第21話 オーク
ギルド長の部屋で、隊長と一緒に座る。
「バンズ隊長、オークが
隊長の名前がわかったけど、それより喉が渇いている。
「あのう、俺は下でエールが飲みたいのですが……くたくたなので」
ギルド長が秘書にお茶を持ってくるようにと命じる。お茶より、エールが欲しいとは言えない雰囲気だ。
お茶を一口飲み、喉を潤す。
「それで、アレク、どこで二頭のオークを討伐したのだ? 場所は分かるか? どう言う状況だったのだ?」
矢継ぎ早のギルド長の質問だ。
「
ギルド長と隊長は、秘書が持ってきたお茶には口も付けず「クソッ!」と罵る。
「近いな! 前にオークを討伐したのは、二年前か! また湧いたのだな」
ギルド長の言葉に、バンズ隊長も渋い顔だ。
「三角岩は、
後は、お偉いさん達に話し合って貰おう! 私は、ビッグボア二頭とオーク二頭の代金を貰わないとね! それに、お茶ではなくエールが飲みたい!
「失礼します!」
席を立とうとしたら、二人に睨まれた。
「おい、何処に行くつもりだ! アレクには詳しく状況を説明してもらわないと、討伐隊を派遣できないからな!」
「ええっ! もう全部話しましたよ。俺はクタクタだし、腹が減っているから、下でエールとステーキを食べたいです」
二人にギロリと睨まれて、考えながら、状況を説明する。
「
ここまでは、二人とも、ふむ、ふむと頷いていた。中級の冒険者として、ごく普通の行動なのだろう。
「ギルドに戻って
ここら辺から、二人が首を捻っている。
「ギルドから森の奥まで、荷車を引っ張って行ったのが早すぎないか?」
転移で飛んだとは言えない。
「俺は、身体強化が使えるから。荷車があるから、それに乗せて帰っても良いけど、解体料金を払うのが勿体無いから、そこでビッグボアを解体する事にした。血の匂いを嗅ぎつけたのかオークがやってきたので、討伐しました。これで全部ですよ」
自分で話していても、嘘くさい! でも、ほぼ真実なんだよね。ビッグボアは、昨日討伐したんだけどさ。誤差だよ!
「ふぅ、冒険者ギルドの中級っていうのは、とても凄腕なのですね。
バンズ隊長が呆れている。
「まぁ、アレクは特殊だからな。兎に角、三角岩の付近でオークと遭遇したのは、間違いないだろう。下でエールでもステーキでも好きにしてくれ! ただし、ギルド内にいて欲しい」
それは困る!
「えええっ、俺は買取りして貰ったら、買い物に行きたいのです。矢ももっと欲しいし、武器屋に頼んでいるナタとスコップ、それに手入れして貰っているナイフも取りに行きたいから」
文句を言ったら、ギルド長に睨まれた。元金級、おっかない!
「やはり冒険者になったばかりのヒヨッコだな。オークが街の近くにいる意味がわかっていない。下でエールを飲みながら、ルシウス達に説明してもらえ!」
まぁ、兎も角、エールにはありつきそうだ。なんて呑気な事を考えながら、下に降りたら、蜂の巣を突いたような大騒動だった。
「アレク、お前がオークを二頭も討伐したと皆が言っているが、本当か?」
ルシウスが真剣な顔で訊ねる。
「ああ、
嘘を何回も言っていると、本当の事の様に感じてくるね。嘘つきは、泥棒の始まりと言うけど、泥棒から私の転生人生は始まったからね。
「兎に角、買い取って貰ったお金を貰おう。その後で、エールだ!」
騒つくギルド内だけど、受付には何人も並んでいる。私も並ばなきゃ!
「三角岩でオークを討伐したのか! おい、本当に?」
ルシウス、顔が怖いよ!
「嘘じゃないさ!
ギルド内の騒めきが大きくなる。
「三角岩は、
かなり森の奥だと思っていたけど、銀級とかは、もっと奥まで行っているのかな?
「オークの小さな群れなら、もっと奥にいる筈だ! つまり、大きな群れで移動しているのだ」
「冬の間に、何処かの村、いや町が襲われたのか? オークが繁殖しているぞ!」
「何処の町だ? それか、商隊か馬車が何件か行方不明になっていたな。中には女や奴隷が乗っていたのもある!」
オークが女を攫って犯すとは聞いたけど、もしかして繁殖をするのか?
『ブッ、ブー! 本当に失礼な子ね! 私は魔物など作っていないわ! 魔物がいる世界で苦しんでいる人々を何とか救いたいと思って、頑張っているのよ!
オークの事を考えると、一気に食欲が失せた。でも、酔いたい気分だ。
子どもさえ作れば、後は自由にして良いという約束だった筈だ。でも、オークは許せない!
「エール、いやハチミツ酒が欲しい」
酒場の女給に頼んだが、ジャスに止められた。
「エールにしておけ! 討伐隊が組まれるぞ。早くオークの巣を見つけて、殲滅しないと大繁殖するからな」
初心者以外の全員がギルド内で待機している。エールを飲みながらも、誰も口を開かない。
生ぬるいエールが苦く感じる。
ギルド長とバンズ隊長が階段の途中で止まって、討伐隊の派遣を宣言する。
「一刻も早くオークの巣を見つけ、殲滅するぞ! 中級以上の冒険者は、全員強制参加だ!」
ああ、絶対に髪が伸びる案件だ。その確信があった。
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