第14話 男殺しのアレク

 森から抜けると、仕事を終えた冒険者達とすれ違う。

「おい、お前! それは何だ?」

「見て分からないなら、口を出すな! 黙っていろ!」

 怒鳴り返したら、後ろの背負い籠の中のビッグボアと、突き刺している五本の剣や短槍などを見て、口を閉じた。


 門の兵士は、黙っていなかった。

「お前、そいつらに何をした!」

 ここまで黙って、三番目を引っ張っていた二番目が裏切った。やはり森に置いてきたら良かったよ。


「この男が、私たちパーティを襲ったのです」

「はぁ? 殺すぞ!」

 殺気を込めた視線を送ると、ビビって失禁する。


「その男の言うことは、本当なのか?」

 兵士は、門に待機していた他の兵も呼んで騒ぐ。

「本当の訳が無いだろう。それなら、森に置き去りにしたらお終いなのに! コイツらが襲ってきたから、返り討ちにしただけだ。冒険者ギルド内の争いに口を出すのか?」

 門から出てきた隊長らしき男が、プッと噴き出す。


「こんな小僧に大の男が五人がかりでやられたのか? ギルド長のガンツに任せるさ。通って良し!」


 いや、良しと言われても、街中を五人を引っ張って歩くのは困まる。

「荷車を貸してくれないか?」

「返却しろよ!」と言いつつ、兵士に荷車を持って来させる。


 その間に、裏切り者の二番目に罰を与えておく。

「お前、裏切ったな!」

 若いから見逃してやろうと思った自分の甘さに腹が立つ。思いっきり、回し蹴りしておく。


「なかなか、良いキックだ!」と隊長が手を叩いている。

 荷車に、どんどん乗せて、引っ張って行く。見物人から、何故か拍手が湧いた。手伝えよ!


 交易都市エンボリウムの人々が驚いて見ているが、声を掛ける馬鹿はいなくて助かった。


 冒険者ギルドには、他の冒険者達が先について、あること、無いことを言って騒いでいた。


「おおぃ、アレク! またまた目立っているぞ」

 ルシウスに笑われた。

「あああ、森に捨ててきたら良かった!」

 追っ手持ちなのに、こんなに目立って! 自分の甘さが憎い!


 幸いなのかギルド長、ガンツにも話が伝わって、外まで出て来る。

「アレク、そいつらは『レッドウルフ』の連中か?」

 回し蹴り、本当にもう少し練習しなくちゃな! 二番目が目を覚まして、捲し立てる。


「ギルド長、コイツが俺たちを襲ったのです」

 ふぅ、腹が立つ!

「そう、コイツは言っているが?」

 証拠はないけど、私は神聖魔法使いだ。


汝の罪を告解せよコンフェッシオ!」

 金色の光に包まれた二番目は、ペラペラと自分の罪を話しだす。


「ボスはいつも有望な新人が現れると、『レッドウルフ』に勧誘するんです。断る馬鹿は、金を取り、殺して森に捨てます。コイツは、顔が綺麗だから、やってから男娼館に売ろうと思ったのですが、化け物みたいに強くて!」


 口を押さえて、話すのをやめようとするけど、止まらない。


「ははは、これは便利な魔法だな。それに、このところ新人が消えた事件の解決になりそうだ」

 ギルド長の笑顔、悪夢になりそう。


「牢に繋いでおけ! 尋問して、全ての罪を暴くぞ!」


 さて、これで私は自由だな。ビッグボアと下級薬草を買い取って貰おう。

 中に入って、精算をして貰おうとしたが、ギルド長に捕まった。


「アレクには聞きたい事がある。ああ、その獲物や薬草は、買い取らせておく」


 またギルド長の部屋に連行されそう。

「あっ、ついでにこの荷車、門に返して下さい」

 話が長くなりそうだから、頼んでおく。


「俺も一緒に話を聞いてやるよ!」

 ルシウスは、面倒見が良いのかな?

「俺も!」

 ジャスは、絶対、面白がっているだけだ!


 ギルド長は二人を睨んだが、良いだろうと頷いた。

「彼奴らの武器と金、取り上げたけど、出した方が良いのか?」

 コソッとルシウスに質問する。

「彼奴ら、前から目を付けられていたのさ。どうせ、奴隷落ちだから、武器も金も要らないさ! 貰っておけ!」


 ふぅ、南の大陸は奴隷が多いとは聞いていたけど、本当だった。

 まぁ、二番目の告白した罪は、北の大陸でも犯罪奴隷落ちか、死刑だけどね。


 今日、二度目のギルド長部屋!

「そこに座りなさい」

 今回も話が長そう。パンとオレンジを食べておいて良かったよ。

「アレク、彼奴らを尋問するが、多分、新人殺しの罪で奴隷落ちだろう。その金はお前の物だ」

 ラッキー! これで交易都市エンボリウムとおさらばして、防衛都市カストラに行けるんじゃない? 奴隷の値段が幾らかは知らないけど、馬車代にはなりそう。


 浮き浮きしている私を、ギルド長が睨む。

「一応、お前からも話を聞きたい」

 そうか、やはり森に置いてくれば良かったよ。面倒だけど、説明する。


「つまり、強引な勧誘を断り、彼方が先に暴力を振るおうとしたから、正当防衛だと言うのだな。腕を切り落としたのは、剣を持って攻撃したからか。だが、股間の攻撃が多いのは?」


 ああ、やだ、やだ! 口に出したくも無いよ。

「彼奴らが、私に欲情したから、成敗しただけです!」

 何故か、横に座っているジャスが股間を押さえている。


「アレクは、女神様クレマンティアの愛し子なのか? 髪の毛が伸びているぞ」

 ギルド長の言葉で、思わずターバンに手をやる。チッ、布から長い銀髪が溢れ落ちている。


「クソッ! 女神様クレマンティアの呪いだよ!」

 全員が、ギョッとした顔になった。不敬だと思ったのかも? 知らないよ!


「アレク、その髪が伸びるのは、神聖魔法を思いっきり使ったからじゃ無いのか? ギルドに着いた時は、布から髪の毛は出てなかったぞ」


 目から鱗だよ!

「ルシウス、そうかも! これからは、思いっきりの神聖魔法を使うのをやめよう! そうしたら、髪の毛が伸びる呪いから開放されるかも!」

 やったね! 南の大陸も、これから夏だ。もっと暑くなるのに、布を頭に巻くのは蒸れそうで嫌だったのだ。


「いや、そんな問題では無いだろう。女神様クレマンティアの愛し子なら、聖皇国からお迎えがくるかもしれない」


 ゲッ、女神様クレマンティアがクソと呼んでいた聖皇国! 絶対に関わりたくない。ギルド長を睨みつける。


女神様クレマンティアの愛し子ではありません! それに聖皇国なんてクソには近づいてはいけないと、キツく言い聞かされていますから」

 

 全員から『愛し子』だろうという目で見られたけど、シラを切り通す。


「兎も角、彼奴らの尋問が終わるまでは、交易都市エンボリウムに居てくれ。それと、アレクは銅級に昇級だ。本当なら、銅級五人を成敗したのだから、銀級でも良いぐらいだが、一気に上げるのは良くないからな」


 何とかギルド長との話し合いを終えて、下に降りたら『男殺しのアレク』と聞こえた。

 はぁぁ、早く交易都市エンボリウムを出たいよ。

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