第10話 ズタボロの商隊

 アルシア町での見張りは、やはり楽だった。それに、二人ずつで良いと決まったので、私は今夜は当番無しなんだ。やったね!


 いや、楽な日の見張り当番をした方が良いのか? どちらだって良いよ。兎に角、今夜はずっと眠っていられる。


 それに、宿屋が作ってくれたカピのシチュー、なかなか美味しかった。芋とか人参とか玉ねぎとかゴロゴロ入っていて、焼肉かスープだけだったからさぁ。あっという間に完食したよ。


「アレク、この町の女の子に色目を使うなよ!」

 ジャスにそんな事を言われたくないよ!

「お前こそ、気をつけろ!」と言い返すと、二人に溜息をつかれた。


「アルシア町の女の子は、この町の住人の嫁さん候補だからな。面倒事は御免だ!」

 ルシウスの説明で、南の大陸には奴隷が多いのを思い出した。


「奴隷ってこと?」小さな声で質問する。


「嫁さんにするんだから、奴隷はいないと思う。元奴隷とか、親が結納金を貰ってこの町に来させている子とかいるから、兎に角、手を出すな!」


 やはり、この世界で女の子が生きていくのは厳しい。


「小さな町より、大きな街で暮らしたいと女の子は思うからなぁ。まぁ、無理もないとは思う。交易都市エンボリウム防衛都市カストラは、色々な店があるし、女の子も働く場所があるからな」


 それ、前世でもあったね。田舎の農村より都会の暮らしを望む若者。


「男の子は、ここで良いの?」


 二人に笑われた。


「アルシア町で生まれた男の子は、畑を耕せば、そこそこ楽に暮らせる。少し不便だが、こうして商隊も来る。それに、交易都市エンボリウムは金が無いとまともに暮らせない。防衛都市カストラは強くないと、あっという間に死ぬからな」


 そう、交易都市エンボリウムの宿屋、結構、高かった。物価も高いのかも? サーシャは買い物をした事がないから、わからないけど。


「あれっ、じゃあ冒険者になる人は?」


 結構、南の大陸って、冒険者って多いよね? 北の大陸では、殆どが農民だっていうのもあるけどさ。えっ、もしかして土地から離れるのを領主が規制しているのかな? こちらには、金持ちの商人とかいるけど、今のうち貴族とかは見ていない。


「アルシア町は、交易都市エンボリウムにも近いし、防衛壁もちゃんとしている。こんな町ばかりじゃないし、開拓村とかで生まれたら、出て行きたくなるんだよ!」

 ジャスもそんな村の生まれなのかな? 凄く嫌そうに言っている。


「ここでも、三男とか四男とかは、出ていくしかないだろうな」

 ルシウスは、三男だったのかな? 言葉のニュアンスで、そう感じたよ。でも、違うかもしれない。


 この夜はぐっすりとテントで眠った。本当に神経が図太くなっているよね。


 二日目、相変わらず商隊は、アルシア町の人と商いをしている。

 大量のヴリシャーカピの毛皮は、加工を頼んで、帰りに受け取って交易都市エンボリウムに運ぶみたい。

 肉も、塩漬けや、干し肉に加工して貰い、帰りに貰う契約をしていた。


 私達、護衛には、毛皮代、肉代、魔石代を防衛都市カストラで支払ってくれるそうだ。ここら辺の交渉は、リーダーのルシウスに丸投げだよ。金をキッチリと取り立ててくれそう。


 私は、手入れを頼んだナタを取りに行った後は、広場で『草原の風』から弓の使い方を教えて貰ったよ。


「アレクは、ちゃんと獲物を見る事から始めなきゃな!」

 ルシアに言われたけど、ちゃんと見ているつもりだ。不満そうな顔を笑われた。


「そうじゃなくて、アレクは身体強化もできるだろう? 視力も強化するのさ!」


 えっ、それ初耳! サーシャは身体強化はしていたけど、視力を強化とかしていなかった。まぁ、弓も持っていなかったからかも?


「目を強化して、獲物をターゲット! そして、素早く矢を放つ!」

 ルシアは、簡単に言うけど、素早く矢を放つのが難しい。

 そう、視力強化はできたんだ。ルシアのいうターゲットも、何とか魔法でできたと思う。


「後は、練習あるのみだよ!」

 それは、そうだと思う。


「ありがとう!」とお礼を言ったら、笑われた。


「こちらこそ、アレクには助けて貰ったよ! ありがとう!」


 やはり女の子だから、顔に傷は残したくないよね。


「アレクは、防衛都市カストラに着いたら、ダンジョンに潜るの? それなら、私も一緒に行こうかな?」


 ここら辺の事情はよくわからない。


「ダンジョンに潜った事がないんだ。だから、ルシウスとジャス任せだ」

 狡い言い方だけど、ルシアを斥候として仲間にするかは、二人に任せるつもりだ。


「ふうん、アレクは多分、凄く引き抜きが掛かると思うよ。星の海シュテルンメーアだけに決めてかかる事も無いんだけどね! 金級のパーティでも回復役はいない場合もあるからさぁ」


「回復役が少ないのは、その通りなのかも? でも、今は銀級のルシウスやジャスにおんぶされている感じなんだ。色々と選択するのは、対等な立場になってからだよ!」


 それに、金級なんて、今の自分の実力以上のダンジョンに潜りそう! おっかないじゃん! 


「アレクって、良い奴だね!」

 ルシアに誤解されている気がする。良い奴じゃなくて、臆病で打算的なんだよ。


 この日は、私も見張り当番が回ってくる。昨日は、一晩ぐっすりと眠れたから、文句は言えないね!


「晩飯食べたら、俺は一晩寝るからエールを飲むぞ!」

 あああ、昨夜、そうしたら良かったんだ。損した気分! 

「ジャスめ!」と罵る。

 今夜も宿屋の食事だ。それだけを楽しみにしよう。


「うん? 何だか変だぞ?」

 ルシウスが一番に異変に気づいた。

 皆も、食事をやめて、警戒レベルをマックスにあげる。


「門だ!」ジャスが大男なのに素早く大剣を持って、門に走る。

 皆も武器を持って後に続く。


 アルシア町の門は、夕方には閉まる。それなのに、一旦、閉まった門を開けようとしている。


「待った!」

 ルシウスが叫ぶ。私達は、オークに襲われたパルサー開拓村を思い出したのだ。


「何故だ? 魔物に襲われた商隊だぞ!」

 防衛壁の上から、兵士が叫ぶ。

「話したのか!」ルシウスが叫び返す。


「いや、でも……! ちょっと待て!」

 門を開けようとしている兵士を止めるが遅かった。門が開いた。

 門の外には、ズタボロの商隊がいた。御者は、こんなに暖かいのにマントを深く被っている。


「オークだ!」ジャスが叫ぶ。

『草原の風』の矢がビュンビュンと御者台のオークを射抜く。


「門を閉じろ!」とルシウスは叫んで、外に飛び出す。他の護衛も一緒だ。私も飛び出す。アリシア町にオークを絶対に入れない!

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