第15話 交易都市で買い物をしよう!

 冒険者ギルドで、ビッグボアの買取り値段が思いがけず高かった。嬉しい!

 それと、魔石! サーシャ、これまで修道院長に真面目に渡していたけど、一つ三銀貨クランになった。

 アイテムボックスにあと二個あるんだよね!


「こんなに綺麗に解体する技術を持った冒険者なんて、なかなかいないと解体部が感心していましたわ。これからの期待を込めて五銀貨クラン支払います。魔石は三銀貨クラン。下級薬草は五銅貨ペニーです。それと、これは中級の冒険者証です」


 お金と冒険者証、そしてレッドウルフ達の武器が入った背負い籠を受け取る。

 荷車は、門に返してくれたし、ここからは買い物タイムだ。


 ルシウス達と護衛任務について防衛都市カストラに行っても良いが、こちらは追っ手持ち! 奴隷の代金を受け取ったら、さっさと交易都市エンボリウムからおさらばしたい。


 そのお金で、馬車代は賄えるだろうからね。

 それにしても、私の装備、すごく貧しい。服は、城の兵士のだし、靴は修道女見習いのサンダルだ。だって、お姫様の嫁入り靴を履くわけにはいかないからね。


 兵士のブーツ、手に入れたかったなぁ! なんて愚痴っても仕方ないから、背負い籠の中の武器を調べる。


「おぃ! 飯を食おうぜ!」

 ジャスは、やっと肩を叩いたり、頭を叩こうとするのをやめた。

「今日は酷い目に遭ったから、奢ってやるぞ」

 ルシウス、昨日は冒険者になった日だからと奢ってくれた。

「いや、今日は収入があったから、奢ってもらわなくても良い。それより、相談に乗って欲しい」


 取り敢えずエールを一気飲みして、喉の渇きを癒す。仕事終わりのエール、生ぬるいけど癖になりそう。


 人心地ついたので、二人に背負い籠の中の武器を見せて、どれを自分で使い、どれを売るべきか尋ねる。


「アレクは魔法使いだろう? 武器より杖じゃないのか?」

 この二人、魔法使いには詳しくなさそう。私もだけどさ。

「そうだ! 杖を持っているのを見た気がする」

 ジャス、本当かな? それにしても南の大陸では、魔法使いも少ないのかな? 修道院では、弱い魔法なら、使える人が何人かいたけど。


「これからは神聖魔法は極力使わないようにすると決めた。身体強化ができるから、ナタか手斧が欲しい」

 サーシャは、ナタを使ってビッグベアを倒していた。


「ナタ? 農民じゃあるまいし! 冒険者なら、せめて斧にしろ!」

 ジャスがぶつぶつ文句を言う。


「アレクは、これまではナタを使っていたのか?」

 ルシウスも怪訝そうだ。

「そんなにナタは駄目なのか? ビッグベアもナタで倒したのだが? まぁ、薪を取りに森に行って遭遇したのだけどさ」

 

 二人が、ボソボソ話している。地獄耳だから、丸聞こえだよ。


「あの顔でナタはないだろう! ビッグベアを倒すのか?」

 これはジャスの意見だ。

「だが、斧も似合わないぞ!」

 ルシウスも酷い!


「魔法使いの武器なら、弓とかもあるぞ。後衛だから、遠距離攻撃が良いんじゃないか?」

 ルシウスの提案は、一理ある。防衛都市カストラに行ったら、もっと凶暴な魔物もいるかもしれない。サーシャは細身だから、後衛タイプだよね?


「弓ねぇ……使った事がないんだよなぁ。それに、矢が勿体無い気がするんだ」


 剣とか槍とか斧だって、ある程度の戦闘をしたら手入れをしなくてはいけない。

 それに、折れたり、欠けたりしたら、買い替えなくてはいけないのも、何となく知っている。

 でも、弓は矢がないと駄目なんだよね。私は、アイテムボックスがあるから、矢をいっぱい入れておけるけど、怪しまれそう。


「そんなケチなことを言っていると、女にモテないぞ! 交易都市エンボリウムの色街は、金持ちの商人が幅をきかせている。でも、防衛都市カストラでは、冒険者がモテるんだ!」

 

 ジャス、この話題になると熱弁を振るうけど、全く興味がないし、不愉快だ! それに、モテているのではなく、冒険者の金が目当てだと思うよ。


「ジャス、色ボケの話はやめろ! 兎に角、武器を見てみよう」

 ルシウスが背負い籠の中の武器を一目見て、顔を顰めた。

「酷い物ばかりだ! 一応は銅級なのだろう? 安いのは仕方ないが、手入れもされていない。アレク、全部売ってしまえ!」


 そうか、やはりね! 何となく見た目も汚いし、手入れ不足だと感じていたよ。


「売る前に綺麗にしたら、買取り価格もマシになるかな?」

 ルシウスが「勿論!」と頷くから、背負い籠の中の武器に「浄化ピュリフィケーション」と掛けておく。ピカピカになったよ。

 

「さっき、神聖魔法は使わないと言っていたんじゃないのか?」

 ジャス、覚えていたんだ。色街好きは、嫌いだけど、見た目より賢いな。


「この程度の魔法なら大丈夫な気がする。大きな神聖魔法は、髪の毛が伸びる呪いが発動しそうだから、できるだけ使わないようにするのさ」

 命が掛かっている場合は、髪の毛が伸びようが使うよ! 髪は切れば良いだけだからね。


「それに、今はもう伸びているしな! その布、売りに行く前に取った方が良いぞ。不審者に思われるからな」


 ルシウスに言われて、渋々、ターバンを取る。銀色の長髪がサラサラと落ちる。


「おおお!」とギルドが騒めいたけど「男殺しのアレクだぞ!」と誰かが声をあげたら、シーンと静まった。この二つ名、絶対に定着して欲しくない。


「ほら、冒険者証の紐と、髪の毛を括る紐だ! どうせ、お前のことだからポケットに入れているのだろう」

 ジャス、もしかして、本当にモテるのかも? 細かい所に気が回るタイプに見えなかったよ。


「ありがとう! 早速、使わせて貰うよ」

 冒険者証の穴に細い方の皮紐を通し、括って輪にして首から下げて、服の中にしまう。少し太い革紐で髪の毛を、ざっと後ろで括っておく。


「うおぉぉ!」さっきより小さいけど、ギルドが騒めく。何故だ? またも誰かが「男殺しのアレクだぞ! 騙されるな!」と声を上げる。


「誰が男殺しだ!」と怒ろうとしたが、ルシウスが「買い物に行こう!」と席を立つ。

 私は、好戦的な人間じゃないし、前世では人を殴った事もないと思う。だから、喧嘩を避けて、買い物だよ。


「アレクは喧嘩っ早いな」

 えっ、ジャス! 少しは気が効くと見直し掛けたのに! やはり、残念な大男だよ。

 

「俺たちがよく行く店に行こう。あそこなら、まともな武器がある」

 交易都市エンボリウムの事は、冒険者ギルド、海亀亭トゥラトゥラしか知らないから、ついて行く。


 ふと、魚を行商している男とすれ違った。

「あああ、魚だぁ!」

 私は、馬鹿だ! エンボス島でも干し魚を売っていたけど、あの時は早く逃げなきゃと必死だった。


「何を叫んでいるんだ?」

 ジャスにまで不思議がられたよ。サーシャの住んでいた町もお城も内陸だったんだ。

 海亀スープを飲んだのに、本当に馬鹿じゃない!


防衛都市カストラは海沿いには無いよな!」

 女神様クレマンティアから貰った知識では、内陸だった。


「ああ、それが? 武器屋に行こうぜ!」

 魚は、武器、馬車代、装備を買ってからにしよう。


「なぁ、今夜は魚が食べたい!」

 これだけは言わせて貰おう!

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