第11話 冒険者ギルドで

 交易都市エンボリウムで思いっきり目立ったから、早く防衛都市カストラに行きたい。

 海亀亭トゥラトゥラの玄関に馬車の出発日時と値段の紙が貼ってあった。かなり日焼けしているから、正確かどうかはわからないけどさ。


 ううん、防衛都市カストラに行く馬車の値段、高すぎない? アイテムボックスの中の小銭、全て使えば乗れないことはないけど、生活資金が無くなるのは困る。


「ルシウス、ジャスは防衛都市カストラに行った事があるのか?」

 海亀亭トゥラトゥラの朝食の席で聞く。タダで情報が得られる機会は逃さないようにしよう。


「ああ、ここに来る前は防衛都市カストラにいたのさ。交易都市エンボリウムに来る商人の護衛で来たんだ。まぁ、ここは楽で良いが、金を稼ぐなら防衛都市カストラの方が良い。ダンジョンも周りにいっぱいあるからな! また良い護衛の口があれば移動すると思う」

 

 ルシウスが説明してくれた。ジャスは、口に常に食べ物が入っているから、横で頷いている。


「そうか! 護衛なら、馬車代が浮くのか!」


 良い話を聞いたと喜んでいたら、ルシウスに笑われた。


「アレクは、冒険者になったばかりだろう。護衛は、初心者には受けられないぞ。せめて、中級にならないとな」


 えっ、そんな説明は聞いていない。ギルドの受付のお姉さん、サボったな。いや、ちゃんと聞かなかった私のミスかも。


「知らなかったのか!」

 ガハハハとジャスが笑いながら、私の頭を叩こうとするから、睨んでおく。すぐに手を引っ込めたよ。学習能力はあるみたい。


「説明しておこう。初心者は鉄。ほらアレクの冒険者証、鉄だろう」


 ポケットから出すふりをして、アイテムボックスから出して、見ていると、ジャスが怒る。


「お前、紐を通して首から下げとけよ! 再発行して貰うには、十銅貨ペニー取られるぞ」


 登録は五銅貨ペニーだったのに、再発行は十銅貨ペニーなんだね。


「知らなかった。それに誰も……そうだね。聞かなきゃいけなかったんだ」


 つい、アイテムボックスがあるから、落とすとか考えなかったのだ。


「初心者の鉄、中級の銅。冒険者の殆どは、ここまでだな。上級の銀、特級が金になる。一応、言っておくが、私もジャスも銀だ」


 ふうん、顔役っぽいと感じたのも間違いじゃなかったんだね。


 ジャスが首から下げた銀鎖を服から引っ張りだして、銀の冒険者証を見せびらかす。


「どうやったら、中級になれるんだ?」


 二人は、少し考えている。


「アレクは神聖魔法が使えるから、治療とかで金を儲けた方が早いんじゃ無いか?」


 あっ、なんか馬鹿にされている?


「ビッグベアも倒せるぞ! それに薬草も採れる! 神聖魔法は目立つから、あまり使いたくないんだ」


 二人に爆笑された。昨日、凄く目立ったからね。

 今朝も、頑張って銀髪をハサミで切ったけど、夕方に伸びたら嫌だなぁ。


「この髪、本当に困る。女みたいだと揶揄われるし、目立つからな」

 本当に女神の呪いじゃないかな? あっ、もしかして男装していると、子どもを産まないと怒っているのか? 今は、食べていかなきゃいけないのに困るよ。


「もったいない! あんな綺麗な銀髪なのに!」

 リリーが食後のお茶を運んで来てくれた。

 昨日の夕方、長く伸びた銀髪を見ているからね。


「ううむ、売れば良いのでは? 貴族や金持ちは、銀髪のカツラを被ると聞いたぞ。貧乏な娘は髪の毛を売るそうだ。それを漂白してカツラを作るんだってさ」

 

 ジャスらしくないお洒落関係の話だ。驚くよ!


「ハハハ、ジャス! お前、防衛都市カストラにやたらと帰りたがるのは、花街の姉ちゃんが恋しくなったからか。ルミエラちゃんは、そういえば格好良いカツラを被っていたな」


 花街! やはりあるんだね。


「嫌だ! スケベ!」

 リリーちゃんが怒って、台所に行った。


「おぃ! リリーの前で!」

 二人を叱ったら、しまった! って顔をしてショゲた。


「髪を売るのは、最終手段にする。それと神聖魔法も! よし、今日から冒険者として頑張るぞ!」

 

 そう思って、冒険者ギルドに来たものの、あの神官を殺した罪に問われたりしないかなと、小心者の私は入るのを躊躇う。


「アレク? どうした?」

 ジャスは、さっさと先に入ったが、ルシウスは、私が足を止めたので、訝しそうに尋ねる。


「あのさぁ、あの神官の件、問題にならないかなぁと今更考えているんだ」


 呆気に取られた顔をした次の瞬間、ルシウスが爆笑した。


「あれは、女神様クレマンティアの天罰だ。お前を罪に問う者はいないさ」


 あっ、そういう感じなんだね。ホッとしたけど、次の言葉で逃げ出したくなった。


女神様クレマンティアの愛し子だとバレているから、パーティ勧誘が激しいぞ! 覚悟して入るんだな」


 あああ、頭を抱えてしゃがみこむ。髪の毛が伸びなきゃ、バレなかったのに! いや、全力でシラを切ろう。


「よし! 今日から冒険者として頑張るぞ!」

 気合いを入れて、冒険者ギルドに入ったら、一瞬、ざわめきが消えた。全員の視線が集まる。


「おお、そこのアレクとやら、こちらに来い!」

 偉そうな爺さんが手招きしている。服装も高そう、腰の剣も凄く切れ味が良さそう、何だか強そうなオーラがある。


「ギルド長! アレクは俺たちのパーティに入る約束です」

 えっ、ルシウス? そんな約束してないぞ。


「そうか、ならルシウスとジャスも一緒に来い!」

 うっ、この爺さん、私の返事なんか聞いてない。ギルド長って、そんなに偉いの?

 サーシャが住んでいた町のギルド長、お掃除や草むしりを率先してしてやっていたけど?


 二階に上がる階段の途中で、ルシウスが「ギルド長は、元金級だから、逆らうと怖いぞ!」と小声で素早く教えてくれた。

 ふうん、金級がどれ程強いのかも知らないけど、きっと私の数倍は強いのだろう。大人しくしておこう。


 ギルド長の部屋は、大きなデスクと応接セットがあった。

「私は、ここのギルド長をしているガンツだ。そこに座りなさい」

 立ったままで終わる話じゃないんだ。嫌だなぁ。


 何故か、私を挟んでルシウスとジャスが座る。大男二人に挟まれて、ちょっと窮屈だ。

「ふうむ、アレクは冒険者登録したばかりなのに、銀級の二人とパーティを組むのか? まぁ、ただの初心者ではないのは明らかだが、少しは自分で努力しないと文句を言う馬鹿が出るぞ」


 ムカッ! パーティなんか組んでない! と言い返そうとしたけど、ルシウスに足を踏まれた。


「まぁ、それはアレクが考えているでしょう。防衛都市カストラへの護衛を一緒に受けられるようにすると朝食の時に話していましたから」


 まぁ、そうとも言えるね。それに、下の冒険者達の勧誘合戦に巻き込まれるのは、ちょっとね。


「ああ、中級になるつもりです」

 それがどのくらい大変なのかは、わからないけどさ。


「アレクは、神聖魔法が使えると申請してある。ギルドの治療を引き受けてくれたら、少しは配慮しよう」


 ああ、やっぱりね! 神聖魔法は書かなきゃ良かったかな? 身体強化だけで申請すれば良かった。


「私の神聖魔法は、一日に一人か二人しか治療できませんよ」

 一応、言っておこう。


「それで十分だ! 南の大陸には神聖魔法使いが少ないのだ」

 それは感じていたよ。初めからやり直したい。

 大人しく、ジャスの揶揄いを受け、ルシウスの揶揄いも我慢して、冒険者登録では身体強化だけ申請する。

 追っ手がいるのに、目立ちすぎている。馬鹿だ!


 肩を落として、下に降りる。どばぁと取り囲む冒険者達をジャスが手でぶっ飛ばす。


「アレクは、俺たちとパーティを組む! 文句がある奴は、俺とルシウスが相手だ!」

 はぁぁ、昨日よりレベルアップして目立っている。

 それに、ギルドのあちこちで『神の愛し子』とか囁かれている。

 早く、防衛都市カストラに移動したい!

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