第19話 弓の練習をしながら、お仕事の筈が

 次の朝、ルシウスとジャスに一緒に依頼を受けないかと提案されたけど、断った。


「銀級に頼っていると思われるのは嫌だ。もっと実力を付けてから、一緒に依頼を受ける」

 なんて言ったけど、アイテムボックスの中のビッグボアを売りたいからもある。

 時間停止がついていても、生物ナマモノをいつまでも置いていたくない。


 それに、交易都市エンボリウムでは、色々と買い物をしたいから、稼ぎたいんだ。ちょっと非常識な手段でね!


 レッドウルフの連中の財布というか巾着を貰ったけど、彼奴ら本当に金欠だった! 全員で五銀貨クランもなかったんだよ! ガッカリしたからね。


「アレクは、真面目だな!」なんて言いながら、ジャスが頭をぽふぽふしようとするから、睨んでおく。


「まぁ、それが良いかもな! だが、護衛依頼を受ける前に一度は一緒に討伐しておこう。連携の練習もしないといけないからな」

 ルシウスの言う通りかも? ただ、私の能力をどこまで見せるのか、悩む。


 冒険者ギルドまで歩きながら、ジャスがチラチラと私の頭を見る。今朝は、ショートボブにしているけど、この髪型って変なのか?


「何だよ! ジャス!」と睨むと笑う。


「いや、その髪型、なかなか似合っているぞ」

 

 そうか? ボブといっても、チョキン、チョキンと切っただけだから、不揃いだけどな?


「ジャス! 女の子に見えても、アレクに手を出すなよ! 今度は去勢コースになるからな」


 ああ、いつもはまともなルシウスが酷い事を言っている。うん? ジャス!!!


「金◯◯、踏み潰すぞ!」と怒鳴っておく。やだやだ、どんどん下品になっていくよ。


「いやぁ! 俺は男には一寸も興味ない! 昨日の酒が残っているんだ、きっと」


 このショートボブは無しだな。明日からは、ベリーショートにしよう。


 なんて馬鹿な話をしながら、冒険者ギルドに着いた。

「じゃあな!」

 ルシウスとジャスは、上級の依頼票の前に行くし、私は中級だ。


「中級になると、魔物討伐が多くなるな」

 この異世界には、人間型の魔物がいるみたいだ。北の大陸にもいるのだろうけど、少なくともサーシャは見た事がなかった。


「オーク、人間型の魔物かぁ」

 少し、ビビる。それも、女を攫って犯すとか聞くとね!


「オークは美味しいぞ!」

 ジャスは、依頼を決めたルシウスが並んでいるので、悩んでいる私の所にやってきた。


「これは、常設依頼だから、何か依頼を受けたい」

 昨日の薬草採取も常設依頼だったから、普通の依頼ってどんな感じかやってみたいんだよね。


「おっ、ラッキー! ミネルバちゃんだ! じゃあな!」

 おい、冷やかしだけかよ、受付のお姉ちゃんに負けた気分だ。


 茶色の常設依頼をチェックしてから、白い紙の依頼を見る。普通は、混んでいるのだろうけど、私の周りに男はいない。

 こそこそ『男殺しのアレクだ』とか『レッドウルフの五人を去勢した』とか嘘が混じった噂が呟かれている。去勢したのは三人だよ!


 まぁ、ゆっくり選べたから良いか!

「よし! これにしよう!」

 武器屋で弓矢を買ったのだ。弓で狩れる魔物が良いよね!


 依頼票を持って、一番短い列に並ぶ。うん? 優男だったけど、問題ない!

火食い鳥カセウェアリーですか? あれは中級でも厄介ですよ。火を吹くし、脚の爪のキックも危険です」

 注意されたけど、多分、大丈夫?


「依頼部位は、肉と羽になっているが、少しぐらいは傷つけても良いのか?」

 これ、重要だから聞いておく。

「あまり傷が多いと、買取り価格は下がりますが、矢傷や首を落とした程度は問題ありません」

 弓を装備しているから、そう言ったのかも?


 二階の資料室で、火食い鳥カセウェアリーの生息域を調べる。かなり深い所にいるみたいだ。

「よし!」転移の練習がてら、森の奥まで行こう。


 今日は、門の位置も知っているから、ずんずん進む。

「おい、お前!」と何故か止められた。

「あっ、隊長さん! 荷車は返して貰ったと思うけど?」

 ギルドに頼んだよね? もしかして、返していなかったの?


「いや、荷車は返却済みだ。それより、あの男たちが気になって」

 えっ、レッドウルフと知り合いだったの? 警戒して、スッと後ろに下がる。剣の間合いから離れたい!


「誤解するな! 単なる好奇心だ!」

 ふうん、なら良いか。

「彼奴らは、何人もの新人を強引に勧誘して、断ったら殺していたようだ。ギルド長が取り調べている」

 隊長は、思い当たる事件があるのか、深く頷いた。


交易都市エンボリウムの為に、ありがとう! 感謝する」

 隊長、兵士達に敬礼された。お尻がむず痒い気分になったから、そそくさと門を出る。


 別に交易都市エンボリウムの為にした訳じゃない。馬鹿が突っかかって来たから、返り討ちにしただけだ。

  

 森の中に入り、人気がなくなってから、転移を繰り返して、奥に進む。

 これ、今のレベルだと見えている箇所にしか転移できないんだけど、もっと上達したら、覚えている場所にも行けるかな?

 

 防衛都市カストラで落ち着いたら、エンボス島のマギー、海亀亭トゥラトゥラのリリーに、会いに行きたくなるかも? 海を渡れるようになるには、まだまだ練習しなきゃいけないだろうけどさ。

 

 あっ、クズ王妃オルグェーヌに復讐してなかったな。クズ聖王パーベェルにも! でも、あそこには二度と近づきたくない。それに、いずれは好色王アマースに攻め滅ぼされそう。関わらないでおこう!


 かなり森の奥に来た。火食い鳥カセウェアリーを探さなきゃ!

 でも、常設依頼の薬草も見つけたいな。今は、お金が欲しいから売るけど、薬師として食べていく為に、練習材料にもしたいから。


「なかなか、火食い鳥カセウェアリーは見つからないな。大体、鳥だけどあまり飛ばないなら、弓の練習にならないかも?」


 ぶつぶつ言いつつ、もっと森の奥へと、転移していく。

 うん、五十メートルぐらいは飛べるようになった。これ、魔物に襲われた時も逃げられるかもね。


 火食い鳥カセウェアリーは見つからなかったけど、オークが歩いていた。豚みたいな顔、それなのに二足歩行? その上、腰ミノっぽいのも着ているし、冒険者から奪ったのか、剣も持っている。


 股間を隠すのは、急所だからか? 恥を知っているのか? なんて首を捻っている間に、かなり遠いのに見つかったのか、走ってくる。


 ゲッ、彼奴、私が女とわかったのか、グヒグヒ笑っているし、股間がモッコリだ。ゲー!


 矢の練習どろこじゃない。

「バリア!」で首チョッパーする。

「これ、どうしよう? 肉が美味しいと言われても、食べる気にならない」


 取り敢えず、アイテムボックスにしまっておく。

 ああ、こんなの入れておきたくない。

 早く火食い鳥カセウェアリーを見つけなきゃ! 依頼を終えたら、荷車を借りて、オークをギルドに納めたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る