ。何か欲しい物がある住民もいるかもしれない」
やっと中に入れた。ジャスが言っていたほど、のんびりはできない感じだよ。
だって、荷馬車の周りに町の人が集まって来たからね。
「カピの皮を下ろしてくれ! 鞣して貰う。肉もできるだけ、加工して貰うから下ろしてくれ!」
これらは、御者達の半分がしている。後の半分は、集まって来た町の人との交渉だ。
「アレク、馬の世話だ!」
護衛任務には、これも含まれるみたいだね。
アルシアの町の広場には、こういう商隊がよく来るのか、井戸も馬が水を飲む大きな桶も完備してある。
力の強いジャスが水を汲む。今日は、浄水を出さなくても良さそう。
それと、料理は宿屋がしてくれるみたい。寝るのは、テントだけどさ。
馬の世話が終わると、それぞれが自分の武器の手入れを始める。
「アレク、矢を補充したり、ナタを研いで貰わなくて良いのか?」
矢は、あまり無くなってはいない。使っていないとも言えるね。でも、補充できるならしておこう。
「ナタは研いでもらいたい。解体でかなり脂がついたから」
ジャスやルシウスの真似をして、戦闘や解体の後は、一応は手入れをしたけどね。
「こりゃ、酷い! もっと手入れをしなきゃ駄目だぞ」
ジャスに叱られた。ジャスの大剣、あれだけヴリシャーカピをぶっ切っていたのに、素人目からしたらピカピカだ。
「見張りの時に研いだりしなかったのか?」
ルシウスにも呆れられた。
兎も角、アルシア村の武器屋に向かう。
「何か用かい」
あっ、無愛想な武器屋だ。
「ナタの手入れを頼む」と言ったら渋い顔をした。農具だと思われたのかも?
「うん? これは普通のナタでは無いのだな……良いだろ!」
上から目線が気になるけど、ナタを五
「後、矢の補充をしたい」
十本ほど買っておく。カピに当たったのは回収したけど、やはり曲がっていて使えないから。
無愛想だけど、普通に手入れしてくれるし、売ってくれるから良かったのかも?
『お前に売る矢は無い!』とか言われなくて。
カインズ商会の人達は、アルシア村でも商売をするのに忙しそうだ。
『クレージーホース』のメンバーは、他の馬を柵の中に入れて護衛しながら、自分の愛するスレイプニルの世話をしている。
私が用があるのは、『草原の風』のメンバーだ。矢の使い方と斥候の仕方を教えて貰いたい。
それなのにクレアに捕まった。
「アレク、ベィビィに乗せてやろう」
ちょっとそれは遠慮したい。
「馬に乗れないと護衛任務で困る時もあるぞ」
オルフェも言い出す。親切心からだろうが、スレイプニルは馬より一回り大きいんだよね。
「馬には乗れる!」嘘じゃないよ。修道院には、院長の白いロバと荷馬車を引くための農耕馬が四頭飼ってあったからね。
畑を耕したり、収穫した物を売りに行く時に、御者もしたけど、急なお使いの時は馬に乗ったから。まぁ、サーシャがだけどさ。
「それでも、練習した方が良いだろう?」
どうやら信用されていないのかも。まぁ、私は馬に乗った事はないんだけどさ。
「スレイプニルじゃない方が良いのでは?」
一回り大きいスレイプニルより、荷馬車を引いている馬の方が大人しそうだ。だって、魔物を蹴り殺していたからさぁ。遠慮したい。
「スレイプニルに乗れたら、馬なんか簡単だ!」
クレア、親切なのか、強引になのか、押し切られた。
「ベィビィ、宜しく!」
兎に角、ご機嫌を取っておく。鎧に片足を掛けて、身体強化で鞍の上に乗る。
「高いなぁ!」
これ、本心! スレイプニルの上から見る景色、少し違って見える。
「良いだろう! アレクならスレイプニルも慣れると思うんだ」
ちょこっとだけ、アルシア町の中を歩かせる。町の人は、やはりスレイプニルが怖いみたいで、さっと避ける。
ぐるっと一周して、広場に戻る。
「乗せてくれて、ありがとう!」
お礼を言っていると、ルシウスが側に来て「アレクはやらないぞ」とクレアに牽制した。
「ふふん、それはアレクの自由じゃないかな?」
いや、護衛任務中心の『クレイジーホース』はちょっと嫌かも? かと言ってダンジョンがどうなのかも知らないんだけどね。
「神聖魔法使いは、引き手数多なのさ。一番初めに唾をつけたからといって、そのまま仲間にするのは狡いぞ」
ふぅ、クレアには悪いけど、今は
「俺は、自分で
当分は一緒だと思う。でも、アイテムボックスを使うなら、一人の方が楽なのかも? 兎も角、冒険者の基礎も知らないから、教えて貰いたい。これって、狡い?
いや、マジックバッグを作って、広めたら? なんて、二人のエキサイトした口喧嘩を聞きながら考えていた。
ジャス、いつもならバッサリ切るのに、クレア相手だと本当に意気地なしだね。
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