第18話 魚を食べるぞ
夕方に武器屋に行ったけど、店を出た時は夜になっていた。
「腹減ったな!」
ジャスだけでなく、私も腹ペコだ。やはり、転移魔法をいっぱい使ったのと、森の端近くから、男三人を引きずって歩いたからだ。その上、ビッグボアと取り上げた武器も背負っていたからね。
「魚が食べたい!」
わらじみたいなビッグボアは、美味しかったけど、
「えっ、肉の方が美味しいぞ!」
ジャスは、見た目通りの肉食大好き大男だ。
「折角、海の近くの
ルシウスも肉派みたいで、困った顔をする。
「肉と魚、どちらも出す店かぁ……そうだ!
魚が食べられるなら、何処でも良い。それに、
「うん? では何故いつもは
昨日は、ギルド併設の酒場で食べていたよね。それに、口調で夕食を宿で食べていない感じがする。
「
へぇ、ルシウスは気を使っているのか? 私も酔っ払って騒ぐのは、やめておこう。
「肉はギルドが安くて量が多いぜ! 冒険者が狩ってきたのを買い取っているからな。他の店は、そこから買うから、割高になる。時々は、
ジャス、本当に見た目のゴツさの割に、心配りができる大男だよ。少し見習おう! アイテムボックスの中には、ビッグボアがまだ二頭入っているからね。
「お帰りなさい。あら、お食事はまだなのかしら?」
酔ってないから、食事を取っていないと女将さんは思ったみたい。普段の生活態度がわかるね。
「ああ、部屋に荷物を置いてから、食事にする。席は空いているか?」
食堂は、ほぼ満席で、ルシウスの言う通り、商人っぽい格好の人が多い。でも、何人かは冒険者みたい。
「三人なら、大丈夫ですよ」
そういう事なら、部屋に背負い籠を置いて、手を洗おう。
ルシウスやジャスは、防具を外したりするのだろうけど、私は兵士の服のままだからね。
「
「さて、魚だ!」
修道院でも、祝日に魚が出た時もあるようだ。サーシャの中で寝ていたから、ぼんやりとした記憶だけどね。川魚や干物で、美味しかった記憶はない。
でも、
食堂へ行ったら、ルシウスとジャスは、もう席についていた。
「早いな!」と驚くと「遅いぞ!」とジャスに笑われた。
「夜は、メインを選べるぞ。俺は、ビッグボアのステーキだ!」
ジャス、昨日も同じだったよ。
「ビッグエルクの煮込みにしよう」
ルシウスのも美味しそうだけど、私は魚だね!
「カジキのステーキ! とエール」
ジャスが「エールは頼んである!」と言った。
夜は、酔っ払いもいるから、リリーは給仕の手伝いはしない。料理は、亭主、運ぶのは女将さんと、雇われ人。
ああ、こういう宿屋、良いなぁ。料理が美味しくて、少し泊まり賃は高いけど、客層も良い。
治療院から宿屋に目標を変えたくなったよ。ただ、治療院なら一人でできそうだから、そっちかな?
これは、
「「「乾杯!」」」
エールを一気飲みしたら、疲れが癒える。えっ、ギルドでも飲んでいただろうって? あれは、男五人を森から連れて帰って、本当に喉が渇いていたの!
「前菜です」
ほぉ、前菜なんて、サーシャの輿入れ行列、部屋に閉じこもって食事をしていた時以来だよ。城では、使用人の食事だったからね。
「俺、野菜はいらない」
ジャスは、前菜の蒸し野菜の皿を机の奥に置く。
「勿体ない! 野菜を食べないと、身体の調子が悪くなるぞ」
要らないなら、私が二皿食べよう。
「海亀のスープです」
これは、定番みたい! 美味しいね!
「ビッグボアのステーキ、ビッグエルクの煮込み、カジキのステーキです」
うっ、前菜二皿、食べなきゃ良かったかも。カジキのステーキ、わらじなみだ。これに、パンが付いてくる。
「さぁ、食べようぜ!」
ジャスは、大きなビッグボアのステーキをガシガシ切って、食べていく。
ルシウスのビッグエルクの煮込み、玉ねぎやにんじんが入ってて、美味しそう。
「魚だぁ! 美味しい!」
一口食べて、涙が出そうになったよ。修道院の質素な食事よりは、お城の使用人の食事や輿入れ行列の食事はマシだったけど、あの頃は味わう心の余裕がなかったから。
「変な奴だな!」
ジャスが無意識に、頭に手を置いて、ぽんぽんする。
「ジャス、手が無くなっても良いのか?」
今回は、魚が美味しかったから許すけど、毎回は駄目だぞ! 第一、大男は力が強いから、背中とかバンバンされたくない。
それに、肉体接触は誰にも許さない態度を貫かないと、女だとバレたら困る。
それより、カジキのステーキだけど、デカい! つまり、このカジキってのも凄く大きいって事だよね。
海老とかないかな? 海亀、毎日スープにしていて絶滅しないのだろうか?
「美味しかった!」
食べられるかなと不安に思う大きさだったけど、完食です。魔法と力仕事で、腹ペコだったからね。
「アレク、綺麗に食べるな?」
ジャスが褒めてくれた。修道院育ちだけど、祝日はナイフとフォークで食事していたからね。
「ルシウス、いつ頃になったら、奴隷のお金が貰えるんだろう。それが貰えたら、
ルシウスとジャスと護衛しながら
「彼奴ら、これまでも新人を襲っていたようだから、尋問が長引きそうだ。でも、奴隷落ちは確定だから、一週間もかからないと思うぞ。その頃、
なるほどね! では、それまで私はお仕事して、皮の胸当て、ブーツぐらいは買っておきたい。
「護衛任務で必要な物は無いのか?」
これも知らないから聞いておく。
「食事は、商隊が出してくれるが、酒は無いぞ! 夜警の当番が終わった時に飲みたいなら、自分で用意しなくちゃいけない。エールを樽で買って荷馬車に乗せて貰えたら良いんだが……」
ジャス! それ必要な物? いや、必要だろうけど、一番目に言う必要はないよね。
「
そう! ルシウスの様なアドバイスが欲しかったんだ。
「食べ物なら、魔物を狩れば良いだけだ!」
ジャス、塩とかないと食べにくいと思うよ。
「水は、最低限は常に持っておけ!」
だよね! ルシウスの方を信じよう。
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