第12話 お仕事中なのに馬鹿が湧く

 ジャスが邪魔な冒険者達をぶっ飛ばしてくれたので、依頼票が貼ってある場所に行く。

 初心者用の依頼、本当にしょぼい。銅貨ペニー五枚とか、これじゃ暮らせないよ。

 海亀亭トゥラトゥラの泊まり賃、半額にしてもらっているけど、一銀貨クラン! あああ、指を繋げるのもっと貰っても良かったかも?


 交易都市エンボリウムは、物価が高いのかな? 受付に教えて貰った安宿、雑魚寝は嫌だから却下したけど五銅貨ペニーだった。

 つまり、冒険者は少なくとも二個以上、いや三個ぐらいの依頼をこなさないと食べていけないのだ。


「兎に角、仕事だ!」

 薬草採取、どこに森があるのかも知らないけど、初級の所に貼ってあるぐらいだから、近いのだろう。後で受付のお姉さんに聞こう!


「薬草だけでは、宿代も払えないな……魔物討伐かな?」

 初級の魔物、モグラ系とかリス系とかウサギ系だね。

 これは、見つからないと困るから、薬草採取の紙だけ取って受付に並ぶ。


「この薬草採取とか、茶色の紙に書いてある依頼は、常設依頼ですから、剥がさないで下さい」

 うっひゃ、恥ずかしい! うん、でも気を取り直して質問しよう。

「この薬草だけど、交易都市エンボリウムの近くでは何処に生えているとか、魔物の分布図とかありますか?」

 

 初心者丸出しの質問だけど、受付のお姉さんは、親切に教えてくれた。昨日もちゃんと聞けば良かったな。


「二階の資料室に薬草の分布図、それと魔物の生息域の図があります。でも、魔物は何処に現れるか分かりませんから、気をつけて下さい」

 

 そりゃ、そうだね! 気をつけよう。


「それと、薬草採取している時に魔物が出たら、討伐したいのですが、それって初めから依頼を受けていないと駄目なのでしょうか?」


 それも、常設依頼がある魔物は、討伐後からでも大丈夫みたいだ。


「あのう、背負い籠とか売っていませんか? それか貸して貰えると嬉しいのですが」

 背負い籠が無くても、アイテムボックスがあるけど、余計目立ちそうだからね。


「背負い籠のレンタルはありますが、当分の間、薬草採取をするなら買取りの方が安いですよ」


 レンタルは一日二銅貨ペニー! 高くない? 買取は十銅貨ペニー、安くない?


「初心者は背負い籠を捨てて逃げ帰る時もあるから、レンタル料も高いのよ。勿論、返却しなかったら十銅貨ペニー貰うわ」


「えっ、それなら買取りの方が良いのでは?」


 受付のお姉さんが、くすくす笑う。なかなか可愛いんじゃないかな? 私が男の冒険者なら、めろめろになったかも。


「その十銅貨ペニーが惜しいと思うのよ」


 ふうん? あれ? では、籠を弁償できないのでは?


「それは大丈夫! 冒険者ギルドが責任を持って、払える仕事を斡旋しますから」

 にっこり笑うけど、怖い! どんな仕事か、聞きたいような、聞きたく無いな!


 背負い籠を十銅貨ペニー出して購入する。


「不要になったら、五銅貨ペニーで買い取ります」


 早く不要になりたいけど、魔物討伐しても必要なのでは? 疑問が顔に出ていたみたい。


「中級になれば、パーティを組んで、初級や子どもを荷運びに雇います。背負い籠に入らない様な大物を討伐する時は、荷車をレンタルしますね」

 

 マジックバッグとか無いのかな? あれば、誤魔化して使うんだけどさ。女神様クレマンティアの知識では有るみたいだけど、その貴重性が分からないよ。


 二階の資料室で、薬草が生えているエリアをチェックする。

「よし! お仕事を始めよう!」


 背負い籠を背負い、その中に背嚢を入れて出発だ。

 多分、冒険者達が向かっているのが森に向かう門だろう。


 ぞろぞろ歩いている後ろをついて行く。正解! 門には兵士が二人立っているけど、出て行くのはノーチェックみたいだね。


 今朝は髪を切った。ギルドを出てから、頭に布をターバンみたいにぐるぐる巻きにしている。伸びてきても、変に思われないようにね! 


「そこの変な頭の奴! こっちに来い!」

 えっ、ターバンってないの? そんなに怪しいのかな?


「何でしょう?」

 ここは、逆らわないようにしよう。

「身分証を見せろ!」

 へぃへぃ、あっ、まだ紐を通していないから、ポケットから出すふりをしてアイテムボックスから出して見せる。


「冒険者か? 見ない顔だと思ったら初心者か! 森に行くなら気をつけろよ」

 良かった! やはり身分証は必要だな。


 門を出たら、少し向こうに森が見えた。鑑定レベルアップのチャンスだね。

 サーシャは、よく薬草採取をしていたけど、私はほぼ寝ていたからさ。


 ビクビクしながら、森に入る。獣道ならぬ冒険者道があるから、歩き易い。

「でも、皆が歩いている場所に薬草とか生えているかな?」

 手当たり次第、鑑定を掛けながら歩くけど『雑草』としか出ない。


「もしかして、鑑定レベルが低いからかも?」

 雑草という草はないって聞いたことがあるもん。レベルアップしたら、オオバコ、タンポポ、エノコログサ、カラスノエンドウ、オオイヌノフグリとか種類も出るかもね。


 まぁ、今は薬草だよ! 薬草も下級とか中級とか上級とか特級とかあるみたい。森の浅いここら辺にあるのは、下級と中級だね。


「一本、見つけたら、サーチできそうなんだけどさ」

 もっと奥に行かなきゃ、取り尽くされているかもね。


 ちょっと鑑定を掛けるのを中断して、奥へと進む。

「うん、良い感じ! 木漏れ日が気持ちいいな」

 森って暗いイメージだったけど、所々は木が生えてなくて、光が差している。


「ああ、そうか! 薪を取ったりするんだ!」

 サーシャもナタを持っていたな。私も買いたい! その為にも薬草を探そう!


「あああ、やったぁ! 下級薬草だ!」

 やっと下級薬草が鑑定で見つかったよ。

 これは、葉っぱだけで良いと鑑定が教えてくれる。


 ナイフ、これオレンジと一緒に付いてきた奴で、髪の毛を切ったら、かなりボロけてきた。

「これも新しいのが欲しいな」


 もっとお城の備品を貰ってくれば良かったよ。しみじみ、そう思う。


 ここら辺には、下級薬草があちこちに生えている! ラッキー!


 こちらが真面目にお仕事をしているのに、馬鹿が現れた。馬や鹿なら、食べられるのにね!


「おい、お前! 俺たち『レッドウルフ』のメンバーにしてやる! ありがたく思え」


 ああ、馬鹿は嫌いだよ。

「俺は、入らない!」

 ハッキリ断ったのに、言葉が通じない。ウルフどころかイヌでも勿体ない馬鹿だな。


「こちらが入れてやると言っているのだ! 素直に従え!」

 この喚いている赤毛がボスなんだろう。ジャスにも絡まれたけど、まだ学習能力がある。


「もうすぐ銀級になる俺達の仲間になれるんだぞ!」

 もう一人の赤毛、ボスに似ているから弟かな? どうでも良いけどさ。


「つまり、今は銅級なんだな。兎に角、邪魔だから退いてくれ! お前の足で下級薬草を踏んでいるぞ」

 

 チームを組むのを断ったし、仕事の邪魔だから退けてくれと頼んだよね? なのに、怒って殴り掛かる。温厚な私でも怒るよ!

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